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ヴェルデ・碧の力 —パーティー全員に嵌められ魔族領に捨てられた俺、封印術が覚醒してなぜか魔族に救世主と崇められる—  作者: はやんえでぃ
第8章

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■ 第79話「予兆」

 斥候を送った。


 壁の外へ。人間の国の平原——ベルグリムの封印があるとされる場所の方角へ。偵察だけ。近づいて、封印の状態を確認して、戻ってくる。


 三日後、斥候が戻ってきた。


 顔が青かった。


「報告します。封印があるとされる場所に近づけませんでした」


「何があった」


「王国兵です。平原一帯を包囲していました。数百人規模。陣を敷いて、誰も近づけないようにしている」


 グラザードの目が鋭くなった。


「平原を包囲している。数百人で。——何かを守っている、ではなく」


「はい。むしろ——何かの作業をしているように見えました。遠くからしか確認できませんでしたが、封印のあたりで光が見えました。術式のような」


 沈黙が落ちた。


「間違いない」シアが言った。「封印を解こうとしている」


「あるいは、もう解いた」ベルクが地図を指した。「包囲は封印を解く作業のためか、解いた後の制御のためか。どちらにせよ——」


「いつ来てもおかしくない」俺が言った。


―――――


 軍議を開いた。ただし参加者は絞った。


 グラザード。ムルトゥス。ベルク。シア。レナ。


「民にはまだ知らせない」グラザードが言った。


「パニックになる」ベルクが頷いた。「災害級の魔獣が来ると聞けば、逃げようとする者が出る。しかし逃げる場所がない。壁の内側が一番安全だ」


「避難計画だけ先に用意する」グラザードが続けた。「ベルグリムが来たときに、すぐに民を安全な場所に移動させられるように。王都の地下倉庫と、内壁の奥。子どもと老人を優先」


「伝達経路を整備しておきます。合図があれば即座に避難を開始できるように」ベルクが地図に書き込んだ。


「合図は何にする」


「壁の色だ」俺が言った。「壁に術式を仕込む。ベルグリムが一定距離まで近づいたら、壁の色が白と紫から赤に変わるようにする。全員が一目でわかる」


「それでいい。民には——壁が赤くなったら建物の中に入れとだけ伝えておく。理由は避難訓練だと言えばいい」


 嘘だ。でも今は仕方がない。


―――――


 その夜、シアが予言書を広げていた。


「カイン。見ろ」


 予言書の一節。前に読んだときと——文字が変わっていた。


「増えてる」


「ああ。予言書は生きている。前の魔王の時代からそうだった。事象が近づくと、文字が浮かび上がる」


 前に読んだ一節はこうだった。


「『山が襲い来る。大地を砕き、光を喰らう者。息吹に引かれし獣、百年の眠りより目覚めん』」


 今は——その下に新しい文字が浮かんでいた。


「『鎖は解かれた。獣は目を開く。大地が震え、息吹の源を求めて歩む』」


「……鎖は解かれた」


「封印が解かれた、という意味だ。もう確定だ」


「目を開く。つまりまだ動いてはいない」


「だが時間の問題だ。次の一節が浮かんだとき——動き始める」


 俺は予言書を見つめた。黄ばんだ紙の上に、古代の文字が浮かんでいる。


「ムルトゥスに報告する。それと——封印術式の解析はどこまで進んだ」


「七割。前の魔王の術式は複雑だが、原理は理解できた。問題は出力だ。あの規模の封印を再構築するには——カインのヴェルデでも厳しい」


「足りないのか」


「単純な魔力では足りない。増幅が必要だ」


「増幅……」


 シアが少し黙った。


「一つ、気になっていることがある」


「何だ」


「トーラの鉱石だ」


「鉱石?」


「ルティアが送ってきた火紅石。あれと息吹石を混ぜたとき、何が起きるか試していない」


「混ぜる?」


「鉱石は息吹を内部に閉じ込めている。息吹石は息吹を放出する。この二つを混ぜたら——息吹の吸収と放出を自在に制御できる素材ができるかもしれない」


「つまり、魔力の増幅装置になる可能性がある」


「可能性だ。確証はない。だが試す価値はある」


―――――


 翌日、ソルスとシアとドルクの三人で実験を始めた。


 ルティアが送ってきた火紅石と、息吹石。


 まず九対一で混ぜた。鉱石九に息吹石一。


 ドルクが窯で溶かして混ぜ合わせた。冷えた塊を取り出した。


 薄い紫の石だった。息吹石に似ているが、もっと硬い。光を当てると、内部で紫と赤がうねっていた。


「息吹が安定して閉じ込められています」ソルスが計測した。「通常の息吹石より持続時間が長い。しかも術式を描けば、吸収と放出のタイミングを制御できる」


「半永久的な街灯が作れる」シアが言った。「昼間は息吹を取り込み、夜になったら放出して発光する。息吹石を大量に使わずに済む」


「これはすごいぞ」ドルクが目を輝かせた。「息吹石の節約になる。しかも硬いからガラスより丈夫だ」


「九対一は実用品向きだ。だが——」シアが別の配合を指示した。「七対三。五対五。三対七。全パターン試す。魔力の増幅率が最も高い配合を探す」


 七対三。紫が濃くなった。魔力の増幅率が上がった。九対一より良い。


 三対七。光が強すぎて不安定だった。使い物にならない。


 五対五——一対一。


 ドルクが窯から取り出した塊を見て、首を傾げた。


 碧かった。


 深い碧。透き通った碧。息吹石の白と紫でもない。鉱石の赤でもない。まったく新しい色。


「……何だこの色は」ドルクが呟いた。


「綺麗だな……」


 ソルスが計測した。しばらく数値を見て——肩を落とした。


「駄目ですね。魔力がまったく通らない。増幅率ゼロです。ただの綺麗な石だ」


「使い物にならないか」


「残念ですが。一対一は配合が均衡しすぎて、魔力の通り道がなくなるようです。九対一が最適です」


 九対一が最強の増幅装置。結論が出た。


 ドルクが一対一の碧い石を片付けようとした。


「待て」


 シアが言った。


「その石、もらっていいか」


「これですか? 使い物にならないですけど」


「……綺麗だから」


 シアが碧い石を手に取った。光にかざした。


 碧い光が、シアの銀色の瞳に映った。


「……カインの瞳と同じ色だ」


 小さい声だった。独り言のように。でも俺には聞こえた。


 シアは碧い石を懐にしまった。それ以上何も言わなかった。


―――――


 結論が出た。


 九対一の配合石が、魔力の増幅装置として最適。これを大量に作る。ベルグリムを封印するための術式に組み込む。


「ソルス、九対一の量産体制を組め。ドルク、窯をフル稼働だ」


「了解です」


「了解!」


 ベルグリムが来る前に、できるだけ多く作る。時間との勝負だ。


 ——これで、戦える。

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