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ヴェルデ・碧の力 —パーティー全員に嵌められ魔族領に捨てられた俺、封印術が覚醒してなぜか魔族に救世主と崇められる—  作者: はやんえでぃ
第7章

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■ 第64話「実り」

 俺が通りを歩くと、すれ違う者たちが立ち止まった。


 解放された者たち。一人一人が、俺を見ると足を止めて、頭を下げた。


「ありがとうございます、魔王様」


 老人が。


「ありがとうございます、魔王様」


 若い男が。


「ありがとうございます、魔王様」


 子どもを抱えた女性が。


「ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 通りを歩くたびに。毎日。何度も。


 最初は「やめてくれ」と言っていた。大げさだと。当然のことをしただけだと。


 でも彼らはやめなかった。


「やめません」バルドが言った。鉄を叩きながら。「あんたが来なかったら、俺はまだあの檻の中だ。毎朝頭を下げるくらい、安いもんだ」


「……そうか」


「そうだ。だから受け取ってくれ。俺たちにはそれくらいしかできない」


 俺は——何も言えなかった。


 頷くだけだった。


 それからは、一礼されるたびに、頷き返すようにした。「ありがとうございます、魔王様」に対して、小さく頷く。それが俺にできる返事だった。


―――――


 解放された者たちが一番驚いていたのは、食料だった。


「なんだこの成長速度は」


 畑を耕していた老人が目を丸くしていた。三日前に蒔いた麦が、もう芽を出して膝丈まで伸びている。


「命の灯火の効果だ」ソルスが説明した。「通常の十倍以上の速度で育つ。しかも豊作で、環境にも強い。病気にもかかりにくい」


「十倍……?」


「息吹の恩恵だ。王都の土地は息吹が濃い。作物も家畜も、全部恩恵を受ける」


 牛が太っていた。鶏が卵を毎日産んでいた。豚がすくすく育っていた。解放された農民たちが信じられない顔をしていた。


「こんな土地があるのか……」


「一年前までは同じように枯れていた。灯火一つで変わった」


 ナーヴェルからも支援が届いていた。干し魚、塩漬けの海老、海藻。大量に。漁師たちが毎日送ってくれている。イルマ長老の手紙が添えてあった。「恩返しだ。遠慮するな」


 食料には困らなそうだった。


―――――


 大工たちが忙しかった。


 朝から晩まで、木を切って、運んで、組んで。家が建っていく。毎日一棟ずつ。


 解放された者たちの中にも大工がいて、合流した。息吹の恩恵で全員がものすごい力持ちになっていた。一人で丸太を担いでいる。二人がかりの仕事を一人でやっている。


「力が湧いてくる。なんだこの空気は」


「息吹だ。慣れる」


 王都の外周に新しい家が並び始めていた。まだ小さな家だが、屋根があって壁があって扉がある。自分だけの家。


 考えるだけで楽しみだった。ここを中心に家が整備されて、どんどん広がっていくのだろう。そしてここで自由に恋をして、子どもができて、息吹の恩恵を受けながらすくすく育っていく。


 王都が、本当の王都になっていく。


―――――


 ノアが両親と一緒に歩いていた。


 ガラスの通りを。三人で。


 ノアの父親が——右手を握ったり開いたりしていた。あの不自然な角度に曲がっていた指が、まっすぐになっていた。


「指、治ったのか」


「リーナちゃんに治してもらったんだ!」ノアが嬉しそうに言った。「聖女の癒しの術ってすごいね。三年間曲がったままだったのに、一回で」


 ノアの父親が俺を見た。大きな男だった。痩せてはいたが、息吹のおかげで少しずつ肉がついてきている。


「魔王様」


「カインでいいです」


「……カイン様。娘を助けてくれた。俺たちを助けてくれた。この恩は一生——」


「恩なんてないです。当然のことをしただけです」


 ノアの母親が微笑んだ。ノアに似ていた。水色の髪。でもノアより少し長い。


「カイン様は、ノアによく似ていますね」


「え?」


「ノアも同じことを言うんです。当然のことをしただけ、って。ナーヴェルで三年間、町を一人で支えていたのに」


 ノアが「お母さん!」と顔を赤くした。


 三人で歩いていった。ノアが両親の間で、両手で二人の腕を掴んでいた。


 小麦色の肌が陽光に光っていた。水色のショートボブが揺れていた。茶色のブーツが石畳を軽やかに踏んでいた。


 幸せそうだった。


―――――


 夕方、広場の時計塔の上に登った。


 王都が見えた。


 一年前、石造りの家が丘の上に並ぶだけの静かな集落だった。


 今は違う。


 ガラスの通りが光っている。街灯が並んでいる。畑が広がっている。鍛冶場の煙が上がっている。パン屋から匂いが漂っている。子どもたちが走り回っている。


 そして——新しい顔がたくさんある。二百六十人以上。それぞれが、それぞれの場所で、それぞれの朝を迎えている。


 シアが時計塔の階段を上がってきた。


「またこんなところに」


「景色がいいんだ」


「灯台じゃないんだから」


「同じだよ。高いところから見下ろすのが好きなんだ」


 シアが隣に立った。王都を見下ろした。


「……増えたな」


「ああ。人が」


「人だけじゃない。音が増えた。匂いが増えた。……活気が増えた」


「ああ」


「一年前には想像もできなかった」


「俺もだ」


 シアが少し黙った。


「……カインが来てから、全部変わった」


「俺だけの力じゃない。みんなの——」


「わかってる。でも始まりはカインだ。それだけは事実だ」


 シアの銀色の瞳が、夕日に染まった王都を見ていた。


「……まだやることがあるな」


「ああ。残りの集落に灯火を届ける。枢機卿を止める。奴隷施設が他にもあるかもしれない」


「忙しいな」


「忙しい。——でも悪くない」


 シアが小さく鼻を鳴らした。


「……悪くない、か」


「ああ。悪くない」


 夕日が沈んでいく。王都が街灯の光に包まれていく。白と紫の柔らかい光。


 二百六十人以上が、今夜も自分の屋根の下で眠る。自分の布団で。自分の選んだ場所で。


 明日になったら、また「ありがとうございます、魔王様」と言われるだろう。


 悪くない。


 全然、悪くない。

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