第7話 出戻りショッキング
神社を後にして、次の場所に向かおうとした私たちの前に、私がよく知る人物が姿を現す。
「あっ……」
「うん、どうしたんじゃ?」
「いえ……」
私は一瞬反応したけれど、おじいちゃん先生に声をかけられて、気のせいだと首を横に振った。
だけど、その人は私がよく知っている人で間違いなかった。
うん、私の前世のお母さんだ。
「こんにちは、先生」
「やあ、浅瀬さん。お散歩ですかな?」
おじいちゃん先生はお母さんに話しかけている。
私はというと、お母さんに顔を見られないように、おじいちゃん先生の後ろに隠れている。
「まあ、そんなところですね。健康のために歩こうと思いましてね」
「そうかそうか。殊勝な心掛けじゃのう」
おじいちゃん先生とお母さんが話をしている。ああ、懐かしい声に泣きたくなってくる。
「先生、後ろにいるのは誰ですか?」
「ああ、この子かの。うちの孫を預かっておるんじゃよ。まったく、また海外出張らしくてな」
「そうですか。大変ですね」
お母さんがしゃがんで私の方を覗き込んでくる。でも、私は顔を見られたくないから、そのまま姿をおじいちゃん先生の後ろに隠していく。
「恥ずかしがっておるのかの」
「みたいですね。私は嫌われましたかね」
お母さんたちは困ったような笑顔で話をしている。
「ねえ、お名前だけでも教えてくれる?」
お母さんは首を小さく傾けながら、話しかけてくる。
「マイっていいます」
名前だけならいいかと、私は名前だけを答える。
名前を聞いたお母さんはにっこりと微笑んでいる。
でも、この反応を見て、私は何か違和感を感じた。なんでだろうか。
「そう。私は浅瀬唯っていうの。よろしくね、マイちゃん」
「は、はい」
お母さんに自己紹介をされて、私はこくりと頷いて反応しておいた。
私が戸惑っていると、お母さんは立ち上がっておじいちゃん先生に話しかける。
「さてと、そろそろお昼の支度をしないといけないので、私は帰りますね」
「うむ、暑いから気をつけて帰るのじゃぞ」
「それは先生もでしょう?」
「ほっほっほっ、そうじゃな」
おじいちゃん先生とお母さんは、話を終えて別々の方向に歩き出した。
私はお母さんの様子が気になっていた。
だって、私がいなくなってから半月程度なら、まだショックを引きずっているはずだもん。でも、見た感じ、そんな雰囲気を感じなかった。
「ねえ、おじいちゃん」
「ん? なにかの」
「今のおばちゃん、子どもっているの? 私のことをじっと見てきてたけど」
私はドキドキしながら質問を投げかけていた。
「いや、浅瀬さんのところは子どもはおらんな」
「えっ?!」
おじいちゃん先生から返ってきた答えに、私はショックを受けていた。
この世界では、私はいなかったことになっている?
衝撃的な答えに、私は目の前が真っ白になりかけてしまう。
「おい、大丈夫かの」
「あ、はい。大丈夫です……」
おじいちゃん先生に抱えられて、私はどうにか正気に戻る。
「あまり他言することではないのじゃが、あれでもだいぶ治った方なんじゃよなぁ。なにせ子どもがおらんはずなのに、家の中には今の高校の制服があったとか、不思議な現象が起きておってな。一時期、とても取り乱しておったんじゃ」
「……そうなんですか」
おじいちゃん先生の説明に、私はどうにか反応を返している。
でも、相当にショックだった。私がいた証はあるみたいだけど、記憶からすっぽり抜け落ちてしまっているんだもの。
さらに話を聞いてみたんだけど、おじちゃん先生のところにも、不可解なカルテが残っていたらしい。
「おじいちゃん、それ、見せてもらってもいい?」
「うん? ダメじゃな、カルテは個人情報の塊だからな」
「そうですか……」
当然の答えに、私はしゅんと下を向いてしまう。
その私の姿を見かねたのか、おじいちゃん先生は私に話しかけてくる。
「さて、そろそろ帰るとしようか。こう暑い中だと、マーメイドとかいう存在には厳しかろう?」
「あ、大丈夫ですよ」
私はにっこりと笑顔を見せる。
だけど、よく見ると全身から汗が吹き出してきている。さすがに無茶をしているかな。私の様子を見たおじいちゃん先生は、困った顔をしていた。
「うん、ダメじゃな。戻ったらお風呂を準備するから、ジュースでも飲んで待っていなさい」
「はーい」
いろいろと頭の中が混乱する中、私はおじいちゃん先生に手を引かれながらおじいちゃん先生の医院へと帰っていく。
(そっか。みんなの記憶から抜け落ちてしまっているから、あまり騒がしさを感じなかったのか。人一人が行方不明になっているのなら、半月程度の今ならまだ騒ぎになっているはずだもん)
おじいちゃん先生に言われた通り、私は冷蔵庫からジュースを取り出してごくごくと飲んでいる。元々海の中に住むマーメイドだからか、ジュースではちょっと物足りない気がする。
(はあ、せっかくこっちの世界に戻ってきたっていうのに、ショックが大きすぎて喜べないわ……)
その日の私はすっかり気持ちが沈んでしまったので、部屋の中でダラダラと寝転んですごしたのだった。




