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異世界むなしばなし

イキリ太郎

掲載日:2026/10/06

むかしむかし、あるところに、太郎という若者がおりました。


太郎は、とても気の弱い若者でした。

人と話すときは、いつもうつむいていました。

大きな声で怒られると、すぐに謝りました。

強そうな人が歩いてくると、道のはしによけました。

そんな太郎は、いつも思っていました。



『ぼくも、いつか偉くなりたいなぁ。

みんなが頭を下げるような、すごい男になりたいなぁ』



そんなある日のことです。

太郎が森を歩いていると、目の前に女神さまがあらわれました。



「太郎よ。あなたに、ひとつだけチートの力をさずけましょう」



『チート?』



「ふつうの人にはない、とってもすごい力のことです」



太郎は大よろこびしました。



『それなら、ぼくを誰にも負けない、すごい男にしてください!』



「わかりました」



女神さまが杖をふると、太郎の体が金色に光りました。

太郎は、とてもすごいチートの力を手に入れました。

悪かった頭は良くなり、弱かった力は強くなりました。

その力を使えば、お金をいくらでも稼ぐことができました。


商売をすれば大もうけ。

土地を買えば値上がり。

船を出せば宝物を積んで帰ってきます。

太郎は、あっという間にお金持ちになりました。


同時に、太郎は人が変わった威張るようになりました。

朝、召使いが少し遅れてやってくると、



『おい!

ぼくを誰だと思っているんだ!』



昼、商人が太郎に意見すると、



『きみは、ぼくよりお金を持っているのか?』



夜、友達とお酒を飲んでいても、



『ところで、ぼくが先月いくら儲けたか知っているか?』



朝から晩まで、太郎は自慢ばかりしました。


自分のお金の話。

自分の土地の話。

自分のお屋敷の話。

自分がどれほど偉い人と知り合いなのかという話。



だれかが自分よりよい服を着ていれば、



『それ、いくらしたんだ?

ぼくの服は、その十倍するぞ』



だれかが新しい家を建てれば、



『ずいぶん小さな家だなぁ。

ぼくの馬小屋くらいじゃないか』



だれかが商売に成功すれば、



『そのくらいで喜んでいるのか?

ぼくなら一日で稼げる金額だぞ』



と言いました。

みんなは、



「太郎さんは、すごいですね」

「さすが太郎さんです」

「太郎さんにはかないません」



と言いました。

すると太郎は、ますます得意になりました。



『そうだろう、そうだろう!』



けれども、みんなは太郎がいなくなると、



「また自慢話だったな」

「昔はおとなしい人だったのに」

「できれば会いたくないなぁ」



と言っていました。

もちろん、そんなことを太郎に言う人はいません。

太郎はお金持ちで、とても力のある人だったからです。

太郎の商売は、そのあとも大成功しました。


大きなお屋敷を建てました。

たくさんの土地を買いました。

何百人もの人を働かせました。

王さまとも話をするようになりました。

町には太郎の名前がついた建物までできました。



太郎には息子も何人か生まれました。



『見ろ!

これがぼくの息子だ!

この子たちは、いずれぼくのすべてを受け継ぐんだ!』



太郎は大よろこびしました。

息子たちが大きくなると、太郎は言いました。



『いいか。

世の中で大切なのは力だ。

力があれば、みんな言うことを聞く。

ぼくを見てみろ。

みんな、ぼくに頭を下げるだろう?』



たしかに、みんな太郎に頭を下げました。

太郎はますますお金持ちになりました。

そして、とうとう国でも指折りの大富豪になりました。

太郎の名前は歴史の本にも書かれました。



『どうだ!

ぼくは歴史に名前を残したぞ!

ぼくの家は、これから百年も二百年も栄えるにちがいない!』



太郎は満足しました。

そして年を取り、

大きなお屋敷の立派なベッドの上で、

たくさんの財産と息子たちに囲まれて、

太郎は死にました。



太郎のお葬式には、大勢の人がやってきました。

みんな悲しそうな顔をしていました。

けれども、お葬式が終わると、



「やっと死んだか」



と言う人もいました。



太郎が死んで、しばらくたったころです。

突然、お役人が太郎のお屋敷へやってきました。



「おまえたちを逮捕する」



太郎の息子たちは驚きました。



『なぜですか!』



「いろいろと問題があった」



『いろいろって、なんですか!』



「いろいろだ」



よくわからない理由でした。

太郎が生きていたころなら、こんなことにはならなかったでしょう。

けれども、もう太郎はいません。

息子たちは、昔から太郎と仲のよかった人たちに助けを求めました。



『父上とは親友だったでしょう!

助けてください!』



「いやぁ、仕事で付き合っていただけだから」



別の人にも頼みました。



『父上には、ずいぶんお世話になったでしょう!』



「そうだったかなぁ」



また別の人にも頼みました。



『父上を尊敬していると言っていたではありませんか!』



「あれは本人の前だから言っていただけだよ」



だれも助けてくれませんでした。

こうして太郎の息子たちは、南の孤島へ島流しになりました。

大きなお屋敷は人手に渡りました。

たくさんあった土地もなくなりました。

財産も、いつの間にかなくなりました。

太郎の名前がついていた建物からも、太郎の名前が外されました。


そして、息子たちには家を継ぐ者もなく、

やがて太郎の血筋は絶えてしまいました。


あれほど大きな力を持ち、

あれほどたくさんのお金を持ち、

歴史にまで名前を残したイキリ太郎の家は、

太郎が死ぬと、あっさりなくなってしまったのです。


太郎が生きていたころ、

みんなは太郎に頭を下げていました。


けれども、

太郎そのものを好きな人は、

ほとんどいなかったのでした。


その後、没収された太郎の富は国中に行き渡り、皆の生活は少し良くなりました。

めでたしめでたし。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



本作を見つけて下さってありがとうございます。

小西にこ(蒼き流星ボトムズ)と申します。


色々なジャンルに手を出すのが好きで、今回は童話に挑戦してみました。

多くの作品が連載途中にも関わらず申し訳御座いません。


この場を借りて作品進捗を報告します。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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― 新着の感想 ―
3つの物語の中で唯一成功し、その成功故に破滅した物語 家族を大切にしたのは良い事だが、自身が所属するコミュニティも大切にするべきだったのだろう まるで独裁者の死を見ているかのようだった
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