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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第59話 とにかく走るのよ

 海斗と一緒に走り込みを始めてから一週間、私の体には少しずつ変化が現れ始めていた。

 最初の頃はかなり筋肉痛に悩まされて、アクアヒールで無理やり回復させていたのだけど、開始一週間でそんなことをする必要がなくなっていた。

 継続は力なりとは言うけれど、こういうところでも力を発揮するものなのね。

 ただ、そんな風になっても、種族特性である寒がりは一向に改善していなかったわ。それはもう重装備にもほどがあるってくらいに、私の着込み具合は酷いものだったわ。

 だけど、海斗と一緒にいられるならその程度の障害くらいどうとでもできるというものよ。


 私は今日も、家の近くで海斗が準備して出てくるのを待っていた。


「よっ」


「お兄ちゃん」


 海斗の家からちょっと離れたところで、今日も私たちは顔を合わせる。

 幸いながら、真鈴ちゃんにはこのことは気付かれていない。知られていたら、あの子の性格上、絶対に一緒に走ろうとするものね。海斗一人で出てきているから、気付かれていないってことには違いなかったわ。

 この日も、海岸近くの市道などを私たちはひたすら走り続けている。

 海岸近くを通るということは、私が高波にさらわれたあの地点も通るということだ。その瞬間だけは相変わらず体が強張ってしまうけれど、海斗が一緒だと不思議となんとか通り抜けられる。やっぱり、私にとって、海斗は頼れる人なんだなと再認識させられるわ。

 途中、波均命の神社にも寄るけれど、海斗が一緒だと波均命は姿を見せることはなかった。きっと、私に気を遣ってくれているっていうことだろう。だって、波均命は私以外には見えていないんだもん。だから、何もないところを見て話をする私が変に思われないように、姿を見せないってことなんでしょうね。


 こうやって、だいたい三十分間のランニングを終える。

 最初だったら十分程度でもそこそこきつかったんだけど、一週間続けたら、三十分走ってもなんとか大丈夫なくらいになってきた。マーメイドってずっと泳ぎ続けることもあるから、体力だけはあるみたい。筋力がないだけだったわ。

 私はこの一週間のランニングで、自分の能力というものを再認識させられた気がした。よもやここまで体力がつくとは思わなかった。

 ただ、そこまで体力がついたのであるのなら、寒さに対する耐性も上がってほしかったなと思う。

 私はこの日もがたがたと震えながら、海斗と走り込んでいた。


「よし、着いたぞ、マイ」


「あ……」


 海斗の声に私が目の前を確認すると、そこはおじいちゃん先生の医院の前だった。もうランニングが終わってしまったようだった。


「いや、頑張ってるな、マイ。最初はひーひー言いながらついてきていたのに、今じゃ平然とした顔をして走ってるんだからな。まったく、見直したもんだよ」


「わ、私だって、やればできるんだから」


 海斗が笑いながら褒めてくるものだから、私はちょっと不機嫌そうな顔をしておいた。それはもう、餌を詰め込んだリスのような表情だった。

 そんな私を見ながらも、海斗は優しく微笑みながら私の頭に手を置いてくる。


「お前がどうするつもりなのかは分からないが、やりたいっていうことがあるんだったら、俺のできる範囲で手を貸してやる。拾ってきた責任もあるし、なんだって相談してくれていいんだからな」


「う、うん、お兄ちゃん……」


 あまりにも優しい海斗の姿に、私はつい赤くなってしまっていた。

 こ、これは照れてるとか惚れてるとかじゃなくて、さ、寒いだけなんだからね。

 私は心の中でそう思っているものの、海斗は何も言わないで私の頭をしばらく撫でていた。


「よしっ」


 そういった海斗は、私の頭から手を離していた。その瞬間、私はちょっと寂しく感じてしまったみたいだ。


「俺はもう三十分ほど走り込んでくるから、お前は温かくして家の中にいろよ。風邪をひくとか体調を崩してしまったら、元も子もないんだからよ」


「うん、気をつけるわ」


「そうそう、素直にしていればいいんだよ。じゃあな」


「またね、お兄ちゃん」


 私が見送る中、海斗はランニングの続きをしに街の中へと姿を消してしまった。私はちょっと未練がましいのか、姿が見えなくなるまでその姿を追ってしまっていた。

 姿が見えなくなると、私は気合いを入れ直して家の中へと入っていく。

 さっきまでの汗が引き始めていたので、このままだと本当に風邪を引きかねない。さっさとお風呂の準備をして入らないとね。

 私は体を抱えて寒さに耐えながら、家の中へと戻っていった。

 お風呂から出て十分に温まった私は、自分の部屋の中で改めて考えごとをしていた。


「そういえば、ランニングを始めてから、神様と話をしていないわね。明日は久しぶりに様子を見に行かなくっちゃ」


 そう、よく思えば、田均命にも波均命にも会っていないのだ。

 あれこれと相談には乗ってもらっているし、このまま会わなくなってしまうのはさすがに失礼だと思うからね。それに、二人ともちょっと寂しがり屋だしね。


「よし、明日はランニングの前後を使って、二人に会いに行こう」


 元の世界に戻ることは諦めていないんだもの。海斗にばかり構っていられないわ。

 私は翌日の予定を勢いで決めていた。

 とにもかくにも、転生先の世界に戻るという第一目標には変わりはないんだからね。

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