第45話 賑わいの日を前に
お祭りの日である30日の前日のことだった。
「よう、マイ。ちょっと付き合ってもらっていいか?」
おじいちゃん先生の家に、私を訪ねて海斗がやって来た。
私はうっかりパジャマのままで対応してしまい、玄関で固まってしまっていた。
「おい、ずいぶんとふわふわのもこもことした格好だな」
海斗にこう言われて、私は我に返る。
「わ、私は寒がりなのよ。寒いから玄関を閉めて!」
「ああ、悪い」
海斗は私の文句に、慌てて扉を閉める。
まったく、せっかく温まってたのに、冷えてきちゃったわよ。ああ、寒い寒い。
「うわっ、結構震えてるじゃねえか。本当に寒さに弱いんだな。……悪かったぜ」
体を抱えて震える私を見て、海斗は本気で謝ってくれていた。優しいんだけど、どっか抜けてるのが海斗なのよね。
……私、どうして好きになったんだろ?
まあ、いっか。理屈じゃないし。
「それはそうと、お兄ちゃんは何しに来たのよ」
「ああ、海の神社の掃除をするから、お前も来ないかって誘いに来たんだよ」
「なんで?」
どうやら、波均命の神社を掃除するというお祭りの前日行事に、私を誘いに来たらしい。
「ほら、お前は普段からあの神社のことを気にかけていたじゃないか。そこで、お前が必死に掃除をする姿を見せれば、みんなもちょっと意識が変わるんじゃないかって思ったんだ」
「なるほどねぇ……」
私は海斗の言い分を聞いて、つい眉間にしわを寄せてしまう。
ところが、海斗は言ったそばから困った顔をしている。どうしたというのかしらね。
「お兄ちゃん、どうしたのよ。そんな変な顔をして」
「いや、そうは思ったんだが、今の震える姿を見て、やめようかと思うんだ」
「なんで?」
確かに私は寒さに弱いけれど、話を聞いていたら行かざるを得ないと思うのよ。
だから、やめようと考えを改めようとしている海斗に、私は迫ってしまう。
「すぐに着替えてくるから、お兄ちゃんは待ってて。寒いのは嫌だけど、波均命様の神社のこととなれば話は別よ」
「お、おい!」
私はそう言い放つと、自分の部屋に戻って服を着替えてくる。
厚手のタイツ二枚を重ね、いつもの上着にセーターをもう一枚追加。カイロもふたつ仕込んで、いつも以上に防御力を上げる。
「さあ、行くわよ」
「う、動きづらそうな格好だな……」
重ね着をしたから、着ぶくれしちゃってるからね。動きづらいのは百も承知よ。
私は気合いを入れて、軍手とゴミ袋を手に取ると、海斗と一緒に波均命の神社へと向かっていった。
外に出た瞬間、寒風に吹かれて震えてしまう。防御を上げたというのに、冬の寒さの前には無力だった。
「だ、大丈夫か?」
「平気。動いていれば温まるからなんとかなると思う」
「そ、そうか……」
心配そうに私を見る海斗だけど、私は強硬姿勢を見せている。
むすっとした顔をしている私を、海斗は言い出しっぺながらも、なんだか心配そうに見ている気がするわ・
「お兄ちゃん?」
「いや、寒さに弱いことを知っていたら、連れ出そうとは思わなかったんだけどな。ここ最近の姿のことを、真鈴のやつはまったく教えてくれなかったからな」
「真鈴ちゃんが黙ってたの?」
「ああ」
どうやら、ここ最近の集団登校の集合場所までの様子を、真鈴ちゃんは一部隠しながら海斗に報告していたらしい。私が寒さに震えていることが報告しなかったことに該当するみたいね。
まあ、真鈴ちゃんの私に対する普段の態度を思えば、そのくらいはするでしょうね。露骨に嫌がってるんだもん。
「う~ん、真鈴ちゃんに嫌われてるのかぁ……」
「みたいだな。なんでそんなに嫌うのか、俺にも分からないんだがな」
「多分、お兄ちゃんを取られると思ってるんじゃないかな。甘えん坊な人だと、そういうところがあるみたいなことが聞いたことがあるから」
まあ、前世で読んだ漫画の受け売りだけどね。
だけど、私のその意見を聞いた海斗はなんだか考え込んでいた。
「そうなのか。それ、真鈴に聞いてみてもいいのか?」
「やめておいた方がいいわ。怒られてへそを曲げられるだけだから」
うん、地雷を思いっきり踏み抜こうとしているわ。当然だけど、私は止めるわよ。人がケンカしてるようなところは見たくないからね。
ただでさえ、会うことが頻繁だっていうのに、私にとばっちりが来ないとも限らないもの。
私から即答でやめとけと言われた海斗は、腕を組みながら唸り始めてしまった。分からないのね、女心を。
ずっと考えごとをしている海斗を見て、やっぱり自分の知っている海斗だなと再認識する。
ここは前世の私の存在の記憶だけがすっぽり抜け落ちた、私のいた世界なんだと改めて認識したわ。
そうこうと話をしている間に、私たちは波均命の神社に到着する。
すでに掃除をする大人の人たちは集まってきていたみたいだ。みんな腕っぷしの強そうな人ばかりだなぁ。さすが漁師さんだと思うわ。
掃除はきちんと行われることを確認した私は、奥の方の本殿の方を見る。その屋根には、波均命があぐらをかいて境内を見下ろしていた。
数少ない神社がにぎわう時が来た。
私はその中に混じって、しっかりと掃除をさせてもらおうと気合いを入れたのだった。




