第47話 年末の宴
私たちが戻ってきた時には、漁師の人たちも集まってきていた。
「波白のじいさん。いやぁ、今年はうちの息子たちが世話になりました」
「はっはっはっ、小児科の医師なんじゃから、当然じゃろうて。今日は来ておらぬのか」
「ええ、酒飲んで騒ぐだけだろって言われて、嫌がられましたよ」
おじいちゃん先生に話しかけていた男性が聞き返されて、苦笑いをしながら答えていた。
まあ、しょうがないわね。焚火をしているとはいっても、この寒空の下だもの。騒ぐ気にもなれないわ。
「おじさんたちは、寒いのは平気なんですか?」
「おう、波白さんとこの孫娘かい? ああ、寒さは慣れてるからよ。海の上だと、これよりも寒いぞ?」
「うわぁ、私じゃ耐えられなさそう……」
「まっ、慣れだからな。子どもにゃあ、無理だろうな」
ここよりも寒いと聞かされて、私はかなり震えてしまった。
ぶるぶると震える私を見て、おじさんは大きな声で笑っていた。
「それはそうと、じいさん。酒を買っていてくれたのかい?」
「いや、これはわしらが飲むためじゃない。マイがな、ここの神様にささげようといって、買い足してきたものなんじゃよ」
「なるほどなぁ。それは信心深いこったな。俺たちだけ飲んで騒ぐのは、確かに悪い話だからな」
「それじゃ、私が持っていってくる」
「悪いのう、マイ」
私がお酒を届けてくるといって、おじいちゃん先生からお酒の入った袋を受け取る。
おじいちゃん先生やおじさんたちに手を振って宴の場を離れると、私は酒瓶を大事に抱えて本殿へと近付いていく。
「波均命様、差し入れを持ってきましたよ」
私が小さな声で呼びかけると、さっきまで姿を見せていなかった波均命が姿を見せた。
『おう。おお、酒じゃないか。嬉しいものだな、何年ぶりだろうか』
私の抱えている瓶を見て、波均命は一発でお酒だと分かったみたいだ。
それにしても、何年ぶりとは一体……。
『ここ数年は、あやつらは自分たちだけが騒いでおって、俺には貢物のひとつもなかったのだ。おかげで力が弱まってしまってな……』
「なるほど、それで何者かの侵入を許してしまったというわけですか」
『うむ、その通りだ。神というのは、人々の信仰心が力となる。信仰心が薄れてきた時には、災いを起こしてまで得ようとする神だっておるぞ』
「うわぁ、迷惑だなぁ……」
『仕方あるまい。力の示し方など、神それぞれだからな』
波均命の話を聞いて、私は神様に対してドン引きしてしまった。
『むっ、誰かが来るな。とりあえず、貢物は受け取っておく。宴を楽しめよ』
「あっ、ちょっと!」
誰かの気配を感じたらしく、波均命は私の前から姿を消してしまった。逃げ足が速いわ。
「マイ、誰と話してたんだ?」
「わっ! お、お兄ちゃん?!」
逃げ足の速さに驚いていた私に声をかけてきたのは、海斗だった。
「なんでお兄ちゃんがここにいるのよ」
「いや、先生から戻りが遅いから見てきてくれって頼まれてな。こんなところで何をやってたんだ?」
「この神社の神様にちょっと語りかけてたの」
「ふーん……」
正しい表現じゃないけれど、嘘も言いたくないのでそんな言い回しになってしまった。
海斗は、すんごく疑っているわ。
「まっ、人魚なお前なら、ここの神様と話ができても不思議じゃないか。だが、寒がりなのにあんまり俺たちから離れているのは感心できないな。さっ、みんなと一緒に食べようぜ」
「う、うん。分かったわ」
海斗に言われて、私はおとなしく本殿から去っていく。その際、ちらりと振り返ってみたけれど、やっぱり波均命は姿を完全に消してしまっていた。
私は海斗に手を引かれて、宴会が開かれている場所まで戻ってきた。
はっきりいって、あんまり人が来ないとはいえ、境内のど真ん中で宴会をするのはどうかと思うのよね。まあ、波均命も認めていることだから、私からは文句はないけどさ。
ちなみに後で聞いた話だけど、年末の伝統行事だからって、自治体も警察も認めているらしいわ。意外と自由なのね。
「ほっほっ、マイ、戻ってきたか」
「うん、おじいちゃん。遅くなってごめんなさい」
「まあよい。それよりも何を食うかの?」
「そ、それじゃ適当にいただきます」
おじいちゃん先生から聞かれた私は、なんでもいいからとりあえず食べることにした。
器に料理をよそってもらって、いざ食べようとした時だった。
ぞわ……。
「どうした、マイ」
「いや、何か寒気を感じたような気が……」
突然、背中に冷たいものを感じた。でも、雪が降っているわけでもないし、水が飛んできたわけでもない。なんなのかしらね。
「お兄ちゃん、私にも構ってよね」
「おいおい、中学生にもなって甘えるな」
「なによ、ケチ!」
私が首を捻っていると、真鈴ちゃんの騒ぐ声が聞こえてきた。
まったく、わがままな年頃なのか、海斗も大変だわね。
私がちらりと顔を向けてみる。
ギロリ。
うわぁ、めっちゃ睨まれたわ。
真鈴ちゃんってばお兄ちゃん子なのか、海斗が私に構うのがどうも気に食わないみたい。
結局、私が寒さに我慢できなくなって宴会から去るまで、ずーっと睨まれ続けていた。
はあ、仲良くできるのかなぁ……。
私は、不安を残したまま年を越すことになりそうだった。




