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私は、私なりに。

作者: シモンヌ

「女は子宮で物を考える。」

 もう何年も前に私が当時の職場の上司に言われた言葉である。休憩室で他愛の無い雑談の中で突如飛び出した上司の言葉。何故だか全然いやらしさを感じず、大人の事情のような何かしら深い含みを感じたのだった。


「それはどういう意味?」

と上司に問い質した私はまだ若かった。上司が何と答えたのかまったく覚えていないのは、恋愛経験にしろ社会経験にしろ、すべてにおいての経験値が低かったゆえにピンと来なかったのだろう。


 それから何年か経ち、いろんな出会いと別れを経験していくうちに私なりの考え方の方向が見えてきた。

 そして何か物事を考えなければならない直面に立たされるたびに、昔聞いた上司のあの言葉を思い出すのだが、それでも“子宮で考える”という言葉の意味は見えなかった。


 つい数日前、私は付き合っている男に別れを告げた。彼にとってみたらそれはあまりにも突然の出来事だったと思う。前日まで楽しいデートの時間を過ごし、お互いの愛を確かめ合っていたのだから。しかし私は愛を知れば知るほど、ある願望が日増しに強くなっていくのを感じていた。


 この人の赤ちゃんが欲しい。

 この人の赤ちゃんだったら産める。


 私たちの交際にこの願望はタブーなのである。それまではただ自分の欲望を満たしたいという気持ちが強かったおかげで、ケンカもせずに付き合ってこれたのだけど。赤ちゃんが欲しいと思った瞬間から、それまでなんとも思わなかった彼の背景に対して激しい嫉妬を覚えた。


 彼が道行く美人を目で追ったことに対して抱いた嫉妬は消え、彼が時折話す彼の家族に対して激しい嫉妬を抱いてしまったのだ。


 私たちが築いた楽園で、先にリンゴを食べたのは私。


 私は今日髪を切った。

 髪が少し短くなってスッキリした自分の顔を鏡で見ながら、再び上司の言ったあの言葉を思い出した。その瞬間、鏡の中の私がにじんで見えなくなった。

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