イキリ太郎
むかしむかし、あるところに、太郎という若者がおりました。
太郎は、とても気の弱い若者でした。
人と話すときは、いつもうつむいていました。
大きな声で怒られると、すぐに謝りました。
強そうな人が歩いてくると、道のはしによけました。
そんな太郎は、いつも思っていました。
『ぼくも、いつか偉くなりたいなぁ。
みんなが頭を下げるような、すごい男になりたいなぁ』
そんなある日のことです。
太郎が森を歩いていると、目の前に女神さまがあらわれました。
「太郎よ。あなたに、ひとつだけチートの力をさずけましょう」
『チート?』
「ふつうの人にはない、とってもすごい力のことです」
太郎は大よろこびしました。
『それなら、ぼくを誰にも負けない、すごい男にしてください!』
「わかりました」
女神さまが杖をふると、太郎の体が金色に光りました。
太郎は、とてもすごいチートの力を手に入れました。
悪かった頭は良くなり、弱かった力は強くなりました。
その力を使えば、お金をいくらでも稼ぐことができました。
商売をすれば大もうけ。
土地を買えば値上がり。
船を出せば宝物を積んで帰ってきます。
太郎は、あっという間にお金持ちになりました。
同時に、太郎は人が変わった威張るようになりました。
朝、召使いが少し遅れてやってくると、
『おい!
ぼくを誰だと思っているんだ!』
昼、商人が太郎に意見すると、
『きみは、ぼくよりお金を持っているのか?』
夜、友達とお酒を飲んでいても、
『ところで、ぼくが先月いくら儲けたか知っているか?』
朝から晩まで、太郎は自慢ばかりしました。
自分のお金の話。
自分の土地の話。
自分のお屋敷の話。
自分がどれほど偉い人と知り合いなのかという話。
だれかが自分よりよい服を着ていれば、
『それ、いくらしたんだ?
ぼくの服は、その十倍するぞ』
だれかが新しい家を建てれば、
『ずいぶん小さな家だなぁ。
ぼくの馬小屋くらいじゃないか』
だれかが商売に成功すれば、
『そのくらいで喜んでいるのか?
ぼくなら一日で稼げる金額だぞ』
と言いました。
みんなは、
「太郎さんは、すごいですね」
「さすが太郎さんです」
「太郎さんにはかないません」
と言いました。
すると太郎は、ますます得意になりました。
『そうだろう、そうだろう!』
けれども、みんなは太郎がいなくなると、
「また自慢話だったな」
「昔はおとなしい人だったのに」
「できれば会いたくないなぁ」
と言っていました。
もちろん、そんなことを太郎に言う人はいません。
太郎はお金持ちで、とても力のある人だったからです。
太郎の商売は、そのあとも大成功しました。
大きなお屋敷を建てました。
たくさんの土地を買いました。
何百人もの人を働かせました。
王さまとも話をするようになりました。
町には太郎の名前がついた建物までできました。
太郎には息子も何人か生まれました。
『見ろ!
これがぼくの息子だ!
この子たちは、いずれぼくのすべてを受け継ぐんだ!』
太郎は大よろこびしました。
息子たちが大きくなると、太郎は言いました。
『いいか。
世の中で大切なのは力だ。
力があれば、みんな言うことを聞く。
ぼくを見てみろ。
みんな、ぼくに頭を下げるだろう?』
たしかに、みんな太郎に頭を下げました。
太郎はますますお金持ちになりました。
そして、とうとう国でも指折りの大富豪になりました。
太郎の名前は歴史の本にも書かれました。
『どうだ!
ぼくは歴史に名前を残したぞ!
ぼくの家は、これから百年も二百年も栄えるにちがいない!』
太郎は満足しました。
そして年を取り、
大きなお屋敷の立派なベッドの上で、
たくさんの財産と息子たちに囲まれて、
太郎は死にました。
太郎のお葬式には、大勢の人がやってきました。
みんな悲しそうな顔をしていました。
けれども、お葬式が終わると、
「やっと死んだか」
と言う人もいました。
太郎が死んで、しばらくたったころです。
突然、お役人が太郎のお屋敷へやってきました。
「おまえたちを逮捕する」
太郎の息子たちは驚きました。
『なぜですか!』
「いろいろと問題があった」
『いろいろって、なんですか!』
「いろいろだ」
よくわからない理由でした。
太郎が生きていたころなら、こんなことにはならなかったでしょう。
けれども、もう太郎はいません。
息子たちは、昔から太郎と仲のよかった人たちに助けを求めました。
『父上とは親友だったでしょう!
助けてください!』
「いやぁ、仕事で付き合っていただけだから」
別の人にも頼みました。
『父上には、ずいぶんお世話になったでしょう!』
「そうだったかなぁ」
また別の人にも頼みました。
『父上を尊敬していると言っていたではありませんか!』
「あれは本人の前だから言っていただけだよ」
だれも助けてくれませんでした。
こうして太郎の息子たちは、南の孤島へ島流しになりました。
大きなお屋敷は人手に渡りました。
たくさんあった土地もなくなりました。
財産も、いつの間にかなくなりました。
太郎の名前がついていた建物からも、太郎の名前が外されました。
そして、息子たちには家を継ぐ者もなく、
やがて太郎の血筋は絶えてしまいました。
あれほど大きな力を持ち、
あれほどたくさんのお金を持ち、
歴史にまで名前を残したイキリ太郎の家は、
太郎が死ぬと、あっさりなくなってしまったのです。
太郎が生きていたころ、
みんなは太郎に頭を下げていました。
けれども、
太郎そのものを好きな人は、
ほとんどいなかったのでした。
その後、没収された太郎の富は国中に行き渡り、皆の生活は少し良くなりました。
めでたしめでたし。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本作を見つけて下さってありがとうございます。
小西にこ(蒼き流星ボトムズ)と申します。
色々なジャンルに手を出すのが好きで、今回は童話に挑戦してみました。
多くの作品が連載途中にも関わらず申し訳御座いません。
この場を借りて作品進捗を報告します。
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