第51話 驚きの格差
おじいちゃん先生が作ったうどんを食べて、私たちはいよいよ初もうでに出かける。
私は寒さ対策として、ガッチガチに服を着込んでいる。タイツも肌着も二枚重ねよ。
服装だけ見れば、熱そうには思えるでしょうね。でも、私にとってはこれでも足りないくらい。どれだけマーメイドは寒さに弱いのよ。
人間の時でも寒いとは思っていたけれど、やっぱり冬の寒さはまったく好きになれないわ。
「それじゃ、歩いていくぞ。車で行っても、どうせ駐車場が混んでおるからな」
「うん、分かった、おじいちゃん」
私はおじいちゃん先生と手をつないで、元日の街へと繰り出していった。
普段の通りの人影はまばらだったというのに、神社が近付くにつれて、辺りには初詣へと向かう人たちがたくさんいた。みんな同じ考えだったようだ。
とはいえ、元日の神社はいつ来ても混んでいるだろうから、この状況だからって帰るわけにはいかなかった。おじいちゃん先生の予定を考えると得策じゃない。
人でごった返す神社に入り、私たちは初詣を済ませる。
『よく来たな。今年もいろいろ話をしようではないか』
お賽銭を入れてお参りしていると、私にはそんな声が聞こえた気がした。わざわざ出てくるなんて、まったくいい御身分だわね。
なので私は、お願い事をしながら『時々でいいなら、来るわよ』と返しておいた。
笑った声が返ってきたので、どうやらそれでいいらしい。
拝殿から出た私がくるりと屋根を見上げると、あぐらをかいた男性が座っていた。間違いなく田均命だ。こっちを見て、笑いながら親指を立てているあたり、了解したといったところだろう。その姿を見て、私は思わずくすっと笑ってしまっていた。
おみくじを引いていると、おじいちゃん先生が話し掛けてくる。
「マイや、どうする?」
「どうって?」
「これで帰るかの? それともまだどこか寄っていくかい?」
私に今日の予定を確認しているらしい。だったらと思った私は、おじいちゃん先生に一か所寄ってもらいたいところを伝えた。
それを聞き入れてくれたおじいちゃん先生はこくりと頷くと、お守りだけ購入してから、私を連れてそこへと向かってくれた。
やって来たのは、波均命の神社だ。
田均命の神社の賑わいとは裏腹に、こっちは相変わらずの寂しさである。
私たちが来た時にいたっては、誰一人としていなかった。
「えっと……? これで同じ市内の神社なのかしら……」
「こっちの寂れ具合は酷いのう。わしとて人が来ているはあまり見んとはいえ、元日にこれでは困ったものじゃわい」
おじいちゃん先生も呆れるくらいの閑散ぶりである。
だけど、波均命の気配はちゃんと感じるから、神社としてはまだ存在意義が残っている。
「おじいちゃん、ここもお参りしていこう?」
「うむ、そうじゃな。似たような名前じゃというのに、この扱いの差はいくらなんでも可哀想が過ぎる。ただでさえ、海に面したこの町では、海の神様をないがしろにはできんからな」
私の言葉に、おじいちゃん先生も賛成してくれたようだ。
でも、この神社の管理者って結局分からないのよね。神主がいないのなら、自治体になるのかな。謎ばかりが膨らんでいくわ。
お参りをして帰ろうとした時だった。もう少しで鳥居をくぐるという時、私たちはよく知った顔に出くわした。
「よっ」
「お、お兄ちゃん?!」
そう、海斗である。なんでこんなところで出会うんだろう。
「おや、海斗くんかの。元日から走り込みかい?」
「体力づくりは一日も休めませんからね。ただここは、なんとなく来たくなったから通りがかっただけですよ。先生たちと会ったのは、たまたまです」
おじいちゃん先生がここにいる理由を尋ねると、海斗はそのように答えていた。
最近私が確認した限りは、海斗のランニングコース上にこの神社はない。夕方の方こそこの近くを通るものの、朝の方は間違いなくここは通らなかったはずだ。
となると、海斗は本当にたまたまここを通りがかっただけってことになる。そんなことあるわけ?
「たまたまとはいえ、わしらとばったり会うとはのう」
「本当に不思議な話ですよ。もしかしたら、こいつに引き寄せられたのかもしれませんね」
「私?!」
海斗は話ながら、私の方をじっと見ている。
いやいやいや、さすがにそれはないでしょう。どっかの恋愛マンガじゃないんだから、他人に引き寄せられるってそんなわけあるわけ……あるかもね。
それというのも、私は海斗と会いたいななんて、ふと思ってみたりもしたのよ。そしたら、この状況なんだもの。私が一番びっくりしているわ。
「それじゃ、俺はもう行きますね。遅くなると真鈴のやつがうるさくなりますからね」
「ほっほっほっ、兄は大変じゃのう」
「まったくですよ。じゃあな、マイ」
「うん、お兄ちゃん」
挨拶をすると、海斗は走り去ってしまった。
「はっ! 新年の挨拶をしてない!」
「じゃのう。だが、お互い様だ。次に会った時にすればいいじゃろう」
「そ、そうですね……」
驚きのあまり、あけましておめでとうというのを忘れていた。しかし、思った時にはすでに遅かった。ジョギングをしている海斗の姿はもう見えなくなっていたのだ。
こればっかりはしょうがないと、私は諦めた。
冬の寒空の下を、私は震えながら、おじいちゃん先生と一緒に家まで戻っていった。




