第69話 敵陣真っただ中
「うみゃっ!?」
あたしははっと目を覚ましたのにゃ。
なんだろう、すごく意識がぼやぼやするにゃ。
『ふわぁ~、なんか妙な夢を見たような気がするにゃ。なんか人魚の手によって介抱されていたような……』
「あっ、起きたのね」
『みゃ、みゃっ?!』
聞いたことのある声が聞こえてきて、あたしは一気に目を覚ましてしまったのにゃ。
おそるおそる顔を上げてみると、そこには例の人魚の姿があったのにゃ。一体何があったのか、あたしはまったく覚えていないにゃ。
「よかった、無事に元気になったのね。手をかまれたのは恨んでいるけど、目の前で死なれちゃったらさすがに寝起きが悪くなっちゃうからね」
人魚のやつは、そんなことを言いながら笑っているのにゃ。一体どうしたというのにゃ……?
あたしは首を傾げて考え込んでしまう。
「それ、私はもう学校に行くから。お前は家でおとなしくしておいてね。まだ本調子じゃないだろうしね」
そうとだけ人魚は話をすると、とっとと部屋から出て行ってしまったにゃ。
「おじいちゃーん、猫ちゃんのことをお願いね」
「任せておけ。とはいえ、わしも面倒は見れんがな。看護士の中に猫好きがおるから、彼女にでも任せておくかのう」
にゃにゃ。誰か知らない人間に面倒を見られてしまうのかにゃ?
うににに、さすがに数十年と生きる猫又様としちゃあ、そんなのは許せないにゃ。
あたしは逃げようと体を動かそうとする。だけど、思ったよりも体がいうことを聞かない。
そういえば、あたしは主の命令で離れ小島に生えている草を取りに行こうとしていたはずにゃ。
なのに、どうしてあたしはこんなところにいるのかにゃ。
ううん、思い出せないにゃ……。
「おお、起きておったか」
あたしの後ろから声が聞こえて、つい体をビクンと反応させてしまったにゃ。
誰かと思えば、人魚と一緒に暮らしているじじいにゃ。ということは、やっぱりここはあの人魚の家なのかにゃ。
あたしは精一杯に考え込む。
ぐぅー。
そんな時、あたしの大きなおなかの音が響き渡ったにゃ。
にゃにゃにゃ、恥ずかしいのにゃ。
「おやおや、そういえば朝食を与えておらなんだな。すまんな、ちょっと猫でも食べられるものをすぐに用意するからの。待っておれ」
じじいはそう言って、あたしの前から姿を消したにゃ。
正直、人間からの施しなんていうのは、猫又からすれば恥にゃ。でも、今のあたしは思うように動けない。
ぐぬぬぬ。ここは恥をしのんでいただくとするかにゃ。
ついでに、あの人魚のことを探ってやるのにゃ。
あたしは一時的にプライドを捨てて、あの人魚の秘密を探るために、今日のところはこの家でおとなしくすることに決めたにゃ。
『はあ、ここは温くていいにゃぁ』
はっ!
あたしは一体何をいっているのにゃ。
いけないいけない。あの人魚のところで和んでいるだなんて主に知れたら、きっとてひどい目に遭わされてしまうにゃ。
なんとしても、あの人魚の情報をかき集めて、主のお土産にしなきゃいけないにゃ。
「ほーれ、ミルクがゆに水煮缶の魚で悪いが、これで我慢しておくれ」
『みゃみゃ?!』
あたしが意気込んでいると、爺が何かを持ってやって来たにゃ。
警戒して身構えていると、あたしの目の前にご飯が置かれたのにゃ。
それにしても、どういう組み合わせなのにゃ。まあ、出されたからには食べるのが流儀だから、食べてやるのにゃ。
野良生活が長いから、食事のありがたさはよく分かっているからにゃ。
「おお、気に入ってくれたか。お昼はちょっと遅くなるかもしれんが、我慢しておくれよ。あまり気にかけてやれんが、おとなしくしておいておくれ」
「みゃーん」
爺の言葉に、あたしはおとなしく返事をしておいた。
追い出されるのは勘弁なのにゃ。こう思うようになったのは、大体主のせいにゃ。おとなしくしろというのなら、あたしは得意だから任せるにゃ。
爺が見ている前で、あたしはとにかくご飯をもりもり食べたのにゃ。
ああ、こんなご飯なんて久しぶりなのにゃ。
あたしが食べ終わると、じじいはあたしにいい子にしているように言い残して、餌の入っていた器を持っていったにゃ。
しばらくすると、あたしは完全に一人になったみたいにゃ。
ならばと、あたしは猫又の特殊変化を使うにゃ。
「猫だと探しづらいから、この姿でいないとにゃ。でも、人が来たらまずいから、周りには注意しないとにゃ……」
人間の姿になったあたしは、あの人魚の部屋の中を物色する。
主の有利に働くように、弱点を探すためにゃ。
ただ、荒らした形跡は残さないようにしないとにゃ。あたしはいい子だから、こっそりとやるのにゃ。
とにかくあたしは、人がいないことをいいことに、あの人魚の部屋の中を一生懸命探してやったにゃ。
「はあ……、何もめぼしいものが出てこないのにゃ……」
お腹がぐうっとなりそうになるくらい頑張ったのに、弱点になりそうなものは何も見つからなかった。
「うう、このままじゃ主に叱られるのにゃ……。でも、今のあたしじゃ、これ以上は無理にゃあ……」
すっかり力尽きてしまったあたしは、仕方なく猫の姿に戻る。
もちろん、荒らした形跡はきちんと消しておいたにゃ。
うう、草も取ってこれなかったし、これじゃ主に合わせる顔がないにゃ。一体どうしたらいいのにゃ……。
あたしはぬくぬくとした部屋の真ん中で、そのまま眠りに落ちてしまっていたにゃ。




