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ヴェルデ・碧の力 —パーティー全員に嵌められ魔族領に捨てられた俺、封印術が覚醒してなぜか魔族に救世主と崇められる—  作者: はやんえでぃ
第9章

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■ 第83話「日常へ」

 ベルグリムが消えて三日が経った。


 王都は日常に戻っていた。


 パン屋が朝からパンを焼いている。酒場が夕方に開く。子どもたちが広場で走り回っている。鍛冶場からバルドの槌の音が響いている。


 何事もなかったかのように。


 でも違った。空気が変わっていた。枢機卿が姿を現した。分身だったが、それでも——百年間の黒幕が目の前に来た。その事実が、静かに王都の底に沈んでいた。


―――――


 軍議を開いた。


 グラザード。ムルトゥス。ベルク。シア。レナ。将たち。


「まず、ベルグリム討伐について」グラザードが口を開いた。


 全員が俺を見た。


「魔王様。前の魔王でも倒せなかった災害級の魔獣を討伐した。これは三百年の歴史の中で初めてのことだ」


 グラザードが立ち上がった。将たちも立ち上がった。


 全員が頭を下げた。


「魔王様。ありがとうございます。あなたのおかげで、百年間の恐怖が消えました」


「……やめてください。立ってください」


「やめません」


 グラザードの声が震えていた。


「百年間、あの魔獣の封印がいつか解けるかもしれないという恐怖が、魔族の心の底にあった。それが——消えた。永久に」


 ムルトゥスが杖を突きながら立った。


「カイン殿。前の魔王は儂の友であった。あの男は強かった。それでもベルグリムには勝てなかった。封印するのが精一杯だった。——お前さんは、それを超えた」


「俺一人の力じゃないです。シアの術式があって、ソルスとドルクの鉱石魔術具があって——」


「わかっておる。お前さんがいつもそう言うのは知っておる。だが——お前さんが立たなければ、何も始まらなかった。それだけは事実だ」


「……ありがとうございます」


―――――


「次に、ベルグリムの宝玉について」ベルクが報告書を開いた。


「広場に残っているあの巨大な碧い宝玉ですが、ソルス殿が調査しました」


「結果は」


「膨大な魔力が封じ込められています。ヴェルデの魔力で染まっているため、通常の魔力とは性質が異なります。現時点では用途不明。ただし——」


「ただし?」


「ソルス殿の見解では、鉱石魔術具の素材として使える可能性があるとのことです。研究に時間がかかりますが」


「急がなくていい。丁寧に調べてくれ」


「了解です」


―――――


「最後に、道の舗装計画について」


 ソルスが呼ばれた。図面を抱えて入ってきた。


「王都からトーラまでの舗装路、王都からナーヴェルまでの舗装路。二本の主要道路を最優先で整備します」


 ソルスが図面を広げた。


「トーラへの道は山間部を通るため、岩場の切り開きが必要です。大工と鍛冶師の協力が要ります。ナーヴェルへの道は平地が多いので、先に完成するでしょう」


「工期は」


「トーラまで二ヶ月。ナーヴェルまで一ヶ月。息吹の恩恵で作業効率が高いので、通常の半分の工期でいけるかと」


「よし。始めてくれ」


「了解です。——あと、道沿いに九対一の鉱石魔術具を使った街灯を設置すれば、夜間の通行も安全になります」


「半永久的な街灯か」


「はい。昼は息吹を吸収して、夜に発光する。息吹石の交換が不要です」


「それは助かる。量産体制はどうだ」


「ドルクの窯がフル稼働中です。一日に三十個ペースで九対一の配合石が作れます。カインさんに魔力を込めてもらう必要がありますが」


「朝の分だな。いつも通りやる」


「ありがとうございます」


 ソルスが一礼して去っていった。歩きながら図面に書き込んでいた。壁にぶつかりそうになっていた。


―――――


 軍議が終わった。


 昼過ぎ。王都の通りを歩いた。


 九対一の鉱石魔術具で作った新しい街灯が、ガラスの通りに一本だけ試験設置されていた。まだ昼だから光っていない。でも夕方になれば、白と紫の柔らかい光が灯るはずだ。息吹石を交換しなくていい。半永久。


 ドルクが工房の窓から顔を出した。


「魔王様! 新しい街灯の石、綺麗に嵌りましたよ!」


「ありがとう、ドルク。夕方が楽しみだ」


「こっちも楽しみです! 次は色付きも試してみたいんですが——」


 ドルクが延々と話し始めた。職人の目が輝いていた。


―――――


 夕方、シアの部屋に行った。


 約束はしていなかった。でも行った。


「……来たのか」


「来た」


「約束していない」


「してないけど来た」


「……勝手だな」


 でもシアは扉を開けた。隣の部屋から椅子を持ってきた。


「……カイン専用の椅子、まだ買ってない」


「毎回言ってるな」


「買う暇がない。ベルグリムのせいだ」


「もう終わったぞ」


「……明日買う」


 薬草茶を淹れてくれた。二人で飲んだ。


「シア」


「何」


「軍議で感謝されたとき、お前の名前も出したかった」


「出す必要がない」


「シアがいなかったら俺は——」


「また同じことを言う」


「本当のことだから何度でも言う」


 シアが杯に口をつけた。少し間があった。


「……あの石」


「石?」


「一対一の。碧い石。お守りにした、あれ」


「ああ」


「あれがヴェルデに応えた理由。まだわからない」


「俺もわからない」


「……ソルスに調べてもらっている。でも数値上は魔力が通らないはずの配合だ。理屈が合わない」


「理屈じゃなかったんだと思う」


「……何だと思う」


「シアが作ってくれたから」


 シアが固まった。


「……それは科学的な説明ではない」


「科学じゃない。でも本当だ」


「……」


 シアが杯を置いた。耳が赤かった。


「……もう一杯淹れる」


「ありがとう」


「礼はいい」


 シアが立ち上がった。お茶を淹れに行く途中で、俺の椅子の横を通った。


 手が——俺の肩にそっと触れた。一瞬だけ。


 すぐに離れた。何事もなかったように薬草茶を淹れ始めた。


 ——今の、絶対わざとだろ。


 でもシアは何も言わなかった。背中が赤かった。


 薬草茶の湯気が、二人の間に揺れていた。

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