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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第77話 少女のたくらみ

 はあ、治療が遅れたせいで手がまだ痛いわ……。

 私はまだ赤い腫れが残る自分の手を見つめている。

 あれから一週間経つというのにまだ消えない。まったく、田均命のやつも神の端くれだからか、この私にはよく効くものだわね。

 あの離れ小島から草を持ち帰るだけだというのに、あの役立たずの下僕は時間をかけ過ぎだわ。


「はあ、この手が治らない限り、やることが減るじゃないのよ。本当にバッカみたいだわ……」


 やけどと偽って治療を施した手を見つめながら、私は歯をギリッと食いしばる。

 遅れてではあるものの、あの草を持ってきたこともあって、私の手は少しずつ良くなってはいる。

 だけど、利き手が使えないとなると、普段の生活は結構不便なものだったわ。


 私は夜、一人で自分の手を見つめながらため息をついている。

 そんな中、窓をカリカリと引っかく音が聞こえてくる。これは下僕が来た合図だわね。

 私は窓へと近付き、カーテンを開ける。そこには間違いなく虎柄の猫がいる。私の下僕である猫又だ。


「まったく、役立たずが何の用よ」


『主ー、意地悪なことをしないで入れて下さいよ。主に報告があるんですから』


 カリカリと窓を引っかきながら、下僕は私に真剣に訴えてくる。


「まったくしょうがないわね。くだらない報告だったら二階から投げ捨てるからね」


『主の鬼、悪魔、怨霊!』


「うるさいわね。猫又に怨霊とかいわれたくないわ」


 私が脅すも、生意気な下僕が言い返してきた。私は睨みつけながら、さらに言い返しておいたわ。

 まったく、ここまで生意気なら、本当に二階から投げ捨ててやろうかしら。猫だし妖怪だから平気でしょ。


『うっ、急に寒気が……』


 私の殺気を感じ取ったのか、下僕が震えているわ。ははっ、いい気味ね。

 私と年季が違いすぎるんだから、下僕はおとなしくしておけばいいのよ。


「それで。下僕は一体何の用なのかしらね」


『あの女の監視をして報告しろって言ったのは主じゃないですかにゃ。動きがあったから報告に来ただけですにゃあ』


 ちっ、いちいち口答えすんじゃないわよ。今日はずいぶんと生意気だわね。

 まあ、報告があるんならさっさと聞いてあげようじゃないのよ。そう思った私はベッドに座ってじろりと下僕を見下ろす。

 私の正面に来た下僕は、震えた様子を見せながら私の前に座る。

 ふふっ、この構図、本当に気持ちいいものだわね。あはははは。


「さっさと報告を始めてちょうだい」


『分かりましたにゃあ』


 下僕はおとなしく私に報告を始める。

 どんな報告かと構えていたのだけれど、下僕の話した内容に私は苛立ちを覚えた。


「それは本当なの、下僕」


『本当ですにゃあ。この目ではっきりと見ていたので、間違いないのにゃ』


 あの女、お兄ちゃんにチョコレートを渡すとか、なに思い上がったことをしているのよ。

 報告を聞いた私は、下僕をぎろりと睨み、激しく追及する。


「お前、何を黙って見ていたんだ。奪ってでも阻止するべきだっただろうが。この役立たずが」


 私が激しく問い詰めると、下僕は怖がって後退っている。下僕に後退の二文字はないわよ。


『無茶苦茶言わないで下さいにゃあ……。チョコレートは猫にとって毒なのにゃから……』


「うるさい。下僕の命など知ったものか。お前は私の下僕なのだから、黙っていうことを聞いていろ」


 私が口酸っぱく言い聞かせようとするも、下僕は嫌がるそぶりを見せている。くそっ、これだから猫は困るんだ。

 しかし、私は下僕に対してちょっと正直な反応をしすぎた。

 部屋の扉がコンコンと叩かれる。


「おーい、真鈴。何を一人でぶつぶつ言っているんだ?」


「お兄ちゃん、なんでもないよ。ちょっと見ていた動画に反応しすぎただけだから」


 くそっ、下僕に対して素直に反応し過ぎたか。隣の部屋からお兄ちゃんがやってきちゃったじゃないか。

 私が下僕を睨みながらも、お兄ちゃんの問い掛けに反応していた。


「そっか。あんまり近所迷惑にならないように気をつけるんだぞ」


「うん、分かってるよ、お兄ちゃん」


 私が答えると、廊下を歩いていく音が聞こえる。どうやら無事にお兄ちゃんは部屋に戻っていってくれたみたいだ。ドアの音まで聞こえたから間違いないわ。

 ほっとひと安心すると、私は再び下僕へと鋭い視線を向ける。


「まったくお前のせいで……」


『ひ、酷いにゃーっ!』


 私がお仕置きをしようとすると、下僕は窓へと飛び逃げていく。


『あ、あたしはあの女の監視に戻りますにゃーっ!』


 器用に窓を開けて外へと出て行ってしまった。


「ちっ、逃げられたか。下僕のくせに窓を器用に開けるとはな……」


 私は冷たい冬の空気が入らないように、窓を閉める。走り去っていく下僕を見下ろしながら、カーテンも閉めておいた。

 下僕もいなくなって落ち着いた私は、ちょっとは下僕の話を思い出す。


「……そうか、チョコレートか。そろそろバレンタインだったわね」


 今週迎えるバレンタインデーを思い出し、私は思わず顔をにやつかせてしまう。


「この時代の知識と、私が持っているまじないの力を使えば……。ふふっ、あはははは」


 いいことを思いついた私は、つい笑いがこぼれてしまう。

 そうとなれば、早速実践しなくちゃね。問題はチョコレートを作ったことがないくらいだけど、作り方くらいなら調べればすぐに分かるわ。

 待っていて、お兄ちゃん。必ず私のとりこにしてあげるからね。

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