第48話 年越しそば
大晦日もおじいちゃん先生は忙しそうだった。
それというのも、年明けの予約が入ってきていたからだ。子どもに関する相談は全部受けているから、おじいちゃん先生の信頼は厚くて、このように予約が集まってくるみたいなのよね。
年末年始で医院で働く看護士さんたちもお休みだから、こういう電話はおじいちゃん先生が全部受けてる。
なので、必然的に私は暇。宿題もほとんど終わらせちゃったし、外は寒くて出かけられないから、部屋でごろんと転がっている。
「はあ、そういえば年越しそばを買っていないわ。どうしようかしら。寒いのを我慢してコンビニにカップ麺でも買いに行こうかしら」
私はごろんと転がり、どうしようかとうだうだと考えていた。
ぴんぽーん。
考えごとをしていると、玄関の呼び鈴が鳴る。
「はーい」
おじいちゃん先生はまだ電話の対応で忙しそうだったので、私がリビングのインターホンまで走っていく。
画面を覗いてみると、そこには海斗たちの姿があった。
なので、私はインターホン越しの応対をせずに、そのまま玄関へと向かっていった。
「お兄ちゃん」
私は玄関を開ける。そこには海斗たち渡一家が揃っていた。
「よう。先生はいるかい?」
海斗のお父さんが声をかけてくる。でかくて怖いわね。
「おじいちゃんなら、今は電話中。聞こえてくる声からすると、どうも診察の予約みたい」
「おやおや。この年末だってのに常識知らずがいるもんだな。構わん、先生も連れてきてくれ」
「えっ、でも……」
「でもでもなんでもいい。休診日くらい休ませてやれっていうんだ。早く!」
「わ、分かりましたよう……」
海斗のお父さんの圧に負けて、私はおじいちゃん先生を呼びに行く。
しばらくして、私はおじいちゃん先生を無理やり連れて玄関に戻ってきた。
「おやおや、渡さんじゃないか。この年寄りに何の用ですかな」
「昔からの付き合いですからね、一緒に年越しそばを食いに行きましょう。あと、正月の買い物もしておかないとですね」
「ふむ。悪くはないのう」
海斗のお父さんたちから言われて、おじいちゃん先生は悪くない反応を見せている。
ちなみに、この間も電話が鳴っている。まったく、うるさいわね。
「おじいちゃん、電話線、引っこ抜いておく?」
「さすがにそこまでせんでもいいぞ、マイ。どうせここから後は予約をしてきても受け入れられんしな」
「そっか。じゃあ、やめとく」
おじいちゃん先生がいるには、年始の診察はほぼ埋まってしまったらしい。どんだけみんな予約を入れようとしているのかしらね。怖いわ。
「まったく、町の小児科はここくらいしかないとはいえ、みなさん遠慮がないですな」
「頼られるのは嬉しいがな。ほっほっほっ!」
おじいちゃん先生はのんきに笑っていた。
まったく、年明けから過密スケジュールが決まっているというのに、余裕がありすぎるわよ。
三か月一緒に暮らしているけれど、おじいちゃん先生のことはまだよく分からないわ、うん。
そんな感じで呆れ返りながらも、私たちは年越しそばを食べに出かける。どこかと思ったら、平川さんの家だった。
「あれ、ここで年越しそばが食べられるの?」
「そうよ。実は隠れたお店でね、予約しないと食べられないのよ」
「へ、へえ……」
海斗のお母さんが説明してくれるんだけど、いつもは焼きそばを作っているイメージしかないので意外だった。
車を運転していた海斗のお父さんが合流し、いよいよお店の中に入る。
「あっ、いらっしゃい」
中に入ると平川さんが出迎えてくれた。かっぽう着姿とは予想外だった。
「あっ、波白さん。来てくれたのね」
「え、ええ。こっちのお兄ちゃんたちの家族の紹介で来たの」
「そっかぁ。六名様って聞いてたから、そういうことだったのね」
平川さんはなんとも納得したような表情をして、何度も頷いていた。
「それじゃ待っててね。お父さん特製の年越しそばを今から用意するから」
「おお、それは楽しみじゃのう」
「通なら、ここの年越しそばで〆ないとな」
「だな」
平川さんが厨房の方へと戻っていくと、海斗のお父さんと海斗が腕を組んで何度も首を縦に振っている。
いや、私も十七年間住んでいて初耳なんだけど?!
えっ、いつの間にそんな習慣があったのよ。
見てよ、真鈴ちゃんもびっくりして……なんでびっくりしてるの?
私は海斗たちの家族を見て、真鈴ちゃんの反応に違和感を覚えた。
海斗とそのお父さんは楽しそうにしているし、お母さんだって笑っている。驚いているのは真鈴ちゃんと家族外の私たちだけ。
一体どういうことなのかしら。
真鈴ちゃんが家族なら、そんな反応を示すわけがないもの。
真鈴ちゃん、あなたは一体何なのよ。
「はい、年越しそばをお待たせしました」
私が驚いていると、平川さんがお盆にそばとかやくおにぎりを載せてやって来た。ちゃっかり沢庵もふた切れ添えてあるわ。
「ふふっ、しっかりと味わって下さいね。お父さんの年越しそばはおいしいですから」
「あ、うん。味わわせてもらうね」
あまりにもにっこりと微笑む平川さんに、私は当たり障りのない返事をしておいた。
うん、おいしい。
全員分そろって、挨拶をしてから食べ始めたんだけど、さすが勧めるだけあってとてもおいしかった。
しっかりと年越しそばを堪能した私たちは、平川さんたちにしっかりとお礼を言って、お店を後にしたのだった。




