第86話 気になる態度
学校から帰ってきた私は、海斗とのジョギングを前に田均命の神社へと赴く。
私は拝殿の陰で声をかけると、田均命が姿を現した。
『どうしたのじゃ。なんかにやけた顔をしておるが?』
会うなりそんな指摘を受けてしまう。あれ、私ってばそんなに顔に出てたかしらね。
「いいことがあったら、人間そういう風になるものじゃないのかしらね」
『ふむ。まあ、いいのじゃがな。何があったというのかの』
私がちょっとふて気味に答えると、田均命はさらりと流して質問までぶつけてきたわ。まったく、困ったものだわね。
でも、隠し立てする必要もないから、私は素直にその質問に答えることにした。
「ちょっと私に対してきつく当たっていた子がね、仲良くしようって態度を改めてきたの。心を開いてくれたんだって嬉しくなってね」
『ふむ……』
私がにこやかに話しているというのに、田均命はなぜか表情が硬い。いいことじゃないのかしら。
「なによ、その態度……」
さすがに私も引っかかる。
『いや、わしもよいことだとはお思うのじゃが、なぜか分からんが、気になってしもうてな……』
私が不機嫌になって突っかかるけど、やっぱり田均命の態度がなんともあいまいな感じなのよね。一体何だっていうのかしら。
『おぬしが嬉しくなるのも不機嫌になるのも理解はできる。じゃが、わしの勘からして、その態度を改めてきた者には気をつけた方がよいと出ておる。心しておくとよいだじゃろう』
「むむむむ……。なんとも気分を損ねられた感じだけど、神様の勘じゃあ、軽視するわけにもいかないわね。一応注意しておくわ」
『うむ、その方がよいぞ』
神様の言葉だから、私は仕方なく受け入れることにした。でも、やっぱりなんか納得いかないなぁ。
私は両手を腰に当てながら、ずっと不機嫌な状態が続いている。
『うおっほん。それで、わしに会いに来た用件はそれだけかの?』
「ええ、そうよ。波均命様には調査を頼んであるから、頻繁に会いに行くのは迷惑だと思うもの」
『おぬしはわしを何だと思うとるのじゃ……』
自分のぞんざいな扱いを聞いて、田均命はなんとも嘆いているみたいだわね。
仕方ないじゃないのよ。私は転生したマーメイドたちの世界に戻りたいわけだもの。となると、海に詳しい波均命に頼らざるを得ないの。陸地しか納めていない神様だと、どうしてもね……。
私がそんな風に思っていると、なんともいえない表情を私に向けてくる。神様がそんな表情をしてどうするっていうのよね。
『はあ、仕方ないのう』
かと思えば、田均命は突然ため息をついていた。まったく、どうしたというのかしらね。
『わしの方は見ての通り、しっかりとした信仰がある。じゃが、弟は現状おぬししかまともに頼ってくれるものがおらぬ。これからも、弟を頼っておくれ』
「言われなくても、向こうに帰れるようになるまでの間、頼りにし続けるつもりよ。心配しないでちょうだい」
弟である波均命を気遣っているのは分かるので、私はしっかりと返事をしておいた。だけど、田均命は大きなため息をついていた。まったく、わけが分からないわね。
私は不機嫌な顔をしながら、田均命の神社を去っていく。
「まったくなんなのよ、あのため息は……」
何回も目の前で疲れたため息が腹立たしくて仕方がない。とはいえ、こっちもちょっとぞんざいにしすぎたから、おあいこかしらね。
神社から離れるにしたがって、私は少しずつ気持ちが落ち着いてくる。そうすると、自分も悪かったかなと反省できるようになっていた。
だけど、もう海斗との約束の時間だから、神社に戻っている暇はない。しょうがないので、翌日以降に謝罪を入れることにした。
約束の場所にやって来た私は、海斗がやってくるまでの間、しばらく待ち続けることにした。
ただ、暖かくなってきたとはいえ、まだまだ私にとっては厳しい季節。私は入念にストレッチをしながら海斗がやって来るのを待つ。
「おう、待たせたな」
「あっ、お兄ちゃ……ん?」
声が聞こえたので私が振り返ると、海斗が予想もしなかった人物を連れてやって来たのだ。
「ふふん、今日から私も参加させてもらうわね」
「ま、真鈴ちゃん?」
そう、そこにいたのは海斗の妹である真鈴ちゃんだった。
一体どういう風の吹き回しなのかしら。まさか真鈴ちゃんがやってくるなんて思いもしなかった。
「ふーん、お兄ちゃんが張り切っていると思ったら、マイちゃんと一緒だったからなのかぁ」
「真鈴には関係ないだろ。俺はこいつが体を鍛えたいっていうから、つき合わせてやっているだけだよ。特に意味はないぞ」
「またまたぁ……」
真鈴ちゃんの反応に、海斗はちょっとだけ邪険にしたような言い方を返している。なんとも意外な反応といえば意外だわね。
一方の真鈴ちゃんは、海斗の言葉にちょっと眉が動いたような気がするわね。どういうことなのかしら。
なんとも怪しい雰囲気の状況になってきたけれど、時間になったので私たちは海斗についていくようにして走り出す。
私は何かあるんじゃないかと警戒しながら走っていたけれど、終始、真鈴ちゃんがちょっと遅れては待つということを繰り返しただけで、特に問題視するようなことは何も起きなかった。
「それじゃ、また明日ね。お兄ちゃん、真鈴ちゃん」
「おう。すぐにリタイヤするかと思ったけど、案外続けられているな。見直したぜ」
「えへへへ」
海斗に褒められて嬉しくなってしまうわね。
「ぐぬぬぬ……」
素直に喜んでいたせいか、この時の真鈴ちゃんの悔しそうな表情を私は見逃してしまっていた。
私は何もなかったことに喜びながら、二人を見送った後、家の中へと入っていったのだった。




