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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第73話 悩める乙女心

 普段からお世話になっているわけなので、私はバレンタインにチョコレートを渡そうと決意をする。

 一応これでも、義理チョコくらいは渡したことあるし、そのために手作りだってしたこともある。私はひとまずその時のことを思い出しながら頑張ってみることにした。

 ただ、問題は購入のタイミングかな。もう日数もないし、購入のチャンスがあるとしたら、明日の午後休診のタイミングくらいだった。


「まっ、やれるだけやってみましょうかね」


 私は意気込むと、お風呂と食事の準備に入る。

 お風呂も食事も水に関しては私の魔法があるので、蛇口を一切捻らなくていいのは本当に助かる。マーメイドということもあって、水魔法はとにかく得意だもの。


「アクアフラッシュ!」


 こういって風呂釜を洗ってあげると、なんということだろうか、洗剤すらも不要というんだからね。うん、魔法様様といったところだわ。

 私という家族が増えたことで膨らんだ食費とかいろんなものがあるから、こういうところで節約しないとね、うん。

 とはいっても、水に関しては医院の中のトイレと洗面台があるから、知れているといったら知れてるわね。

 私はとにかく、おじいちゃん先生に相談するために今日の家事はとにかく気合いを入れて行った。


 夜九時を回って、ようやくおじいちゃん先生が仕事を終えて戻ってきた。

 医院の営業は八時までなんだけど、ギリギリにやって来る人もいるから、どうしても終わるのは結構後になっちゃう。一時間ならまあ普通かなってところみたい。


「ふぅ、やっと終わったわい」


「おじいちゃん、お疲れ様。お風呂もご飯も、どちらからでも大丈夫だよ」


「すまんな、マイ。それじゃ、今日はお風呂を先にするかのう」


「分かったわ、おじいちゃん」


 相当お疲れのようで、おじいちゃん先生は先にお風呂を選んだみたいだ。

 その分、私のご飯も遅くはなっちゃうけど、そのくらいの我慢くらいならいくらでもできるわ。

 おじいちゃん先生がお風呂に入っている間に、私は夕食の支度をてきぱきと行う。十分くらい経過したところで、私はおじいちゃん先生を呼びにお風呂に向かった。

 こうして、無事にお風呂からあがったおじいちゃん先生と一緒に食卓を囲む。

 最初こそ黙々と食べていたものの、私はおじいちゃん先生に話を切り出すことにした。


「おじいちゃん、チョコレートを買いに行きたいの。手作りをしてみたいんだけど、いいかな?」


「ふむ……」


 普段はせんべいなどを食べているおじいちゃん先生は、チョコレートと聞いてちょっと表情を硬くしていた。やっぱり、洋菓子系はおじいちゃん先生はあまり好みではみたい。


「お、おじいちゃんはまた別に用意するから。あのお兄ちゃんにお世話になってるから、そのお礼がしたいだけなの」


「ああ、海斗くんか。ならば仕方ないのう」


 海斗にお礼がしたいと話したら、やっとおじいちゃん先生の表情が緩んでいた。さっきまでの表情は、本当にちょっと怖かったわ。

 ともかく、どうにか許しが出たので、買い物の時にチョコレートを買うことができる。

 実は、ここまでの生活でもほとんど洋菓子の類は買わせてもらえなかった。どうにか頼み倒してという感じだった。そのくらい、おじいちゃん先生は洋菓子を好んでいないのよね。

 だから、ここまではもらったお小遣いでこっそり買うくらいでしか手に入れられなかったのよね。おじいちゃん先生ってば、本当にそこだけは融通が利かなかったのよ。

 とりあえず、バレンタインのチョコレートを作るための材料を買うことの許可が下りたので、私はほっとひと安心といったところだわ。


 あとは、渡すシチュエーションをどうにかしないといけない。

 現時点では、私が海斗と会うのは夕方のランニングの時だけだわ。それ以外に会う可能性があるとすれば、買い物の時にばったり会うことくらい。

 ただ、買い物の時だと高確率で真鈴ちゃんも一緒なので、私を邪険にしている真鈴ちゃんがいては、とても渡せるわけがない。


(はあ、ムードも何もないけど、ランニングの別れ際に渡すのが一番かしらね。持って帰った時には溶けてそうだから、そこをどうにかしないとなぁ……)


 渡すタイミングを考えた私だったけど、やっぱりそれが一番っぽい。

 いや、バレンタインのチョコを渡すシチュエーションとしてはどうなのかっていうのはあるわよ。でも、接点の少ない相手なんだもの。どうしようもないわ。

 とりあえず、その方針で頑張るとしましょう。


 海斗へとチョコレートを渡す方法を考えた私は、明日も学校があるのでひとまず眠ることにする。

 なんといってもおじいちゃん先生の仕事が終わってからの食事だったし、あとの片付けも含めたら余裕で十時半を回っていたんだもの。

 それからあれこれ考えていたら、もう日付が変わりそうになっている。


「よし、バレンタインデー、頑張るぞ。頑張れ私、えいえいおーっ!」


 改めて気合いを入れた私は、しっかりと布団をかぶって、部屋の明かりを消して眠りにつく。

 この五か月間の感謝を込めて、海斗にチョコレートを渡す。そのことだけを考えながら。

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