第99話 素直になれないお年頃
真鈴ちゃんと打ち解けることはできたけれど、ここの小島のことがやっぱり気になる。私は辺りときょろきょろと見回してみる。
私の様子を見ながら、真鈴ちゃんはなんとも複雑そうな顔をしている。
「ここのことが改めて気になっているみたいね」
「え、ええ……」
真鈴ちゃんに言われて、私は戸惑ってる。
暗い時間になら来たことがあるんだけど、これだけ明るい時間に来たのは初めてだったはず。よく見ると、なんとも空気が重い。
「この祠は、私の時代よりもずいぶん後に建てられたものよ。私の時代は目印に大きな石が置かれていただけよ。ほら、中に見えるでしょ」
「あっ、本当だ」
少し朽ちた感じの祠の中をよく見ると、大きな石が確かにある。長年の風にさらされてきたのか、いろいろと削れている感じだわ。
「でも、ちょっと祠の状態がよくなったかしらね。もう今にも崩れそうだったんだけど」
『確かに、あちこち穴が開いていたような気がしたにゃ』
真鈴ちゃんの言葉に、トラ猫が頷きながら反応している。
確かに、私が初めて見た時は、今にも崩れそうだった。ものすごく汚かった覚えがあるわ。
「あっ、それは多分私が使った魔法の影響だと思うわ」
「何をしてくれたの?」
私が話すと、真鈴ちゃんが疑り深そうに目を細めている。さすがは大昔から存在し続けている怨霊のような存在。目にものすごい力を感じるわ。
でも、このことは正直に話しておいた方がいいと思うのよね。せっかく仲良くなろうとしているんだもの。
「初めて見た時に、ずいぶんとボロボロだったから、魔法を使ってきれいに洗い流しておいたのよ。でも、使ったのはただの水魔法なんだけど、確かに状態がよくなっているわね」
「そ、そうなのね。ありがとう、きれいにしてくれて」
私は説明をしながら首を傾げていたんだけど、真鈴ちゃんが予想外にも素直にお礼を言ってきた。一人で長い時間を過ごしてきたからなのかしらね、ちょっと自分の気持ちを表現するのが苦手なのかもしれないわね。
『主がお礼を言うだなんて、珍しいにゃあ。明日は雨かにゃ?』
「獣風情がうるさい。本当に毛皮をはいでやろうか?」
『にゃにゃにゃっ!』
変なことを言うものだから、真鈴ちゃんにぎろりと睨まれている。なんというか、ひと言余計なのよね。
私の後ろに隠れるように移動してきたんだけど、あまりかばう気がしない。同じように言われたら、多分私も怒ったと思うもの。
でも、さすがに猫がこれだけ震えているのも放っておけないので、私は真鈴ちゃんを取り合えず落ち着かせることにした。じゃないと、このあとの説明にも影響しそうだからね。
私が落ち着かせようと頑張った結果、どうにか真鈴ちゃんは落ち着いてくれた。
「悪いわね。こいつは百年くらい生きている猫又らしいんだけど、いかんせん獣ゆえにこういう気の利かないことをよく言うものだから」
「そ、そうなのね。大変ね、真鈴ちゃんも。でも、真鈴ちゃんはどうやってこの子と知り合ったの?」
真理ちゃんとよく見るトラ猫が知り合いだったことは驚いたけれど、そうなると、出会いというものが気になるものだわ。ずっと小島の祠にいたはずの真鈴ちゃんとの接点が不明だもの。
『あ、あたしから話しますにゃあ』
トラ猫が声をかけてきた。
長くなりそうだと思った私は、近くにあった石に腰掛けて、トラ猫の話を聞くことにした。
なんでも、数年前にたまたまここまで泳いできたらしい。その時にまだ怨霊だった真鈴ちゃんと出くわして、無理やり下僕にされたんだとか。真鈴ちゃんが今時の言葉をしっかりと知っているのは、この猫が頑張ったおかげなんだとか。
『……というわけですにゃあ。主には感謝こそされど、虐待されるいわれはないのにゃ』
「なるほどねぇ。真鈴ちゃん、少しくらい労ってあげたら?」
「なんでよ。獣風情に感謝するのなんて願い下げよ。おとなしく私のいうことを聞いていればいいのよ」
真鈴ちゃんは腕を組んで不機嫌たっぷりの表情をしていた。これだけ献身的にしてきたというのに、この扱いではさすがに猫が可哀想になってくるわ。
「ねえ、波均命様の神社で暮らしてみる気はない?」
『にゃ?!』
「はあ?」
私の提案に、真鈴ちゃんも猫もびっくりしているようだった。
「いや、真鈴ちゃんの手下として働くにしても、安定した居住があった方がいいかと思ってね。あそこなら雨風がしのげるし、人もあんまり来ないからゆっくりできるでしょ。事情を説明すれば、波均命様も見逃してくれると思うし」
『そ、それは……お願いします』
私が提案をすると、猫が深々と頭を下げてきた。まさか猫が土下座をするとは思ってなかったので、私もさすがにびっくりしたわ。
「好きにしなさいよね。私も下僕に死んでもらっては困るからね」
真鈴ちゃんは腕組みをしたまま、トラ猫に対してそう言い放っていた。まったく、素直じゃないんだから。
なんというか、今日の様子を見ている限り、真鈴ちゃんはなんというかツンデレという言葉が似合いそうに感じたわ。
だって、口や態度では何かと厳しい姿を見せながらも、よく見ると顔が笑っているんだもの。幼くして死んだせいか、どこか素直になれないところがあるんでしょうね。
真鈴ちゃんに誘われてどうなることかと思ったけれど、今日の一日はとてもよかったと思ったわ。




