第98話 時を超えたライバル
目の前にいる真鈴ちゃんは、最近よく見るトラ猫を抱え上げている。
「下僕のくせに、主に指図する気? 言ってるでしょ、人間は何かと不便なのよ。夜中に出歩こうとしたら警察官に連れていかれそうになるんだからね」
『知らないのにゃ、そんなこと』
目の前で愚痴の言い合いを始めていた。なんとも仲がいいのか悪いのか、よく分からないわね。
でも、ここまで来ておいていきなりケンカみたいなことは、やめてもらいたいかな。
「なに笑っているのよ」
「えっ? いや、なんか仲がいいなと思って」
「どこをどうみたら、仲がいいってなるのよ。眼科でも行ってきたらどうなの」
微笑ましく見ている私に対して、真鈴ちゃんが文句を言ってくる。こういう言い回しができるところを見ると、大昔の人間だなんて信じられない感じがするわ。
「さっきから笑ってばかりで気持ち悪いわね」
「いえ、真鈴ちゃんって一千年以上前の人なのよね?」
「そうよ」
「いや、言われても分からないくらいに今の子どもって感じだから、驚いているのよ」
私は正直に言う。そしたら、真鈴ちゃんは両手を腰に当てて、ドヤ顔を決めている。
「ふふん、そうでしょう。今の時代の文化というのを取り入れてきたからね。まずは今の言葉を理解するところからだったけれど、十年もあればできるものだわ」
うわぁ、努力の人ぉ……。
前世から海斗を追っかけてここまでできるって、本当にすごいわね。
でも、どうして、妹なんていう立場に落ち着いたのかしら。私が邪魔なら、私に成り代わればよかったはずなのでは?
「ねえ、真鈴ちゃん」
「なによ」
「海斗の恋人になりたくて、邪魔な私を排除したのよね?」
「そうよ」
私の質問に真鈴ちゃんは、そんな質問をするなという感じの呆れた顔をしながら私の顔を見ている。
いや、こっちも質問をしなくていいのならその方がいいんだけど、確かめたいことがあるからしょうがないじゃないのよ。
「私のふりをすればよかったんじゃないのかって思うんだけど、なんでできなかったのかな?」
私はものすごくストレートに聞いてみた。
困っているのか、真鈴ちゃんの顔がものすごいしかめっ面になっているわ。
「できるなら、最初からしているわよ」
むすっとした顔で、真鈴ちゃんは言い放っている。
「でも、無理だった。いくら私でも、見た目の年齢を変えることができなかったわ。まったく、あと四年早ければとは思ったわよ。でも、準備を整えている間に時間は過ぎていた。現実って残酷だわ」
真鈴ちゃんは悔しそうに唇をかみしめている。そのくらい、真鈴ちゃんからすれば海斗に本気だったっていうわけなのか。
うん、話を聞いていればいるほど、同情できてしまうわね。
でもね。真鈴ちゃんの話す想い人と海斗は同一人物じゃないのよ。同じ魂を持っていたとしても、別人なのよね。そこを忘れちゃいけないと思うわ。
「まったく、それなら別に私を排除する必要はなかったんじゃないの?」
「嫌よ。あの人のそばに女がいるだなんて許せないわ。あの人は私のものよ。誰にも渡したくない。渡したく……ないのよ」
私が優しく話しかけると、真鈴ちゃんは肩ひじを張りながら、私を見つめて訴えてくる。
それだけ、真鈴ちゃんは海斗に宿る魂に対して真剣だということなんだろう。
でも、真鈴ちゃんはどこで海斗にそれを感じたのだろうか。ここがまだよく分からないわ。
「ねえ、真鈴ちゃん」
「なによ」
「その、昔の想い人の魂を、どこで感じ取ったというの?」
分からないから、私は直接聞くことにした。
「十年前よ。お兄ちゃんが一人でこの小島までやってきたの。その時に、私は感じ取ったの、あの人の魂を」
「十年前……」
そのことを聞いて、私はあることを思い出した。
十年前の夏だったかしら。港に係留してあるボートを勝手に使ったっていうことがあったわ。
無事に小島までたどり着いたのはいいけれど、すぐにばれて大人たちに連れ戻されていたっけか。怒られている姿を見た気がする。
そうか、その時に真鈴ちゃんは感じ取ったのね。
それから十年間、海斗のそばに行くために、努力を怠らなかったのか。
偉いは偉いんだけど、その時に嫉妬に巻き込まれた私は複雑な気持ちになっちゃうな。
でも、こうして打ち明けてくれたから、私はその気持ちをしっかりと理解したい。
「ちょっと、何をするのよ」
私は真鈴ちゃんをそっと抱きしめていた。
「邪魔だからって私を殺そうとしたのは、正直言って許せない。けど、真鈴ちゃんが努力をしていたことは評価できるわ。だから、私は真鈴ちゃんを許すわ」
「ま、マイ……」
私が声をかけると、真鈴ちゃんはものすごく反応に困っていたようだわ。
殺そうとしていた相手から許すなんて言われたら、そうなっちゃうのかもね。でも、私は許したいから、それでいいのよ。
「これで、私たちは正式に恋のライバルね」
真鈴ちゃんの両手をぎゅっと握りながら、私はにっこりと笑顔を向けている。
「ええ、望むところよ。いずれはお兄ちゃんに正体を明かして、恋人の座を射止めてやるんだからね。あんたになんか負けないから」
「私もよ」
私と真鈴ちゃんは、手を握ったままそのまましばらく見つめ合っていたのだった。
ふふっ、今後は仲良くできそうだわ。




