第68話 さすが妖怪
私は猫を連れて帰り、がっちりと布団でくるんでおいた。とにかく、冷えた体を温めないといけないからね。
「えっと、暖房暖房っと……」
私が使っている部屋は、長く使っていなかったせいかエアコンがない。その代わり、この間買ってくれたファンヒーターがあるので、それでどうにか部屋を暖める。
(頑張ってよ、猫ちゃん)
たくさんの毛布でぐるぐる巻きにした猫を、私はしばらくそのままにしておく。
手洗いうがいを済ませて戻ってくると、猫ちゃんはまだ小刻みに震えているようだった。
(う~ん、さすがに私は猫の飼い方が分からないからなぁ。どうしたらいいんだろう……)
寒がっているからということで、とにかく体を温めるようにはしたけれど、それから後がまったく思いつかない。私はただ右往左往するばかりだった。
おじいちゃん先生なら少しは知っているかも知れないけれど、あいにく今は診察中で声がかけられない。ああ、どうしたらいいのよ。
悩んだ私は、しばらく猫と添い寝をして過ごすことにした。誰かが近くにいれば安心できるだろうから。
「どうにか元気になってよね、猫ちゃん」
私はそっと猫の体を撫でて、そのままじっと見つめ続けた。
それからどのくらい経っただろうか。
「マイや、マイ。これ、起きんか」
「うん……、おじいちゃん?」
私は声をかけられながら、体を揺さぶられている感覚を覚えた。
寝ぼけた目を擦っていると、目の前にはおじいちゃん先生の姿があった。
……どうやら私は眠ってしまっていたらしい。
「あれ?! 私……」
部屋の明るくなっている中、私はガバッと体を起こす。
どうやら、猫を抱えながらそのまま寝てしまっていたようだ。
「まったく、よく眠っておったのう。いつもなら食事を用意して待っておるのに、姿が見えんかったから様子を見に来たんじゃが、まさか猫を拾ってきておるとはのう」
「はっ! そうよ、猫、猫ちゃんはどうなったの?」
私は体を起こして、おじいちゃん先生に聞いてしまう。必死な私の姿を見て、おじいちゃん先生はにっこりと笑っていた。
「なあに、心配せんでよいよ。マイや、とにかく食堂にいらっしゃい」
「は、はい」
おじいちゃん先生の笑顔に、私は従うことしかできなかった。
ゆっくりとおじいちゃん先生の後ろについていくと、食堂にはあの猫ちゃんがいることがはっきりと確認できた。どうやら体が回復して起きられるくらいになったみたいだ。
「あっ、猫ちゃん。よかったぁ……」
「うむ。わしが一度様子を見に行った時には起きておってな。わしにすり寄ってくるものだから、牛乳を温めて与えておったんじゃよ」
「そっか。回復してたんだね」
「とりあえず、夕食は準備したから、食べながら話を聞こうではないか」
「はい、おじいちゃん」
私はおじいちゃん先生の言うことに従い、そのまま食堂の椅子に座る。
おじいちゃん先生と向かい合いながら、私はちょっと緊張してしまっていた。
よく思えば、おじいちゃん先生の手料理は久しぶりかな。
こっちに戻ってきてからしばらくは、おじいちゃん先生が作ってくれていたことを、つい思い出してしまっていた。
「あの猫は、一体どこで拾ってきてきたのだ」
「波均命様の神社です。私、神様とも話ができて、波均命様から託されたんですよ」
「ふむ。まあ、マイがそういうのなら、そういうことなのじゃろうな。魔法という不思議な力をもっておるのだから、そのようなことが起きてもまったく不思議ではないからの」
意外とおじいちゃん先生は信じてくれたみたいだ。
「おじいちゃん先生」
「なにかの」
「猫ちゃんが元気になるまで、ここで飼っても大丈夫、ですかね?」
「まあ、大丈夫じゃろう。だが、世話をするものがおらんからなぁ。そこだけが不安といえば不安じゃのう」
おじいちゃん先生は難色を示しながらも、許可をしてくれたみたいだ。
普通の猫なら危険かもしれないけれど、この子は波均命が妖怪だって言ってたし、多分言い聞かせれば大丈夫だと思う。
私は食事の席を一度立って、床でミルクを飲んでいる猫に近付いていく。
「半日くらいお前ひとりになっちゃうけど、大丈夫?」
「うみゃあ」
私の言葉が分かっているのか、猫はそう鳴きながら首を縦に振っていた。さすがは妖怪。
波均命には今夜か明日が峠って言われていたのに、まさかその日のうちに回復しちゃうなんて思わなかったわ。
でも、まだ油断はできないだろうし、明日はとにかく家の中でじっとしててもらわないとね。
私は再び椅子に座り、残りの夕食を平らげる。
私は片付けを引き受けて、おじいちゃん先生にはゆっくり休んでもらうことにした。
食事の片付けが終わると、私は再び猫へと近付き、声をかける。
「一緒に眠りましょうか。ね?」
「にゃあん」
猫は首を縦に振りながら鳴くと、私にすり寄って来ていた。
最初にかまれた時はびっくりだったけど、懐いてくれてよかったと思うわ。
私は猫を拾い上げると、部屋へと戻っていく。
「それじゃお休みね」
「うみゃあん」
私は猫が無事に回復したことに安心して、その日は一度眠っていたというのに、ぐっすりと眠りにつくことができたのだった。




