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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第64話 豆まき

 豆まきの当日を迎える。

 そう、今日は節分だ。

 だけど、私は学校。五時間目までばっちりあるので、終わってすぐに向かったとしても午後三時は過ぎてるかな。

 私は授業を受けながら、大急ぎで神社に向かうことだけを考えていた。


「ねえ、波白さん」


「ごめん。今日は神社に行かなきゃいけないの。話はまた今度!」


「あっ……」


 授業が終わるとクラスメイトに声をかけられたものの、私はさっさと教室を出て田均命の神社へと走っていった。

 付き合いの悪い人って思われたかもしれないけど、今日の用事を外すわけにはいかないからね。うん、しょうがない判断よ。

 とにかく私は、寒い街並みを必死に駆け抜けていった。


 そうして、午後三時を前にして、田均命の神社に到着する。

 毎日のランニングの効果が出ているのか、思ったよりも苦しくない。努力って大事なんだなぁ。

 えっと、それはそれとして……。豆まきの参加は、確かお守りを売っている場所に申し出ればいいんだったわね。

 神社の鳥居を、一礼してからくぐっていく。


「すみませーん」


「はい。あら、豆まき参加者希望の子ね」


「はい、そうです」


「それじゃ、ご案内しますので、少々お待ち下さい」


 私は職員の人に言われて、ちょっと待つことになった。

 しばらくすると、巫女装束を着た人が表に出てきて、建物の中へと案内される。

 案内された部屋には、私以外にも数名いるようで、この人たちと一緒に豆をまくことになるらしい。

 場所は拝殿って呼ばれる、いつもお賽銭をしている場所の近くの特設舞台なんだって。

 私は神社が用意した法被に腕を通し、豆の入った小袋が詰まった枡を受け取る。これで、豆まきの準備ができた。

 ただ、最後の豆まきの時間は午後四時からなので、もうちょっと待たなくちゃいけないみたい。


 参加者同士で適当に時間を潰していると、ようやく始まりの時間を迎える。

 私たちは舞台に移動して、境内を見下ろしている。眼下には境内の豆まきイベントに集まった参拝者たちがたくさんいる。

 別に有名人がいるわけでもないのに、なんでこんなに集まっているのかしらね。なんとも不思議な光景だった。


『ほっほっほっ。これだけ人が集まるところを見ると、わしの信仰はまだ衰えておらぬということじゃな。いや、ありがたいことじゃ』


(ちょっと、田均命様?!)


 私がたくさんの人を前に怯んでいると、急に真横に田均命が出現した。

 さすがにびっくりしたけれど、こんな大勢の前で騒げるわけがない。私は心の中で思いっきり驚くことにした。


『この豆は、わしが力を込めたものじゃからな。炒る前に祈祷して清め、さらには炒った後にも祈祷をしておる。祈願成就の縁起物として、皆が求めてくるのじゃよ』


(それだったら、売ればいいのに)


『神事じゃから、これでいいのじゃよ』


(なるほどねぇ……)


 縁起物だから売れといったけれど、そういう考え方もあるんだなと納得した。

 うん、安易に金もうけに走ろうとした自分を殴りたいわ。

 私はちょっと反省をする。

 そうして、本日最後の豆まきが始まる。


「鬼はー外! 福はー内!」


 有名な掛け声とともに、私たちは豆をまいていく。

 集まった人たちは、必死になって豆を手に入れようとしている。

 これが無名な地元の人たちばかりの豆まきとか信じられないものだわね。

 ただ、田均命によれば、実際運気を少し良くする効果があるらしい。これだけ必死になるのは、みんなもその効果を実感しているからだろうという話だった。なんとも信じられない話だわね。

 そんなこんなで、寒空の下で行われた豆まきが終わる。

 いや、まさか枡のおかわりまであるとは思わなかったわ。でも、それじゃないとまく量が少なくなるから分かるんだけどさ。

 まき終わって撤収する時に、集まっていた参拝者たちの顔を見ると、豆を無事に手に入れた人はなんだか喜んでいるようだった。その姿を見ると、参加してよかったのかなと思えてくる。


 法被を返すと、私たちには参加した記念に、まいたものと同じ豆が渡された。中身は十粒くらいだけど、もらえたらなんだか嬉しくなっちゃったな。


「本日はお忙しい中、豆まき行事ご参加いただきありがとうございました。これからも私たちの神社をよろしくお願いします」


 私たちはそう言われて見送りを受ける。

 ただ、私はすぐに帰ろうとしなかった。


「あの、これをもうひとついただくことはできますか?」


 私だけがもらって帰るのもあんまりよくないと思ったもの。おじいちゃん先生にもお土産にしなくちゃと思って、図々しくもそんな申し出をしてしまった。


「えっと、確か波白さんのお宅でしたよね」


「はい」


「分かりました。波白さんにはお世話になっていますので、少々お待ち下さい」


 見送りに来てくれた巫女さんが、奥へと引っ込んでいく。しばらくすると、豆の入った袋を持って戻ってきた。


「本当は参加した方への記念なのですけれど、あなたにはおまけをしなくちゃいけない気がしますので、どうぞお受け取り下さい」


「ありがとうございます」


 私は豆をもう一袋もらったので、素直に頭を下げてお礼を告げる。巫女さんは微笑ましかったのか、にこにことした笑顔を見せていた。

 神社を去る私は、鳥居をくぐる前に振り返ると、田均命の姿を見つけた。にこっと微笑んで手を振ると、田均命も笑っていた。

 その反応を見た私は、満足した気持ちで家へと帰っていったのだった。

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