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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第94話 退場なんて許さない

「えっ、マイって寝込んでるんですか?」


 月曜の朝、迎えに来た私は驚いていた。

 あの女が、体調不良で寝込んでいるらしい。

 まぁめいどなんて体を悪くするイメージがなかっただけに意外だった。

 そういえば、昨日もおとといも、お兄ちゃんのところに姿を見せなかったわ。なるほど、そういうことだったのね。


「分かりました。集団登校の班の人に欠席のことを伝えておきます」


「すまんな、真鈴ちゃんや」


「いえ、当然ですよ」


 ともかく、私はたった一年でも年上なので、お姉ちゃんらしさを発揮して恩を売っておく。

 私自身は怨霊なんだけど、だからと言って人間らしさを失ったわけじゃないわよ。今の生活に溶け込むようになってから、身につけたといっていいけどね。

 ああ、下僕は別よ。あいつは獣だから、分からせないといくらでも調子に乗ってくるわ。


「では、お大事にしてください」


「ああ。よかったら放課後に見舞ってくれるとありがたい」


「分かりました。それでは行ってきます」


 私はあの女の住んでいる家から離れる。

 なんでかしら。

 あの女が倒れて喜ぶべきところなのに、私はつい不安そうに視線を向けてしまう。

 まさか、怨霊たるこの私が情に絆されてしまったというのかしら。ああ、やだやだ。そんなことあるわけないじゃないのよ。

 そうは思いながらも、私は小学生たちの集団登校の集合場所を訪れて、あの女の欠席を伝えておいた。


 無事に一日が終わり、私は家に戻ってくる。


「ただいま」


「お帰りなさい」


「お母さん。私、着替えてちょっと出かけてくるね」


「真鈴?」


「大丈夫。お兄ちゃんが帰ってくるまでには戻ってくるから」


 お母さんと軽く言葉を交わした私は、すぐさまあの女の家に向けて出発する。

 朝に会ったじいさんは、今ならまだ診察前で出迎えてくれるはず。そうじゃなかった場合は、手伝いをしている看護師が対応してくれることになっているらしい。

 家を訪れた私に対応してくれたのは、看護師だった。

 スマートフォンを確認すると、時計が四時を回っていたわ。


「あら、真鈴ちゃん。マイちゃんのお見舞い?」


「ええ、そうです」


「そう、だったら上がってちょっとだけ様子を見ていってちょうだい。午後の診察が始まって、今忙しいからね」


「分かりました」


 四十代くらいのおばさん看護師に頼まれて、私はちょっとだけあの女の様子を見に行くことにした。

 そこであの女の様子を見た私は、思わぬものを見てしまう。


「ひっ!」


「どうしたの?」


 私は思わず声をあげてしまい、看護師が反応してしまう。


「あっ。な、なんでもないです。とりあえず、私がしばらく見ていますので、どうぞ仕事に戻って下さい」


「頼みますね」


 私はどうにか取り繕い、看護師を部屋から遠ざけた。

 私は再びあの女の様子を見る。


「これは……呪力だわ。なんで、こんなものをこの女がまとっているのよ」


 私の目にははっきりと見える。体を取り巻くどす黒い呪いの渦が。

 しかも、この呪いは私が使った力だ。

 ……おかしい。私は痕跡はすべて消したはずだった。それがどうして、このように女の体を取り巻いているのかしら。


「これじゃあ、現代医学でもどうしようもないわ。しかも、このまま放っておけば命すら危ない。どうしたものかしら……」


 私はなぜか目の前の女を放ってはおけなかった。

 最初、この女を高波にさらわせて殺そうとしたというのに、死にそうになっている女を見て、死なせたくないと思ってしまう。


(これも、お兄ちゃんの影響かしらね。この女と話をしている時、お兄ちゃんはとても楽しそうにしているもの。お兄ちゃんのことは、私のものにしたい。でも、悲しませるのはやりたくない。……ああ、私ってばどうしちゃったのかしらね)


 苦しむ女を目の前にして、私はものすごく悩んでいた。

 はっきりいって、私からお兄ちゃんを奪うこの女は憎たらしくて仕方がない。でも、死なれてしまうのは何かが違う気がしている。

 そう、私の中にははっきりと助けたいという気持ちが芽生えていた。


「私の力が元だというのなら、私の力で中和はできるはず。こいつの悔しがる姿をこの目で見ないことには、私は勝ったとは思わない。今回だけは助けてやるわよ!」


 私は女の体に近付き、手をそっと添える。

 女の体に渦巻く呪いの力を、自分の中に吸収しようと意識を集中させる。

 体を渦巻いている呪いの力が、段々と私の方へと吸い寄せられてくる。

 まったく、私の体から離れたとはいえ、私の断りもなく勝手なことをしてくれるんじゃないわよ。さあ、戻ってきなさい、私の元に!


「くっ……」


 黒いもやは、私の体へと吸い込まれていき、女の体からはほぼなくなる。それと同時に、女の呼吸もだいぶ落ち着きを取り戻してきた。


「……手間をかけさせるんじゃないわよ。今度、どうしてこうなったのか問い質してやるわ」


 状態が快方に向かったことを確認すると、私は看護師に帰ることを伝えて家を後にする。

 多分、今回のことで怪しまれるだろうけれど、どうせそろそろ直接対決を考えていたからちょうどいいわ。

 私はにやりと笑みを浮かべながら、自宅へと戻っていった。

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