第78話 たくらみとお節介
いいことを思いついた私は、早速行動に移すことにする。
ただ、この時代に適応したといっても、私は料理をしたことがない。
チョコレートを作るにしても、まったく知識がないのだ。
「……とりあえず、作り方を調べるところから始めましょうかね」
私はこの時代に普及している、パソコンとかいう箱に向かって調べ物をすることにする。
私の生きていた時代には、こんな便利なものはなかったわ。まったく、すっかり世の中は変わってしまったわね。
「えっと、『チョコレート 作り方』で検索っと」
慣れない手つきで検索バーとかいう場所に文字を打ち込む。
この時代の人間になってそんなに時間が経ってないから、まだ全然慣れないわよ。
私は必要な道具とやり方を、ノートにメモ書きをしておく。記憶力に頼ったところで、忘れてしまうと調べ直しだからね。手元に置いておくには文字起こしが最適なのよ。
「うっげぇ、温度管理とか面倒だわね。私の頃は食べられればそれでオッケーだったものね。はあ、面倒くさい……」
いい案が思いついたというのに、最初からいきなり挫折しそうだわ。
とはいえ、お兄ちゃんをなんとしても私のものをするには、この困難をどうにかして乗り越えなきゃいけない。
だって、うかうかしていたらあの女に持っていかれちゃうもの。
せっかく異世界にまで追い出したっていうのに、なんで戻ってきたんだか。本当に嫌な女だわ。
ああ、思い出しても腹が立つ。
私はだんだんとイライラしてきたので、なんとしてもお兄ちゃんを奪われないためにも、チョコレートを作ることを改めて決意する。
次の障害となるのは、両親だわね。
チョコレートを自分で作ろうとしたら、応援してくれるかどうかがよく分からない。私はとにかく警戒している。
だけど、自分の目的を果たすためには、やり遂げなきゃいけない。
私はダメ元で母親に話しかけてみることに決めた。
話すタイミングを探った結果、翌日、学校から帰ったところで母親に話をすることにした。
「お母さん」
「なあに、真鈴」
私が話し掛けると、母親が反応する。
「私、チョコレートを作ってみたいの」
両手をぎゅっと握りしめて、母親に訴える。
最初は驚いてはいたものの、母親は私の方を見てにっこりと笑っている。
「そっかそっか。真鈴も女の子だもんね。よし、それじゃ買い物に行きましょうか」
「えっ」
母親が手を叩きながらそんなことを言ってきた。
ちょっと予想していなかったものだから、私はものすごく驚いている。
「そうよね。真鈴も中学生だから、そういうことに興味を持つ年頃なのね。さっ、早く支度して。夕食の買い出しもあるから、一緒に買ってあげるわよ」
ものすごく乗り気な母親の姿に、私は口をパクパクとさせていた。
しかし、いつまでもぼーっとしていられないわ。母親はやる気十分みたいだから、言い出した私がこんな調子でどうするのよ。
とにかく私は、部屋に戻ってから服を着替えてくる。
戻ってきた時には、外から車のエンジン音が聞こえてきていた。
「さぁ、真鈴、早く早く」
私は母親に玄関から手招きをされている。
「ちょっと、出かけるのに戸締りは?」
「あとは玄関だけよ。抜かりはないわ」
私の質問に、母親は笑顔で答えてくる。さすが母親、抜かりがないわね。
そんなわけで、私は母親と一緒に買い物をしに出掛ける。
私は調べたメモを持ってショッピングモールの中を歩いているけれど、母親は私はメモで確認するよりも早くショッピングカートの中にあれこれと放り込んでいた。
「えっと、お母さん……?」
「真鈴、心配しなくてもいいのよ。あなたはどんなチョコを作りたいのか、それだけ考えていてちょうだい。使わなかったチョコは、自分たちで食べちゃえばいいんだから」
「お、お母さん……」
母親の言い分を聞いて、私はなんとなく気が楽になっていった。
しかし、当初の目的を忘れるわけにはいかない。
私は、お兄ちゃんを、あの人の魂を自分に縛り付けるために、チョコレートを作るんだから。こんなことで絆されたりはしないわ。
だけど、こういう時は本当に大人っていうのは頼りになるわね。
なんといっても、私は今の年齢は実際に生きていた時の年齢そのものだからね。知識という点では、この時代の大人たちには絶対に敵わない。
だから、利用できるものはなんだって利用してやるわよ。お兄ちゃんを、あの人の魂を手に入れるためだったら、なんだってしてやるわ。
母親がポイポイとショッピングカートの中に商品を放り込んでいく様子を見ながら、私は改めて強く決意をする。
家に帰ってからすぐだった。
今度は母親による料理教室が始まる。
いや、まさかチョコレートの作り方まで教えてくれるとは意外だったわ。
私はその作り方を目の前で見てしっかりと覚えていく。私のその真剣な表情に、母親は優しい笑顔を向けていた気がするけれど、作業の様子を見ていてあんまりよく分からなかったわ。
なんにしても、お兄ちゃんを自分へと振り向かせる準備が整った。あとは、自分でチョコレートを作り上げるだけね。
目的を達成する算段がついたことで、私は心の中で黒くほくそ笑んでいたわ。




