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ヴェルデ・碧の力 —パーティー全員に嵌められ魔族領に捨てられた俺、封印術が覚醒してなぜか魔族に救世主と崇められる—  作者: はやんえでぃ
第9章

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■ 第85話「魔族の願い」

 ノアの家に招かれた。三回目。


 今回は夕食じゃなかった。「お話がある」とノアの母親に言われた。ノアは知らないようだった。


「カイン、お母さんが呼んでるけど何だろう?」


「わからない。行ってみよう」


―――――


 ノアの家に着いた。


 母親が出迎えた。いつもの笑顔。でも少し緊張していた。


「魔王様。今日はお忙しいところ——」


「カインでいいですよ」


「……カイン様。少し、大事なお話があります。奥の部屋で」


 奥の部屋。ノアの両親の寝室の隣にある小さな部屋。テーブルと椅子が三つ。


「ノアはここで待ってて」


「え? あたしは入っちゃだめなの?」


「大人の話なの」


「あたしも大人だけど——」


「待ってなさい」


 ノアが不満そうに廊下に残された。


―――――


 三人で座った。カイン、ノアの父親、ノアの母親。


 父親が口を開いた。顔が真剣だった。


「カイン様。単刀直入にお願いします」


「はい」


「——ノアと、子を成していただけないでしょうか」


 空気が止まった。


「……」


「お願いします」


 父親が頭を下げた。深く。母親も頭を下げた。


「……顔を上げてください」


「お願いします。どうか」


 二人とも必死だった。軽い気持ちで言っているのではなかった。


「……理由を聞かせてください」


 母親が顔を上げた。


「カイン様。魔族の男は戦士として前線に立ちます。百年間の戦いで、たくさんの男が命を落としました。今、魔族の男女比は大きく偏っています。女性の方がずっと多い」


「……ああ」


「種族が生き残るために、強い魔力を持つ男が多くの子を成す。それが——魔族が百年間生き延びてきた方法です」


 父親が続けた。


「文化というより、生き残るための術です。男が少ない。だから一人の男が複数の女性との間に子を残す。そうしなければ、魔族は百年前に滅んでいたかもしれない」


「……」


「魔王様は——カイン様は、魔族の中で最も強い魔力を持っています。ヴェルデの力。前の魔王でも倒せなかったベルグリムを霧散させた力」


 母親が言った。


「カイン様のお子が生まれたら、その子は強い魔力を受け継ぐかもしれない。次の魔王になるかもしれない。——魔族の未来そのものです」


「だからどうか」父親が再び頭を下げた。「ノアと——」


「顔を上げてください」


 俺は二人を見た。


 必死だった。娘を軽んじているわけじゃない。魔族の存続のため。百年間の戦いの中で生まれた、生き残るための文化。


 理解できた。


 郷に入っては郷に従え、という言葉もある。俺はもう魔族だ。角がある。ヴェルデがある。魔王だ。


 でも——


「お気持ちは、わかります」


「では——」


「わかります。魔族の文化も。男女比のことも。魔王の血を残すことの意味も。全部理解しています」


「……」


「でも——俺は、俺の考えで動きたいんです」


 二人が顔を上げた。


「こういうことは慎重にやりたい。ノアの気持ちもある。他の仲間の気持ちもある。——種族の存続のために急いで子を作る、というのは。俺にはまだ、そう簡単には決められない」


 父親が少し黙った。


「……カイン様は、ノアのことをどう思っていますか」


「大切に思っています。それは本当です」


「それだけ、ですか」


「……今は、それ以上のことを軽々しく言えない。言ったら、それは嘘になるかもしれない」


 母親が微笑んだ。少し悲しそうに。でも理解のある微笑みだった。


「……カイン様らしいですね。慎重で、誠実で」


「すみません」


「謝らないでください。——待ちます。ノアも待てる子です」


 父親が頷いた。


「……急かして申し訳なかった。だが——これだけは知っておいてほしい」


「何ですか」


「グラザード殿も、ムルトゥス様も、王都の民も。——みんな同じことを思っている。口に出さないだけだ。魔王の血を、次の世代に繋いでほしいと」


「……」


「俺たちが最初に言っただけだ。みんなが思っていることを」


 重かった。


 魔族全体の願い。魔王の血を残すこと。次代の魔王候補。種族の未来。


 俺一人の問題じゃなかった。


―――――


 部屋を出た。


 廊下にノアが座っていた。壁にもたれて。


「……何の話だったの?」


「……大人の話」


「教えてくれないの?」


「……いつか話す」


 ノアが俺を見た。深い青の瞳。何かを察している目だった。


「……お母さんたち、真剣な顔してた」


「ああ」


「……あたしのこと?」


「……いつか話す」


「……ずるい」


 ノアが立ち上がった。俺の腕を掴んだ。


「何の話でも、あたしはカインの味方だからね。それだけ言っとく」


「……ありがとう」


「えへへ」


 ノアが笑った。太陽みたいに。でもどこか不安そうだった。


―――――


 夜、一人で考えた。


 魔族の文化。生き残るための術。男が少ないから、強い男が多くの子を残す。


 理屈はわかる。百年間の戦いで男が戦死し続けた。女性の比率が高くなった。種族を存続させるために、そうするしかなかった。


 でも——俺は人間として育った。孤児院で。一人で。


 家族の温かさを知らなかった。ノアの家で初めて知った。


 だからこそ——家族というものを、大事にしたい。急いで作るんじゃなく。慎重に。自分の気持ちと向き合って。


 シアのこと。リーナのこと。ノアのこと。ルティアのこと。


 全員の顔が浮かんだ。


 ——難しい。


 でも逃げない。いつか、ちゃんと向き合う。

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