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ヴェルデ・碧の力 —パーティー全員に嵌められ魔族領に捨てられた俺、封印術が覚醒してなぜか魔族に救世主と崇められる—  作者: はやんえでぃ
第8章

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■ 第77話「山が襲い来る」

 トーラから王都に帰った。


 ソルスは道の設計を始めていた。馬の上でもう図面を描いている。王都からトーラまでの最短ルート。王都からナーヴェルまでの最短ルート。


「ソルス、帰ってから描けよ」


「今描かないと忘れます」


―――――


 王都に着いた。夕方。


 ノアが門の前で待っていた。


「カイン! おかえり!」


「ただいま」


―――――


 夜、シアが執務室に籠もった。


 旅の間にたまった案件を片付けるためだが、もう一つやることがあった。


 予言書。


 ムルトゥスから預かっている古い書。シアが予言の守り手として管理している。


 旅に出る前から気になっていた一節があった。トーラの鉱山を見て、確信に変わった。


「カイン」


「ん」


「来い。見せたいものがある」


 執務室の机の上に、黄ばんだ書が広げられていた。古代の文字。シアが横に訳を書いている。


「この一節だ」


 シアの指が一行をなぞった。


「——『山が襲い来る。大地を砕き、光を喰らう者。息吹に引かれし獣、百年の眠りより目覚めん』」


「……山が襲い来る?」


「比喩じゃない。文字通りの意味だと思う」


「山が……動く?」


「魔獣だ。古代の記録に名前がある。——ベルグリム」


 シアが別の書を開いた。こちらも古い。ムルトゥスの書庫から引っ張り出してきたものだ。


「ベルグリム。災害級の魔獣。山のように巨大な獣。かつて魔族領を蹂躙し、前の魔王が倒せず、人間の国の平原に追いやって封印した」


「封印……」


「倒せなかったんだ。前の魔王でも。だから封印するしかなかった」


「それが百年の眠りから目覚める、と」


「息吹に引かれし獣、と書いてある。ベルグリムは息吹の濃い方向に進む性質がある。本能で。息吹を喰らうのかもしれない」


 俺の背筋が冷えた。


「……息吹が一番濃い場所はどこだ」


「王都だ。命の灯火がある。息吹石の生産拠点がある。魔族領で最も息吹が濃い」


「つまり——ベルグリムが目覚めたら、王都に一直線に来る」


「そうだ」


 沈黙が落ちた。


「……封印されていたんだろう。なぜ今目覚める」


「封印を解く者がいたら」


「枢機卿か」


「わからない。でも——偵察兵が壁の完成を見ていた。枢機卿に情報は届いている。百年間の方針が崩されている。奴隷を奪還された。壁で全域を覆われた。追い詰められた枢機卿が、手段を選ばなくなったとしたら」


「封印された魔獣を解き放つ、か」


「人間の兵では壁を越えられない。なら壁を越えるものを送り込む。壁より巨大なものを」


 俺は地図を見た。王都の位置。壁の位置。


「……壁はどのくらいの高さまで耐えられる」


「奇跡の壁の高さは約二十メートル。ベルグリムの記録には——」


 シアが古い書の一節を読んだ。


「『山を背負いし獣、その背は雲に届く』」


「壁より高いのか」


「記録が正しければ、桁が違う。壁を踏み越えてくる可能性がある」


 俺は椅子に座ったまま、天井を見た。


 壁で全域を覆った。灯火も少しずつ届ける。道も作る。全部うまくいっていた。


 ——うまくいきすぎていた。


「……いつ来る」


「わからない。予言は時期を示していない。明日かもしれない。一年後かもしれない。ただ——」


「ただ?」


「偵察の頻度が上がっている。枢機卿が焦っている。早いかもしれない」


「……グラザードに報告する」


「明日の朝。軍議を開け」


「ああ」


 シアが予言書を閉じた。


「カイン」


「ん」


「……今夜は寝ろ。明日から忙しくなる」


「シアも」


「……私はもう少し調べる。ベルグリムの弱点があるかもしれない」


 シアが術式書に向き直った。銀色の瞳が真剣だった。


 俺は立ち上がった。扉に手をかけた。


「シア」


「何」


「……ありがとう。気づいてくれて」


「予言の守り手だ。当然のことをしただけだ」


「それでも」


「……寝ろ」


 部屋を出た。


 廊下を歩いた。夜の王都は静かだった。街灯の白と紫の光が揺れていた。酒場から笑い声が聞こえた。


 この日常が——壊されるかもしれない。


 山のように巨大な獣。壁を踏み越えてくる。息吹を喰らう。


 ——守る。何が来ても。


 拳を握った。

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