第95話 再び目を覚まして
「う……ん……」
私は目を覚ます。
「今……何時なんだろ」
部屋の中は真っ暗で何も見えない。一応、常夜灯の赤い光が見える。
この状態ということは、今は真夜中で間違いない。部屋の中からは時計のカチカチという音が聞こえてくる。
(……まだ寒い)
体が不意に震える。
とにかく今がいつなのかを確認しなくちゃいけない。でも、これだけ暗いとスマートフォンも探すのは一苦労だわ。
私はひとまず体を起こす。
もう一度体が震えたこともあって、私は一度、お手洗いに行くことにする。
立ち上がるのもちょっとだけつらくて、やむなく壁に手をつきながら無理やり立って歩いていく。
用を足して部屋に戻ってきた私は、手探りで部屋の明かりをつける。
そこは間違いなく私の部屋で、外を見る限り真夜中で間違いなさそうだった。
「あっ、ここにあったんだ、スマートフォン」
勉強机の上に、おじいちゃん先生から買ってもらったスマートフォンが置いてあった。私がいつも置いている場所にあったので、私はとてもほっとした気持ちになる。
ひとまず今がいつなのかを確認するために、スマートフォンを手に取る。
指を触れて画面を表示させた私は、表示された日付に思わずびっくりしてしまう。
「えっ、今日ってもう火曜日なの?」
表示されたのは、火曜日の日付。私の記憶は土曜日で途切れているので、まるっと二日間寝ていたことになる。一体何があったというのか、私は怖くなってきてしまう。
「やっぱり、あの日に何かあったんだ……。でも、どうして?」
スマートフォンの画面をじっと覗き込みながら、私はただただ考え込んでしまう。
時間が二日半飛んでしまっている現実を、どうしても受け入れられないからしょうがない。でも、過ぎてしまった時間を戻すことはできないから、嫌でも現実を受け入れないと……。
「……考えても仕方ないわ。寝ましょう」
いくら考えてもらちが明かず、私は思考放棄して再び眠ることにした。
お手洗いも済ませてすっきりしたので、気持ちよく眠れるはずだものね。
大きくため息をついた私は、再び明かりを消すと、布団をかぶって横になった。
次に目を覚ました時は、鳥のさえずりが聞こえてくる朝の時間。
時計を確認すると、朝の六時を回った頃と、大体いつも起きる時間を指していた。
「ふわぁ~……」
あくびをした私が布団から出ようとすると、部屋の外から足音が聞こえてくる。
「マイ!」
誰かと思えばおじいちゃん先生だった。
「あっ、おじいちゃん。おはよう」
「おお、マイ。目が覚めたか」
「うん、起きたよ、おじいちゃん」
驚くおじいちゃん先生にどう反応していいのか分からないので、私は困ったように笑いながら挨拶をするしかなかった。
「よかった。二度と目を覚まさぬかと心配したぞ」
「あ、うん……。心配かけちゃってごめんなさい」
「うむ、そのことはもうよい。目を覚ましたのであれば、それでよいのだ」
おじいちゃん先生は私を抱きしめながら声をかけてくる。ただ、その声は震えていて、とても心配していたことがよく分かる。
体も震えているので、私はただしばらくそのままおとなしくおじいちゃん先生と抱き合っていた。
ただ、いつまでもそうしているわけにもいかず、おじいちゃん先生は朝食を作りに戻り、私は学校へ行くために服を着替える。
おじいちゃん先生はその時はもう何も聞いてこなかった。まあ、説明しようにも私にもよく分からないから、何も聞かれなかったのは助かったわ。
「それじゃ、行ってくるね、おじいちゃん」
「うむ。気をつけて行ってくるのじゃぞ」
私はランドセルを背負って家を出ていく。
玄関から出ると、そこには真鈴ちゃんが立っていた。
「あっ、おはよう、真鈴ちゃん」
「おはよう、マイ。もう体はいいみたいね」
「あっ、昨日も迎えに来てくれたんだっけ。あの、ごめんなさい」
「いいのよ。あんたの顔を見ないと一日が始まったと思えないからね」
真鈴ちゃんは相変わらずといった感じだった。
こんなことを言いながらも、私の手を引いて、集団登校の集合場所まで連れていってくれる。なんだかんだで、優しい子なんだと思うよ。
「マイ、ちょっといいかしら」
「なに、真鈴ちゃん」
移動中、急に立ち止まったかと思うと、真鈴ちゃんは私に話しかけてきた。
「春休みなんだけど、一日、私と付き合ってもらいたいのよ。いいかしら」
「えっ、なんで春休みに?」
「一日で終わるか自信がないからね。時間の取れる春休みの方が都合がいいのよ。……嫌かしらね」
その時の真鈴ちゃんは、なんだか思い詰めたような表情にも見えた。
つまり、そのくらいに重要な話っていうことなのかしらね。だとしたら、私は断らない方がいいと考えた。
「分かったわ。春休みでいいわよ」
私が了承をすると、真鈴ちゃんの表情が今度は安心したような表情に変わった。どういう意味での安堵か分からないけれど、断られることを警戒していたのだけは分かる。
「ありがと。あんたとは一度しっかり話をしておいた方がいいと思ったからね」
真鈴ちゃんはそういうと、黙り込んでしまった。
どういう態度なのかは分からないけれど、私は、真鈴ちゃんとの距離が縮まったように感じた。
だけど、この時の会話がどういう意味だったのか、私は知る由もなかった。
ただ、真鈴ちゃんと仲良くできそうだということを、素直に喜ぶだけだった。




