第46話 暮れの神社
こうして、お祭り(という名の宴会)を前にして、波均命の神社は有志が集まっててきぱきと掃除をされていく。
私がこまめに掃除をしていたこともあってか、思ったよりも時間はかからずに掃除は終わってしまったようだった。
「よし、きれいになったな」
「これなら明日はずいぶんと楽しくなりそうだぜ」
「社もなんかきれいになってるしな。これならきっと、神様も喜んでくれるぞ、がははははっ!」
集まっている男性陣がものすごく笑顔で笑っている。
うん、誰がきれいにしていたと思っているのよ。
私はつい口に出してしまいそうになったけれど、隣にいる海斗のこともあって、にこやかに笑っておくだけにとどめておいた。
だって、海斗が余計なことを言うなっていう顔をしてたもの。下手に口を挟むと、確かにへそを曲げられそうな気もするからね。うん、黙っていた方が吉だわ。
私が海斗と一緒に立っていると、おじさんたちの一部がこっちに向かってきた。
「おう、お嬢ちゃんも手伝ってくれてありがとよ」
「あ、うん。お兄ちゃんに連れてきてもらったから、頑張ったよ」
お礼を言われて、私はにこやかに返しておく。一応、海斗のお手柄ということにしておこう。
「たしか、あの波白先生のとこに住んでるだっけか。だったら、あのじいさんも明日連れてきてくれないか。うちの子どもたちも世話になったからよ」
「分かりました。おじいちゃんにお話しておきますね」
おじさんたちの頼みを、私は快く聞き入れておいた。
外は寒いけれど、たまにはおじいちゃん先生に楽しんでもらうのも悪くないかなって思うからね。
でも、さすがに動きを止めるとかなり寒くなってきちゃったので、私は家に帰ることにした。
(あっ、いなくなってる)
私がちらりと屋根の上に視線を向けると、さっきまでいたはずの波均命が姿を消していた。私が帰るから、興味を失ったのかしらね。
つい私は笑みをこぼしてしまう。
「どうしたんだよ、急に笑って」
「なんでもないよ。お兄ちゃん、さっさと帰ろう」
「ああ、そうだな」
海斗に付き添ってもらいながら家に戻り、その日は家の中でぬくぬくと過ごしたのだった。
翌日、私はお昼から行われるという宴会に参加するために、おじいちゃん先生と一緒に家を出る。
この日も漁師さんたちは漁に出ていて、それが終わってから宴会ということらしい。そのため、お昼から行うということなんだそうだ。
「こんな日にも漁をしているなんて、ご苦労さまだわね」
「まあ、彼らがいるからこそ、わしらは食卓に魚を出すことができるんじゃ。感謝を忘れてはならんぞ」
「そうだね」
おじいちゃん先生が話す内容に、私は一応こくりと頷いておいた。
神社に到着すると、寒くないように焚火が行われていた。そこではぐつぐつと何かを煮ているようだった。
昨日の掃除ではいなかった女性たちが集まっていたけれど、昨日来ていた漁師さんたちの奥さんたちだそうだ。
「まあ、あの人が話していたお嬢ちゃんね」
「本当に可愛いわねえ」
「でも、肌が白いせいで不健康に見えるわね。先生、ちゃんと食べさせているんですか?」
「ほっほっほっ。ちゃんと三食食べておるよ。肌が白いのは元からじゃぞ」
「うん、私は元からこんな感じです。っと、みなさん、こんにちは」
私は遅れながらもみんなに挨拶をする。そしたら、挨拶が返ってきた。
「よう、マイ。ようやく来たか」
「あ、お兄ちゃん」
海斗が挨拶をしてきたので、私は挨拶を返す。
「げっ、マイちゃんも来たのね」
「おい、げっはないだろ、げっは」
「いったーい! お兄ちゃん、なんで殴るのよ!」
真鈴ちゃんも来ていたみたいで、私に対する反応を咎められて、海斗から頭にげんこつをもらっていた。
うん、言い方のせいよね。本当に、私のことが嫌いみたいなんだから……。
「お、お兄ちゃん。さすがにげんこつはまずいわよ。私は気にしていないから、ね?」
「まったく、マイは甘いぞ。悪いことをしたら報いを食らう、これは当然の結果だ」
私が言っても、海斗は教育的指導をやめるつもりはないようだ。
これも兄妹ならではなのかしらね。私はただ苦笑いをすることしかできなかった。
「今日はあの人たちの漁納めですからね。そろそろ港に戻ってくると思いますよ」
「あっ、お兄ちゃんのお母さん。そうなんですね」
「ええ。毎年12月30日に最後の漁をして、1月2日に最初の漁をするんですよ。技術の進歩がなかった頃は、とても漁なんでできなかったそうですけれどね」
「そうなんですね。初めて知りました」
「まあ、漁師をしている家以外はまず知らないでしょうからね。ふふふ。今日のお祭りもそういう仕事納めの一環なのよ」
なんともまあ、意外な話を聞かされたものだった。
でも、これだけこの神社がさびれているから、そこには信心なんていうものはないのかもしれないわね。
私はちらりと本殿の屋根の方へと視線を向ける。波均命の姿は見当たらなかった。
主役がいないのはやっぱりいけないと考えた私は、おじいちゃん先生の服の裾を引っ張る。
「ねえ、おじいちゃん」
「なんじゃ、マイ」
「日本酒を買ってきましょう。やっぱり神社なんだから、神様へのお供えは必須だよね」
「あ、ああ。そうじゃのう。じゃが、マイは絶対に飲むでないぞ」
「分かってる。法律はちゃんと守るから」
私の急な提案に、おじいちゃん先生は戸惑いながらも乗ってくれたようだ。
おじいちゃん先生がお祭りのための料理を作っている人たちに断りを入れると、私と一緒に波均命のためにお供え物を買いに行くことにしたのだった。




