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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第91話 冬は動きが鈍るものみたい

 ひな祭りを終えて、私は波均命の神社を訪れる。


「波均命様、いらっしゃいますか?」


『うむ、おるぞ』


 私が呼び掛けると、波均命が姿を見せる。相変わらずごつごつした感じのおじさんという姿だ。


「どうですか、調査の進み具合は」


『ああ、調べてはおるのだが、俺の力をもってしてもまったく分からんときている。お前さんをこちらの世界に連れ戻した力というのは、どうやら俺の理解を超えているようだ』


 改めて調査の状況を問い掛けると、波均命からはそんな答えが返ってきた。

 ちょっと、任せてくれみたいなこと言ってなかったかしらね。


『そんな顔をするではない。いくら神となった身とはいえど、元はしがない人間なのだぞ。やれることには限界があるというものだ』


 私がジト目で睨みつけると、波均命は必死に言い訳をしてきた。神様がそんなんでどうするのよ。

 しばらくの間、私は波均命をじっと睨み続けた。


『まったく、神を脅そうとしてくるな』


 波均命は私を注意してくる。

 だけど、そんな物に動じるような私じゃないわよ。

 転生した以上は、私の居場所はこっちじゃなくて向こう側。だから、向こうにさっさと帰らなきゃいけないの。

 もう半年も経っちゃってるから、きっと大騒ぎしすぎて疲れてきていると思うわ。だから、少しでも早く帰って、安心させてあげたいのよ。


『考えていることがなんとなく伝わってくるが、そうは簡単にはいかぬぞ』


「どうしてよ」


 波均命の反応に、私は露骨に不機嫌な声をぶつける。


『おぬしの環境は、いろんな要素が絡み合って面倒なことになっておるのだ。調査を終えて判明したとしても、その一つ一つを順番に解決していかねば、転生したとかいう世界に戻ることもやすやすとはいかないということだ』


「……説明してくれるかしら」


『よかろう』


 なんか難しいことを言ってくるので、私は波均命に説明を求めた。

 私からの質問に、波均命はきちんと応じてくれている。


『……というわけだな』


 長ったらしい説明が終わったけれど、要点を押さえてくれたおかげで私はすんなりと理解をすることができた。


「つまり、私を異世界に送り届けた存在をはっきりとさせないと、向こうに戻るにも戻れないというわけなの?」


『うむ、そういうことだな』


 波均命の結論はそういうことだった。

 つまり、私が転生する原因となった力を再現しないと、私があちらの世界に戻ることは不可能なんだそうだ。何よ、その針の穴に糸を通すような面倒な話は。

 波均命の話に、私は頭が痛くなってきてしまう。


『一応、その力の残骸は確認しておるが、俺ではとてもじゃないがその再現は難しい。こればっかりは、当人を見つけ出さないとどうにもならないだろうな』


「はあ……。結局、進展はなしっていうことでいいのかしらね」


『まあ、そうなってしまうな』


 結局、冬の間に私が元の世界に戻る方法は見つけられなかった。ヒントが見つかっただけでもよしとしようかしらね。


「三月にもなったし、これからは私も海に潜れるようになるだろうから、自分でも探ってみることにするわ」


『うむ。あまり役に立てんで申し訳ないな』


「仕方ないわよ。別の世界だなんて、こっちの世界の人間には想像できないことだろうしね」


 波均命が精一杯に謝罪をしてくるけれど、あんまり咎めるようなことはしなかった。なにせ、私が活動できない間、一人で頑張ってくれたんだもの。

 最初こそいらついてはいたけれど、話を聞いている間に段々と落ち着いてきた。ここは素直に労うべきでしょうね。


「何か、お供え物はいるかしら」


『うむ。この間のちょこれいとでも構わぬぞ。なかなか俺好みの味だったからな』


「分かったわ。明日にでも買って持ってくるわね」


 私は波均命と約束をして、家へと帰っていく。


 結局、冬の間に状況の進展はなかった。

 海斗との仲も微妙なままだし、妹である真鈴ちゃんとの距離感もなんともあやふやな状態だわ。

 元の世界に戻るにしても、こっちの世界で落ち着くにしても、状況は本当にどっちつかずで困ったものよ。


(はあ……。私ってば、本当にこれからどうなっちゃうんだろうなぁ……)


 家に戻りながら、大きなため息が出てしまう。


「にゃっ?!」


 そんな中、猫の鳴き声が聞こえてくる。しかも、なんか変な鳴き声が。


「あっ!」


 目の前にいたのは、よく見たことのあるトラ柄の猫だった。


『ま、まずいにゃ!』


 トラ猫は逃げようとしている。

 しかし、私はその時に声が聞こえた気がして、動けなくなってしまった。

 結果として、私はそのまま猫を取り逃がしてしまった。


「うそ……。今、声が聞こえたような気がしたんだけど……」


 猫を逃がしてしまったということよりも、謎の声が聞こえてきたことに衝撃を受けた私は、その場でしばらくぼさっと立ち尽くしてしまう。

 だけど、いつまでもぼけっとしているわけにはいかない。


「いっけない。このままじゃお兄ちゃんと約束に遅れちゃうわ。さっきの猫は気になるけど、今はそれどころじゃないもの。家に帰らなくっちゃ!」


 我に返った私は、とにかく急いで家まで走って帰っていった。

 またあの猫と会えることを考えながら。

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