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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第71話 気になるからこっそりと

 一日置いて、私は真夜中に家をこっそりと抜け出していた。


(水魔法でカギのレプリカが作れるなんて思ってもみなかったわ。魔法って便利……)


 私は懐に拾ってきた猫を忍ばせて家を出ていく。

 波均命はああは言っていたものの、私は好奇心から動いてしまっていた。


「寒いかもしれないけど、我慢しててね」


「みゃあ」


 猫は私のコートの懐でおとなしくしていた。

 私はステルス魔法を使って、夜の街の中を海岸に向かって走っていく。

 日々の走り込みのおかげか、それとも魔法による水の膜のおかげか、思ったよりも寒くない。

 私は、海斗に教えてもらった用水路までやってくる。服を破いては困るので、寒いのを我慢しながら素足になると、持ってきたカバンの中に靴などを放り込む。


「さあ、あの小島まで泳ぐわよ。苦しいかもしれないけど、しっかりつかまっててね」


「みゃ、みゃあ」


 下半身を魚の状態に戻し、久々のマーメイドスタイルに戻った私は、海の中へと飛び込んでいく。


 やっぱり、立春を過ぎたとはいえど、海の中はまだまだ冷たい。

 それでも、私はどうしても調べたくて我慢して泳いでいく。

 コートの下に隠している猫は、とにかく息ができるように水の膜の中に空間を確保している。マーメイドである私と違って息ができないからね。

 そうして、どうにかこうにか、私は真夜中の離れ小島に到着する。体が凍えて動けなくなりそうだわ。早くカイロを仕込んだ靴を履かなくっちゃ。

 私は上陸するなり、脱いだ服を再びしっかりと着込み、離れ小島にようやく両足で立った。


「夜中に来ると、不気味だわね。でも、こんな時間でもないとやって来ることができないからなぁ」


 小島に漂うあまりにも不気味な雰囲気に、私は震えそうになってしまう。


「うにゃあ……」


 コートの中から姿を見せた猫も、怖そうに震えている。

 そうかと思えば、私のコートから飛び出して、小島の中を走っていく。


「あ、ちょっと待ちなさいってば」


 私は猫の後を追いかけていく。

 島の中央にある祠までやって来ると、がさがさという音が聞こえてくる。どうやら、猫は草の中に分け入っているようだ。


「もう、どうしたっていうのよ」


「にゃ、にゃあっ!」


 私に見つかった猫は、草をバシバシと叩きながら、私に何かをアピールしてくる。

 マーメイドである私だけど、さすがに猫語は分からない。何を言っているのか分からないけれど、猫は必死に草と格闘しているということは分かった。


「この草が欲しいの?」


 もしやと思って私が声をかけると、猫は何度も首を縦に振っている。どうやらこの猫は私の言っていることが分かるっぽい。


「そっかそっか。ちょっと待ってて、採ってあげるから」


 私がそう言うと、猫は草から離れておとなしくしていた。

 なんに使うのか分からないけれど、欲しいっていうのなら採ってあげなきゃね。

 だけど、私が草に触れた瞬間、不思議な感覚が走る。

 ぞわっとした寒気だった。


(なに、今の感じ……。もしかして、この草のせいなの?)


 でも、感じたのはほんの一瞬。すぐにその嫌な感じは消え去ってしまっていた。

 なんだったのかと思いながらも、私は草を少しばかり摘み取っていた。


「こんなくらいで大丈夫かしら」


『ありがとにゃ』


「え?」


 どこからともなく、声が聞こえた気がした。

 私は草を抱えたまま辺りをきょろきょろとするも、人がいる気配はない。一体どこから聞こえた声なんだろうか。私はちょっと怖くなってしまった。

 そういえば、ここは寂れた祠のある小島だったわね。だったら、用が済めばさっさと帰るのが吉というものだわ。


「さあ、町に戻りましょう。おじいちゃんたちが目を覚ます前に帰らないと、心配かけちゃうわ」


「みゃあん」


 猫はそう鳴くと、私の懐に再び飛び込んできた。

 まったく、猫ってば可愛いものだし、気ままなものよね。

 私は笑いながらも、海に近いところまで降りていく。海岸に到着すると、来た時とは逆に再び下半身の服を脱ぐ。こうしないと、マーメイドに戻った時に服が破けちゃうからね。

 猫を懐に抱え、草は服と一緒にカバンに突っ込んだまま、町の方へと戻ってきた。

 用水路まで戻ってきた私は、そこで再び服を着る。

 その時だった。


「あっ!」


 懐から猫が飛び出て来たかと思うと、離れ小島で集めてきた草を口にくわえて、そのまま走り去ってしまった。

 あまりに突然のことで、私はまったく反応できなかったのだけど、妖怪だし野良猫みたいだからあるべきところに戻っていったとみておいた方がいいかしらね。

 猫に逃げられちゃったけど、私はあえて割り切ることにした。同じ町に住んでいれば、また会うこともあるでしょうしね。


「ううっ、寒いわ……。早く家に帰らなきゃ。おじいちゃんが起きる前には絶対帰るわよ」


 どうにか服を着た私だけど、やっぱりまだ朝晩が冷え込む時期とあって、とにかく寒すぎる。

 大きく体を震わせた私は、早く温まるためにも家へと向けて慌てて走り始める。

 猫がいなくなっちゃったのは残念だけど、猫が何をしに小島に行こうとしたのか分かっただけでもよしとしましょう。

 魔法でステルス状態になった私は、車に気をつけながら夜の街中を駆けていった。

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