■ 第84話「新しい灯り」
九対一の鉱石魔術具の量産が軌道に乗った。
ドルクの窯がフル稼働。一日三十個。カインが朝に魔力を込める。三秒。いつもの作業。
それを砕いて街灯に嵌める。ガラスの通りに並べていく。
夕方になった。
新しい街灯が——灯った。
白と紫の柔らかい光。息吹石のときと同じ色。でも違った。光が安定していた。揺らがない。均一で、温かくて、強すぎない。
「……綺麗だ」
通りに出ていた住民たちが足を止めた。
「これ、息吹石じゃないのか?」
「九対一の配合石だ。昼間に息吹を吸って、夜に光る。交換不要。半永久」
「交換不要!?」
歓声が上がった。今まで息吹石は定期的に交換が必要だった。それが不要になる。
ドルクが工房から出てきて、通りの街灯を見上げた。
「……百年間、窯を止めていた職人が。こんなものを作れるようになるとは」
目が潤んでいた。
―――――
リーナが完全に復帰した。
解放された人々の治療が全て終わった。全員が回復した。傷跡が残った者もいるが、命に関わる怪我はもうない。
「カインさん。全員、完治しました」
「お疲れ様。本当に」
「いえ。——やっと、みんなと一緒にいられます」
リーナが微笑んだ。三日月の目。隈が消えていた。頬に色が戻っていた。
「明日から何をしますか?」
「道の舗装が始まる。ナーヴェルへの道が先だ。一緒に来るか?」
「行きます!」
リーナの目が輝いた。久しぶりに見る、純粋な嬉しそうな顔だった。
―――――
午後、リーナと一緒にナーヴェルへの道の起点を見に行った。
王都の南西の門から出て、壁の内側を歩く。大工たちがすでに測量を始めていた。
「ここから一直線に南西に延びて、ナーヴェルまで繋がる」
「馬車で一日ですか?」
「道ができれば半日になるかもしれない」
「すごいですね。ナーヴェルの海の幸が新鮮なうちに届く」
「ああ。イルマ長老が喜ぶ」
歩いていた。二人で。風が気持ちよかった。壁の内側の草原。息吹が満ちた空気。
リーナが俺の少し後ろを歩いていた。金色の髪が風に揺れていた。
「カインさん」
「ん」
「ベルグリムのとき。地下にいて、何も見えなくて。壁が赤くなって、地面が揺れて。——怖かったです」
「……ああ」
「でも壁の色が戻ったとき。地上に出てカインさんが立ってたとき。——泣きそうでした」
「泣いてたよ」
「……泣いてましたね」
リーナが少し笑った。
「私、治療ばかりしてて。ベルグリムのときも地下にいて。——カインさんの隣で戦えない自分が、少し悔しかったんです」
「リーナは十分戦ってる」
「でも——」
「二百六十人以上の怪我を全部治した。それは戦いだ。俺には治す力がない。リーナにしかできない」
リーナが立ち止まった。俺も止まった。
草色の瞳がまっすぐ俺を見ていた。
「……カインさんは、いつもそうやって。私の居場所を作ってくれる」
「居場所?」
「パーティーにいたとき、私は聖女だったけど——誰かに必要とされてる感じがしなかった。でもここでは違う。カインさんがいつも『リーナにしかできない』って言ってくれる」
「本当のことだから」
「……知ってます。だから——」
リーナが一歩近づいた。
「——ずっと、隣にいます」
風が吹いた。金色の髪が舞った。薄緑のペンダントが光った。
「……ありがとう、リーナ」
「ふふ。何度目ですか、そのお礼」
「何度でも言う」
リーナが笑った。三日月の目。
——この人は静かだけど、誰よりも強い。




