第55話 新年最初の登校日
三学期が始まると、家まで真鈴ちゃんが出迎えに来てくれた。
「まったく……。なんで私が引き続きこんなことをしなくちゃいけないのよ」
玄関で顔を合わせた途端にこの文句である。だったらどうして来たのかなと、つい指摘したくなる。
「ほら、さっさと行くわよ。小学生の間は私が迎えに来てあげるんだから、感謝しなさいよね」
「うん、ありがとう、真鈴ちゃん」
ツンデレみたいな言い方をしているので、私は一応感謝をしておく。
私がお礼を言うと、真鈴ちゃんは恥ずかしそうにしながら顔を背けている。本当に素直じゃないなぁ。可愛いから、つい眺めちゃうわ。
「何を見ているのよ。さっさと行くわよ」
「うん、真鈴ちゃん」
ものすごく不本意そうな顔をしながらも、真鈴ちゃんは私に手を差し出してくる。
私はその手を取って、家を出て集団登校の集合場所へと向かった。
「それにしても、相変わらずものすごい格好ね」
「えっ、そうかな……」
真鈴ちゃんから思いっきり言われてしまう。
「寒いとはいっても、そこまでがっちり固めた服を着ている子はそうそういないわよ」
「そうなんだ。でも、私寒がりだからね」
真鈴ちゃんが呆れたように話してくるけど、私は納得しつつも理由を話す。
「まったく、三か月後には中学生なんだし、もうちょっとおしゃれと見た目を気にした方がいいわよ」
「心配してくれてありがとう」
「べ、別に心配しているわけじゃないわ。一つ年上のお姉さんとしてアドバイスしているわけよ。ふんっ」
私がにへらと笑ってお礼を言うと、真鈴ちゃんは不機嫌そうに顔を逸らしてしまった。まったく素直じゃない感じだな、真鈴ちゃんって。
でも、あの海斗の妹ならそうかなって思っちゃうな。
そうしている間に、集団登校の集合場所に着いてしまう。
「それじゃ、私は失礼するわよ。気を付けて行きなさいよね」
「うん、ありがとう」
真鈴ちゃんは足早に立ち去ってしまった。
くすくすと笑って真鈴ちゃんを見送る私を、他の児童たちがじーっと見つめている。
「何でもないわよ。みんな揃ったかな? そろそろ学校に向かいましょうね」
「はーい」
私が呼び掛けると、みんなは返事をしていた。
登校班のメンバーがそろったことを確認すると、私たちは小学校に向けて出発となった。
それにしても、一月ともなればさらに寒い。さすが一年で最も寒いと言われる時期だわね。
真鈴ちゃんに指摘された通り、私の格好は本当に重装備。
今日はスカートをやめてショートパンツにしたわよ。本当に寒すぎるわ。
「波白さん、あけましておめでとう」
「あっ、平川さん。あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」
教室までやって来た私は、平川さんとばったり出くわした。年明けから初めて会ったので、とりあえず新年の挨拶を交わしておいた。
「波白さん、相変わらずの重装備ね」
「あ、うん。これくらい着込まないと寒くてね。おしゃれを犠牲にしすぎだって、真鈴ちゃんに怒られちゃったわ」
「あはは。怒っちゃうのも分かるわ」
真鈴ちゃんに怒られたことを話すと、平川さんはものすごく笑っていた。そんなに笑っちゃう話なのかな……。
「寒いんだもん、しょうがないでしょ?!」
あまりにも平川さんが笑ってくれるものだから、私は思わずびっくりしてツッコミを入れてしまう。どうしてそこまで笑うのかしらね。
「平川さん、いくらなんでも笑い過ぎですよ。波白さん、困ってるじゃないですか」
あまりにも笑うものだから、ひょっこりと海堂くんが出てきてフォローを入れてくれている。
「だって、あまりにも着込み過ぎてるんだもの」
「何を言ってるんですか。この姿でも波白さんは可愛いじゃないですか」
「へ?」
平川さんが笑いながら言うと、海堂くんはすかさず恥ずかしげもなくそんなことを口走っていた。
この言葉には、私と平川さんはぴたりと動きを止めてしまう。
「あれ? 僕って何か変なことを言いましたか?」
あまりのことに、海堂くんはきょとんとした顔をしていた。
「いや、素でそういうことを口走るなんて、海堂くんって波白さんに本当に気があるんだなって」
「え、ええっ?!」
平川さんに言われた街道くんは、顔を真っ赤にして一歩下がっていた。
そういえば、海堂くんは以前に私に告白をしてきたんだっけか。一目惚れっていって。
知り合ったばかりだからって断ったんだっけかな。
でも、海堂くんはそれからも私に対してずっと好意を持ち続けていたってことか。一途ねぇ。
とはいえ、転生前が十七歳だった私は、海堂くんには弟みたいだなというくらいの感情以上のものが持てないのよね。悪いんだけど、青春の甘酸っぱい一ページにさせてもらうわね。
私はそんな気持ちで、照れくさそうにしている海堂くんの姿を見ていた。
新しい年を迎えての最初の登校日だったけれど、結局はまったくいつもと変わらない感じで過ぎていく。
なんとも懐かしい気持ちになる一方、一体いつまでこの生活が続くのだろうかという不安もある。
それ以外にもいろんな気持ちが複雑に絡み合う中、始業式を迎えたのだった。




