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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第50話 穏やかな元日

 しばらくして、年が明ける。


「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」


 おじいちゃん先生と私が、同時に新年の挨拶をする。一字一句違わずの挨拶に、私たちは笑ってしまう。


「ふふっ、同時とは面白いのう」


「本当……。面白いね、おじいちゃん」


 私たちはしばらく笑いが止まらなかった。

 ようやく落ち着いたかと思うと、おじいちゃん先生が着ているどてらのポケットから何かを取り出している。


「マイや、これをあげよう」


「これって……」


 私はおじいちゃん先生が取り出したものに目を丸くしている。

 控えめに柄の描かれた小袋に『おとしだま』の文字が書かれている。そう、いうまでもなくこれはお年玉だった。


「えっと、おじいちゃん?」


 私は思わずおじいちゃん先生を見て、その真意を確かめてしまう。

 おじいちゃん先生は優しく微笑んでいる。


「受け取っておくれ。わしにはまだ叶えられておらぬものだがな」


「あ、ありがとう、おじいちゃん……」


 私は、ポチ袋を受け取る。

 だけど、ここではあえて中身を確認しない。なんだかおじいちゃん先生に申し訳ない気がするし、私はあんまりお金には執着していない。

 いや、人間だった頃なら、多分すぐにでも確認していたと思うわよ。マーメイドに転生して、本当にお金に執着がなくなっちゃったわ。

 だから、単純に贈り物をされたということで感動しちゃっている。


「マイ?」


 私がポチ袋をぎゅっと抱き締める姿を見て、おじいちゃん先生が戸惑っているみたいだわ。


「あはは……。おじいちゃん、心配しないで。ただ、嬉しかっただけだから」


「そうか。ならいいのじゃがな」


 やっぱりおじいちゃん先生は困っているみたい。私の反応が思っていたのと違ったからなんでしょうね。


「ふわぁ……」


 嬉しく思っていたら、気が緩んじゃったみたいで、私は思わずあくびをしてしまう。

 よく思えば、こっちの世界に戻ってきてから、こんな時間まで起きてたのは初めてだもんね。


「マイ、もう眠るかい?」


「うん、そうする……。私、もう起きてられなさそうだから……」


「そうか。ならばわしが布団を敷いてこよう。マイはここで待っていなさい」


「うん、おじいちゃん……」


 私はちょっとふらつきながら、おじいちゃん先生が部屋を出ていく姿を見送っていた。

 だけど、私は戻ってくるおじいちゃん先生の姿を確認できなかった。だって、私ってば眠っちゃったみたいだもん。


「はっ!」


 起きたら、もうお昼前だった。

 布団から勢いよく体を起こす。だけど、冬の寒さのせいで思わず体を震わせてしまう。


「うう、寒い……」


 寒いけれど、いつまでも寝ていられない。私は無理やりにでも体を起こして布団から脱出する。

 服装は寝る前の服装のまま。おじいちゃん先生がここまで運んで寝かせてくれたみたいだ。

 冷たい水に苦戦しながらも顔を洗った私は、食堂に顔を出す。


「おはようございます、おじいちゃん」


「おお、起きたか。よく眠れたかい、マイ」


 おじいちゃん先生が台所で料理をしていた。


「うん、おじいちゃんが布団に寝かせてくれたおかげでぐっすり。おじいちゃんは何を作っているの?」


「ほっほっほっ、うどんじゃよ。それよりもマイ、初詣には行くかの?」


「うん、もちろんだよ、おじいちゃん。どこに行くの?」


「ああ、山寄りにあるあの神社じゃよ。わしの家から最も近いのはあそこじゃし、寒さに弱いマイを、あまり出歩かせられんからな」


「そっか」


 どうやら、おじいちゃん先生は田均命の神社に連れていってくれるみたいだ。だったら、久しぶりにお話してみようかしらね。

 波均命と話をするようになってから、特に寒さが原因で私はあまり神社に寄れなくなっていたからね。おじいちゃん先生が休診を設定している日は寄れなかったしね。

 うん、新年の挨拶がてら、久しぶりに顔を出してあげることにしよう。


「とりあえず、そこに座りなさい。もうできるからな」


「うん。って、おじいちゃん、私が起きてくるのが分かってたみたいに作ってるね」


 おじいちゃん先生からかけられた言葉に、私は驚いてしまう。


「まあ、家族じゃからな」


 私の方を見ながら、おじいちゃん先生はさも当然のような言い方をしている。思わず耳を疑ってしまう。


「私みたいなのでも、家族って思ってくれるんだ」


「元の世界に戻る時までの一時的な関係だとしても、わしはそう思っておるよ。じゃから、今はわしに甘えなさい。まだ子どもなんじゃからな、マイは」


「……うん」


 なんだか泣きそうになってきちゃったわ。

 おじいちゃん先生は、本当に私を孫のように可愛がってくれているみたいだ。

 小児科医師として頑張ってても、やっぱり、家族が欲しかったのかな。

 だったら、元の世界に戻るその時まで、私もその思いに応えてあげなきゃいけないかな。

 そう思った私は、ぐつぐつとうどんを煮込む音とストーブの上で沸くやかんの音が響く食堂で、そのまま食事ができるのを待つことにした。


 今日は、いい一年の始まりになりそうね。

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