第43話 一方通行
波均命の神社を掃除して帰った私は、一度お風呂に入って夕方を待つ。
この日の夜は、平川さんの家にお呼ばれしているからね。本業の飲食店を休業して知り合いを集めてクリスマスパーティーをするんだって。まあ、確かに人は呼び込めなさそうだもんね。
人が減るなら、最初から開かなければいいというなんという逆転の発想なのかしらね。
今日のことはおじいちゃん先生には話してあるので、私はとにかく平川さんがやってくるのを待つだけ。自分の部屋で正座で待機していた。
夕方の診察が始まった午後四時を過ぎた頃だった。
ピンポーン。
玄関の呼び鈴が鳴る。
食堂にあるインターホンを覗き込むと、そこには平川さんの姿があった。
「はーい、今出ますね」
姿を確認した私は、玄関まで走っていった。
「お待たせ、平川さん」
「よっ!」
私が玄関に出ると、平川さんと一緒に思ってもみない人物が立っていた。
「あれ? なんでお兄ちゃんがいるのよ」
「俺も誘われてるからだよ。真鈴は留守番な」
海斗が立っていた。理由を尋ねると、海斗もパーティーに呼ばれているらしい。
「え、なんで?」
「あいつは秋祭りに参加してないからだ。それにパーティーをめんどくさがったからな」
「な、なるほど……」
真鈴ちゃんは参加を拒否したらしい。
これはちょっと予想外だったな。海斗にはべったりくっついていそうな感じなのに断るなんてね。
「あいつ、人の多いところは少し苦手なんだよ。学校も苦痛とか言ってたからな」
「そうなのね。そんな風には見えなかったんだけどなぁ」
思ってもみなかったので、意外さに驚かされていた。
私たちの反応を見ていた平川さんが、にやにやしながら私たちを見ている。
「ふ~ん、お父さんが一緒に連れて来いって言っていた理由が分かったような気がするわ」
「なっ?!」
平川さんの言葉に、私はつい慌ててしまう。まったく、平川さんのお父さんは何を思ったっていうのよ。
「とりあえず行こうぜ。あんまりここで話しているわけにもいかないだろうし」
「そ、そうだね。おじいちゃんの午後の仕事が始まったし、邪魔にならないように急ぎましょ」
「うん、そうね」
私は玄関にしっかりとカギをかけると、平川さんの案内でパーティー会場へと向かっていった。
会場は、平川さんの家である大衆食堂で行われる。
到着した頃には、食堂の中には家族連れの姿が数組見えた。
食堂の中は、急な話だったというのにちゃんとした飾りつけがされていて、いかにもクリスマスパーティーをするぞという体裁は整っていた。
「あっ、波白さん」
「海堂くんじゃないの」
お祭りの日に、一緒に屋台を手伝っていた海堂くんの姿もあった。ということは、後ろの人たちは海堂くんのご両親か。
「おう、これで招待した人はみんな揃ったな」
そう言いながら、平川さんのお父さんが出てきた。なんか大きな箱を抱えているわ。
「なに、あれ……」
「カラオケの機材よ。お客さんの要望で歌えるようにしてあるのよ。普段は奥にしまってあるのよ」
「へ、へえ……」
さすがは大衆食堂。ご近所の人とかが集まるとあってか、気軽に気晴らしができるようになっているみたい。
とはいえ、歌う曲をみんなが知っているとも限らないので、難しいところではあると思うわよ。
四角い箱をセットし終えて、その上にマイクを置くといよいよ準備完了のようだ。
「それじゃ、クリスマスパーティーを始めるぞ」
平川さんのお父さんの声で、いよいよパーティーが始まった。
普段は庶民的な料理を出しているらしいんだけど、この日はちゃんとクリスマス仕様の食事が出てきている。
鶏肉料理はもちろんだけど、ローストビーフだってあるし、シャケのマリネだってある。平川さんのお父さんって、料理の守備範囲広くないかしら。お祭りで焼きそば焼いていた人だなんて、とても信じられないわ。
「ほら、マイ。お前も食えよ」
「えっ?」
私が驚いていると、海斗が私に料理をずいっと差し出してきた。
「ちょっと、シャケの切り身の蒸し焼きじゃないのよ!」
「肉よりはこっちかなと思ってな」
「もう、お兄ちゃんってば!」
私がマーメイドなことを知っているのに、海斗は魚を勧めてきた。なので、私はポコポコと海斗を叩いていた。
うん、無神経なのは知ってたけど、ここまでとはね。さすがに怒るわよ。
「いててて。まったく、わがまま言ってくれやがって」
「お兄ちゃんがふざけるからよ!」
私が文句を言っていると、海斗は困ったような顔をしていた。なによ、その意外だみたいな顔は!
私たちのやり取りを見ながら、平川さんと海堂くんがおかしそうに笑っている。そんなに面白かったかな。
そんなこんなで、私たちは料理を味わいつつ歌を楽しみながら、クリスマスの夜を過ごした。
こういう経験は初めてだったけれど、こういうのも悪くないかなと私は思う。
ただ、プレゼント交換みたいなイベントはなかったわね。急な思いつきだから、みんな準備できなかったみたいだもの。
すべてが終わった後、私は海堂くんのお母さんが運転する車で家まで送ってもらった。
「波白さん」
「なに、海堂くん」
車を降りて、お別れとなったところで、私は声をかけられる。
「僕は、頑張りますからね」
「え、ええ。なにをかは分からないけど、頑張ってね」
「はい」
なんとも意味不明なことを言われて、私は困惑しながら返事を返しておいた。
車が去っていくのを見送り、私は背伸びをひとつして家の中に入っていく。
ようやく、忙しかったクリスマスの日が終わりを告げたのだった。




