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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第58話 はしるきもち

 私は久しぶりに高校までやって来た。

 そう、この高校は転生前に私が通っていた高校よ。頑張って海斗と同じ高校に入ったんだからね。

 ああ、思い出すとあの頃の私はかなり海斗と一緒にいた気がするわ。

 だけど、今の私は小学生で部外者。中に入るわけにはいかない。寒いけれど我慢して海斗が出てくるのを待つわよ。

 私が震えながら校門で待っていると、一部見たことのある学生が出てくる。少なくとも同じクラスだった人たちには、多少見覚えがあるものね。

 そういった学生たちを、私は時折笑顔を見せながら見送っている。だって、私の方を見てくるんだもん。となると、子どもらしく愛嬌を振りまくしかないのよ。

 そうこうしている間に、私の前に影が落ちる。


「何してるんだよ、こんなところで」


「あっ、お兄ちゃん」


 海斗がやって来たのだ。

 前を行く学生たちが私の方を見ていることに気がついて、怪しんで来たみたいだ。


「へへ、一緒にランニングしてくれるんでしょ?」


「お前な……。俺は今走り込むには不向きな格好をしてるんだ。一度家に戻って着替えるから、家の前で待ってろ」


「はーい」


 海斗に怒られた私は、素直に返事をしておいた。


「とりあえず、家に帰るからついてこい」


「えっ、いいの?」


「当たり前だ。小学生の子どもを一人放り出すような真似ができるか」


「へへっ。お兄ちゃんってば優しいな」


「……はあ、調子が狂うぜ」


 海斗は文句を言いながらも、私に向かって手を差し出してくる。どうやら、手を取れってことみたいだ。

 ちょっとびっくりしたけれど、私はその手を取って、にへらと笑ってしまっていた。

 幼くなって戻ってきたからこその特権かもね。

 だけど、これを真鈴ちゃんに見られたらどう言われることやら。でも、今はそんなことを気にせず、私はちょっと赤くなりながら海斗の手を握っていた。


 海斗の家の近くまでやって来たところで、私はちょっと足を止める。


「うん? どうしたんだ」


「お兄ちゃん、私ここで待ってるね」


「分かった。それじゃ、着替えてくるから待ってろ」


「うん」


 私は海斗の手を離す。

 家からちょっと離れた場所でこうしたのは、真鈴ちゃんを警戒してのことだ。

 お兄ちゃん子っていうのはそれなりにいるけれど、真鈴ちゃんの様子はちょっと異様にも思えたからね。だから、ちょっと離れたところで待っているのよ。

 でも、本当に真鈴ちゃんの私に対する態度はちょっと怖いところがあるわ。お兄ちゃんを取られたくないって気持ちはわかるんだけど、ちょっと大げさかなって思うんだよね。まるで独占欲のような……?


「おう、待たせたな」


「わっ!?」


 急に声をかけられて、私はびっくりしてしまう。どうやら海斗が戻ってきたようだった。

 海斗の服装は学校の制服からジャージに変わっていた。


「それじゃ、走りに行くぞ」


「うん!」


 海斗に声をかけられ、私は元気よく返事をする。

 私の返事を聞いて、海斗は小さく微笑んだかと思うと走り始める。私は置いていかれないように、必死にその後を追いかけていく。

 冬の寒いい時期ということで、私たちの吐く息は白くなる。それが一定のリズムで刻まれている。


(あっ。海斗ってば私が走りやすいようにペースを抑えてくれている。邪魔してるようで悪い気がするけど、海斗ってばやっぱり優しいな)


 途中で海斗の走るスピードを感じ取って、私はつい考えてしまっていた。

 昔っからそうなのよね、海斗ってば。幼馴染みである私に気を遣って、歩調を合わせてくれていたもんね。本当に、相手に合わせるのが上手なのよね。

 そのおかげで、私は息切れを起こさないで走り続けていられる。あんまり苦しくもならずに済んでいるので、私は嬉しく感じていた。

 ……やばい。今は住む世界が違うからって割り切ろうと思ってたのに、海斗への想いが再燃しそうになってるわ。

 ダメよ、私。今の私はマーメイドプリンセスなんだから、気をしっかり持たなきゃ。私は走りながら、顔を左右に激しく振っていた。


「どうしたんだ?」


 私の様子をおかしく思ったのか、海斗が私に声をかけてくる。


「な、なんでもないよ、お兄ちゃん」


「そっか。それで、大丈夫か?」


「うん、まだ平気。お兄ちゃんがスピードを抑えてくれているから」


「だったら、ちょっと長めに走っても大丈夫かな。しっかりとついて来いよ」


「わわっ、お兄ちゃん?!」


 私との受け答えの中で、海斗が急に笑ったかと思えば、少し速度を上げていた。

 あまりにもいきなりだったので、私はびっくりして置いていかれそうになってしまう。その私を見て、海斗は楽しそうに笑っていた。なんとも意地悪だわ。


「もう、お兄ちゃんってば!」


 私は文句を言いながらも、心の中では楽しそうに笑っていた。

 こんな風に海斗と一緒に過ごせる時を、転生してからも心のどこかで夢見ていたのかもしれない。それが今、こうやって現実になっているんだもの。

 ……っといけない。またこの世界への未練が大きくなっちゃう。

 私は緩みかけた心をきゅっと引き締め、黙々と走り続ける。

 この時がずっと続いてほしいという心と、早く終わってほしいという気持ち。その相反する二つの望みを抱きながら、私は海斗の後を追いかけていた。

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