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新宿のネコ  作者: Shellie May
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【お詫び】


え~、昔は赤十字センターでAIDSの検査もしてくれて、結果も知らせてくれたと記憶しておりますが…何せン十年前の記憶です。(^_^;)


現在は、HIV検査って…献血センターでは結果は教えてくれないそうで…検査の為に献血しちゃ駄目だと謳ってます。

そりゃそうだよね…。|( ̄3 ̄)|

HIV検査は、保健所でやってくれるそうで…全国巡回の無料検査があるらしいです!

その場でわかる簡易検査も有るけれど、一番安心できるのは、疑いの有る日から3ヶ月以上してからの検査だそうで…2週間位で結果がわかるらしいです。

行為後直ぐにはわからない…3ヶ月経たないとキャリアかどうか確実にわからなんて…ドキドキしながら待つのは耐えられないと思います(ToT)

怖いですね…自分の身は、自分でしっかり守りましょう!

((((;゜Д゜)))

「健司…お前、俺の跡を継ぐ気は無いか?」

兄貴がそう言い出したのは、俺が総長になってすぐの頃だった。

「冗談止めろよ!?何で俺が…。」

「度胸も有る、力も統率力も申し分ねぇ…何より、そのカリスマ性…極道の親分ってのはなぁ、子分達に惚れられなきゃいけねぇ…命懸けの仕事だからな。お前には、その器量が有る。」

年の離れた腹違いの兄貴は、親父の死後も、親父の妾だったお袋が病に倒れて死んだ後も、俺を息子の聡同様の扱いで面倒を見てくれていた。

「止めろ、気色の悪い…大体、跡取りなら聡が居るだろうが!?」

「お前もわかるだろう?アレは、極道には向いて無い…嫌ってるしな。」

聡が嫌っているのは…極道という職業もそうだが、艶福家としての父親に対する反抗だろう。

聡の小さな頃に離婚して以来正妻を持たない兄貴には、常に数人の愛人が居た。

それでも、聡以外に決して子供を作ろうとはしなかった。

「まだ、わかんねぇだろ?」

「わかるさ…アレは極道の上に立つ器じゃねぇ。」

「じゃあ、他に子供作りゃいいだろう?産んでくれる女は星の数程居るだろうが!?」

「なぁ、その気はねぇか?」

「ねぇよ…絶対にな…。」

暴走族に入ったのは、高校時代に付き合っていた女が、他の男に乗り換えて振られたという陳腐な事がきっかけだった。

自暴自棄になった『柴犬』が『狂犬』となり、狼の群れのボスになって『(ファング)』と呼ばれる様になった。

だが、俺が族の総長等になったのも、多分佐久間の名前による影響が大きい。

…そんな俺に、死んでも付いて行くと言ってくれる仲間が大勢いるのも事実だ。

兄貴ばかりでは無くそんな仲間迄もが、密かに俺が佐久間組に入る事を望んでいる。

もし俺が組に入ったら…俺が佐久間の組を継ぐ立場に立つと知れたら…一体何人の仲間が佐久間組に入りたいと言って来るか…。

少なく見積もっても…15、20は下らないだろう。

未成年の暴走族では無い…本物の極道の世界に、それだけの人間を引き摺り込む恐怖…。

未成年の暴走行為で、若い頃に馬鹿な事をしていたと思い出を語る事の出来る、全うな人生を仲間に送って欲しいと思う。

…何より仲間の子供達に、親が極道者だと後ろ指を指される様な思いを…自分と同じ思いをさせる訳にはいかなかった。

20歳を前にして、スッパリと族から足を洗い、専門学校を経て警察官になった時には、仲間も兄貴も、裏切られた感が強かったに違いない。

だが、それでも慕ってくれる仲間は多く、兄貴も『お前の人生だ』と言って理解を示してくれた。

跡目の話が再浮上したのは、俺が警察を辞めてからだ。

既に堅気として大学の助手を勤める聡は、組の跡目には全く興味を示さない…その上、同性と結婚となれば直系は絶える。

最近兄貴が熱心に誘うのは、佐久間の血を絶やしたく無いのか、それとも組の存続の為か?

「…ん…んんっ…。」

温泉から帰って来て日常生活に戻った頃から、ネコは寝ていてうなされる事が多くなった。

夜中に風が吹く音や、特に外に居る人の話し声や足音に敏感に反応し、それらが通り過ぎるまで躰の緊張が解けない。

それは、今迄ひたすら隠していた事を話したせいだ…閉じ込め様としていた記憶が、警戒を怠らなかった生活が、再び鮮明に甦った事に他ならない。

そしてそれは…一番思い出したく無い記憶迄も、鮮明に甦らせてしまった。

「…や……や…だ…。」

油汗を滲ませ寝返りを打ち、息を荒げて眉を寄せるネコに、静かに声を掛けてやる。

「ナオ…ナオ…大丈夫だ、安心しろ…。」

本名を呼ばれる事で少し覚醒しかけ、俺の腕を確認して安心すると、ネコは再び深淵に落ちて行く。

兄貴の言った様に、俺が次期組長となれば、榊がネコを渡す事も、それ程難しい事では無いのかもしれない。

ネコの為には、それが一番いいという事も承知しているが…。

総長を辞めると自分で決めた時、後に残る奴等の事を考えて、永年の抗争相手にも終止符を打ち、仲間も組織化をしてやった事が『伝説』なんて尾鰭を付けてしまった。

そして、いつの間にか『伝説』は独り歩きをし始める…自分の全く知らない後輩迄もが、未だに俺に忠誠心を見せる…若い頃の暴走から未だに脱け出せ無い奴等が、『伝説』に縋る様に俺の回りをうろついた。

中には、佐久間組に入った奴等も居る。

正直言えば、迷惑な話だ…俺に取っては、とっくに過去の話なのだから。

だが結局放って置く事も出来ず、仕事を世話したり自分の仕事を手伝わせ小遣い銭を与える。

「そんな事をしているから、奴等はいつまでたってもお前の傍から離れないんだ!!」

毎度の様に、松田が苦言を吐く。

松田の言う事は正しい…だが、堅気の世界から弾かれながらも、最悪の道にも堕ちきれずギリギリの所で踏み留まっている仲間の何と多い事か…。

「総長に叱って貰えるから、俺達もう少し頑張ってみます!」

そう言って来る仲間を集め、事務所を立ち上げた頃から自警団を作り、新宿の街を見回るボランティアをさせている。

酔っぱらいの喧嘩の仲裁、カツアゲや落書きの見回り、ゴミの清掃…人様の迷惑にならない、ミカジメを取らない、組関係には手を出さない、絶対に法は犯さない…。

少しずつ認められ始めた活動と共に、働きを認められ正規に就職し退団する仲間も出始めたのは喜ばしい限りだ。

実際に自分が活動する訳では無いが、俺が最初に組織したという事で、トラブルや事務的な事等はウチの事務所で行い、仲間達も出入りをしていた。

「柴ぁ、アンタの事務所って警察関係者と族上がり、果ては組関係と賑やかだけど、いくら何でも最近は人の出入りが多過ぎるんじゃ無い?」

年明けから変更された『オフィス柴』と書かれたドアを開け、大勢がたむろう事務所の中を見て、京子が大声を出した。

「原因は、アレだ。」

黒服の一団が応接セットを陣取り、ネコを構っている兄貴の後ろにズラリと並ぶ。

「又来てるんだ…。」

「最近、3日と空けずに来てる。」

「アンタを口説き落とすのを諦めて、ネコちゃん懐柔作戦に変更した訳ね。」

「だろうな。」

「手馴付けられてるの?」

「…どちらかというと、兄貴が…だな。」

「あらあら…。」

「アレは、本質も猫そのものだ。」

兄貴なりの可愛がり方を心得たネコは、ヤクザの組長に臆する事無く対応する様になった。

「美味い物でも食べに行かないか、仔猫ちゃん?」

「行かなーい。」

「じゃあ、洋服を買いに行こう!春物の洋服…渋谷がいいか?それとも原宿か?」

「要らないよ、着る物沢山あるもん…それより、電話番してるの。お兄さん、邪魔しないで!」

「つれねぇなぁ…せめて、正月にやった猫耳付けて向かえてくれりゃあいいのに…。」

「付けてるよ、アレ。」

「何だよ、持って来いよ!」

「駄目ぇ〜。」

呆れた様に2人の会話を聞いていた京子が、声を潜めた。

「何…あのキャバクラみたいな会話!?」

「いつも、あんな感じだ。」

苦笑した俺は、改めて事務所を見回した。

夕方からのパトロールの連絡事項や、見回る商店街のルート等を確認する為、自警団の連中と兄貴の組の奴等で、狭い事務所はひしめき合っていた。

「ネコ、お前欲しい物有るって言って無かったか?」

「無いよ、別に…。」

「ほら…電子辞書欲しいって、この前言ってたろう。」

「…別に…絶対必要って訳じゃ無いし…。」

「それ!それ買いに行こう、仔猫ちゃん!?」

「でも…電話番は?」

「大丈夫だ。お京が来た。」

「…あ〜、ハイハイ。私が電話番致します。行っておいで、ネコちゃん。ついでに、何か美味しいお土産宜しくね。」

「良く言った、サーペントの!期待して待ってな!」

「いや…その渾名は、もう勘弁して下さい…一応これでも公僕なので…。」

ネコは頷き上着を着ると、他に必要な物は無いかと皆に聞いて回った。

「行こう、仔猫ちゃん!」

そう言って肩に担ぐ素振りを見せた兄貴に、ネコはピシャリと言い放つ。

「担ぐの禁止って言ったでしょ!?担ぐなら、もう一緒に出掛けてあげない!」

「わかった、わかった…なら、抱いて行こう。」

「抱くのも禁止!」

ワァワァ言いながら、黒服の一団が事務所を出て行った。

「ともあれ、怖がらずに仲良くやってるみたいで、良かったわ。」

「可愛くて仕方無いんだろうが…あの分じゃ、又嫌われるかもな。それより、お前…何かあったんじゃ無いのか?」

「…音戸沙夜さんの居場所、判明したわ。」

「どこだ?榊の自宅か?」

「ネコちゃんの言ってた通り、入院してた…心臓病らしいわ。」

「どこの病院だ?」

「成城の鷹栖総合病院。でも駄目よ…バッチリ見張りが張り付いてるらしいわ。」

「そうだろうな…お京、当分ネコには黙っててくれ…アレに言ったら、駄目だとわかっていても飛んで行くだろうからな。」

「了解。こっちは平気なの?」

「今の所はな…兄貴が大っぴらに連れ歩くって事は、榊にバレてるんだろう。」

「大丈夫なの!?」

「牽制掛けてるって事だ…佐久間の組長直々のな。この建物なんかも、ガードされてる。」

「え?」

「元警察官の事務所をヤクザがガードしてるなんてな…ありがたくて、涙が出るぜ。」

生活が落ち着き、兄貴にも馴れ、自警団や俺の仕事を手伝う族上がりの奴等とも上手く付き合う様になったネコの最大の敵は、松田だった。

「柴さん…私…検査受けたい。」

「検査?」

「うん…HIVの検査。」

事務所のパソコンの前に座ったネコが、パソコン画面を見詰めたまま言った。

「…お前、前に受けたって言ってなかったか?」

「ネットでね…調べたら、時間が経たないとちゃんとわからない検査も有るって…ちゃんとね…調べたいの。駄目?」

「いや…駄目って訳じゃねぇが…そんなに気にしなくても…。」

「嫌なの!!」

「ネコ…。」

「…嫌なんだもん。」

「…俺の為か?」

「…。」

「だからか、最近キスも嫌がるのは?」

「…だって…粘膜感染…。」

「今更だろう?感染するなら、もう手遅れ…。」

「…嫌ぁ…。」

ネコが顔を覆って泣き出してしまったので、俺は慌てて隣に立つとネコの頭を抱いてやる。

「悪かった…お前の気の済む様にすればいい。多分、松田の所で詳しい検査が出来る筈だ。」

「…松田さんの所?」

「あぁ…嫌か?」

ネコはしばらく考えて、頭を振った。

松田の診療所に連れて行き検査を依頼すると、松田は見下した様にネコを見詰め頭を振った。

「そら見ろ…やっぱりウリをしてたって事だろう!?」

何も言わずに俯くネコに変わり、俺は松田に食って掛かった。

「違う、松田!!ネコは、襲われただけだ!」

「お前…犯られたの、一度や二度じゃ無いだろう?」

ネコの肩が、ビクリと震えた。

松田は薄いゴム手袋をはめると、採血の為にネコの腕をゴムチューブできつく縛りながら言った。

「食事や寝床を得る為に、誘った事も有るんじゃ無いのか?」

「松田…いい加減に…。」

ネコの腕をアルコール綿で拭き、注射器を刺してゴムチューブを外す。

「金も貰ったんだろうが?そういうのを、売春って言うんだ…淫売が!」

ネコは何も言わず…自分の血が抜き取られるのを見ていた。

「松田っ!?」

「柴、いい加減に目を覚ませ!?いつまでこんな奴の面倒見てるつもりだ!」

「大きなお世話だ!!」

「コイツを探し回ってる男達も居るそうじゃないか!?大方どこかの組か、ソイツの客なんだろうが?馬鹿馬鹿しい、お前はいいように騙されているだけだ!」

「いい加減にしろよ、お前…。俺の我慢にも限界が有る…。」

「こんな奴等は、大人を騙す事なんて何とも思って無いだろうよ…お前達はいいように弄ばれて…。」

俺は松田の胸ぐらを掴むと、その躰を壁に叩き付けた。

「黙れ、松田…殴られ無かった事を、幸運に思うんだな!」

床にへたりこんだ松田は、それでもネコを睨み付けて憎々しげに言った。

「…お前のせいで…柴も中学以来の仲間に手を上げる羽目になったんだぞ…。」

「まだ言うのか!?」

「…柴…お京の事…お前、どうするつもりだ?あいつは、今でも…。」

「関係無いだろう!?」

ネコがビクリと痙攣する。

「結果は、2週間後だ。頼むから、とっとと新宿から出て行ってくれっ!!」

松田の悲痛な叫びが響いた。


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