第40話 戻って最初のクリスマス
気がつけば、二学期の終業式を迎えていた。
私はそれまでの間も海に潜ろうとしたものの、思った以上に冬の海は冷たかった。魔法を使って潜ろうとしたものの、いろいろあって結局挫折していた。
波均命に全部任せるしかないみたいだ。
真鈴ちゃんが朝来るようになってからというもの、海斗とはほとんど会うことはなかった。おじいちゃん先生と買い物に出かけた時に、一度か二度会った程度。相当あの練習試合の惨敗がこたえたんだと思う。
別にプロ選手を目指しているわけじゃなかったはずだけど、海斗ってば負けず嫌いなんだなと思うわ。
さて、終業式を終えて、私は家に戻ってくる。
今日もおじいちゃん先生は診察で忙しいようで、私は部屋に戻ってごろりと転がっていた。
「はあ、お昼は何にしようかな」
二学期の終業式は、高確率でクリスマスイブになる。ケーキは食べたいけれど、それはまあ無理かなと思ってる。
今日も午後には診察があるから、終わってから行くとなるとコンビニくらいしか開いていない。この時期のケーキはいつものケーキでも値段が上がっているし、わがままはよくないわよね。
私はそのまま部屋で転がっていた。
ちらりとおじいちゃん先生の働いている医院の方を覗いてみると、今日も患者がたくさん来ている。
今年の冬は寒いせいか、風邪とインフルエンザがはやっているみたいだからね。今日もクラスに二、三人ほどの欠席者がいたものね。
「おじいちゃんは忙しそうだし、やっぱりクリスマスケーキは諦めた方がいいかしら」
私は扉を閉めてため息をついていた。
この分だと、午前中の診察が終わるのは一時を回りそうだ。二時間くらい時間があるけど、どうやって時間を潰したものだろうか。私は自分の部屋に戻って、ランドセルの中身を覗いてみる。
最初に出てきたのは通知表。私は二学期から通っているので、成績は二学期の分しかない。
いいとは言えないけれど、悪くもない成績なので、夜の診察が終わってからおじいちゃん先生に見せることにしよう。この分じゃ、お昼はそんな余裕はなさそうだもの。
そうなると、あとは冬休みの宿題かぁ。
成績の件もそうだけど、二回目の小学生とはいっても意外と難しかったなぁ。マーメイド族の王女として過ごしていたこともあって、意外と覚えてなかったみたいだわ。まったく、情けない限りだわね。
そんな風に考えていると、玄関の呼び鈴が鳴る。
誰だろうかなとインターホンを覗くと、海斗たちの家族の姿があった。
「はーい、今出ますね」
私は玄関に移動してドアを開ける。
「こんにちは、マイちゃん」
「どうしたんですか、急に尋ねてくるなんて」
「クリスマスの食事を買いに行こうと思ってね。今日も先生は忙しそうだから、私たちが代わりにマイちゃんを連れていってあげようと思うの」
海斗のお母さんはそう提案してくる。
まあ、忙しいのはよく分かるわよね。隣にある駐車場が、今日も満車だもの。
「はい、お願いします。いつも頑張っているおじいちゃんを労いたいですからね」
「ふふっ、それじゃ早速行きましょうか」
海斗のお母さんがそういうものの、私はちょっと待ってもらうことにする。
いつ帰るか分からないので、ご飯くらいは炊いておきたいからね。
炊飯器をセットする間だけ待ってもらい、私は働く看護師の人に出かけることを伝えて、海斗たちと一緒に買い物に出かけた。
やって来たのはいつものショッピングモール。店内にはクリスマスソングが流れているし、家族連れやカップルたちが所狭しとひしめき合っている。
久しぶりに見る海斗は、いつもに比べて少し頼りがいがあるように見える。真鈴ちゃんは相変わらず不機嫌そうだけど。まったく、心開いてもらえそうにないわね。
「先週ぶりかな、マイは」
「そうだね、お兄ちゃん。急にお迎えしてくれなくなって、ちょっと寂しいよ」
「悪いな。もっとうまくならなくちゃって思って、バスケに打ち込んでたからな」
「お兄ちゃんってば負けず嫌いだからね。でも、それだったら一年の時から打ち込まない?」
話をしていると、真鈴ちゃんが鋭い指摘を入れていた。
そういえばそうだ。先月まで海斗がやっていたのは、朝と夕方のジョギングくらいで、それ以外は普通の部活だけで済ませていたものね。まったく、何がそこまで海斗を駆り立てているのかしらね。気にはなるけれど、頑張っているのならまあいっかなと思う。
そんな風に海斗を見ながら思ってたんだけど、真鈴ちゃんの視線がとにかく痛い。これ以上はやめておいた方がいいかな。かみつかれそうだわ。
「そこを突かれると正直痛いな。来年の夏で最後になるから、少しくらい上を目指しておきたいんだよ。さすがにあれだけ大差をつけられたら、悔しくて仕方なかったしな」
海斗はそう話していた。
つまり、先輩が抜けたことで、以前よりも大きな差ができたということなのだろう。だから、無駄かもしれないけれど部活に打ち込んでいるというわけなのね。納得したわ。
「というわけで、マイ。当面は朝に迎えに行くことはできないから、真鈴と仲良くしてくれよ」
「分かったわ、お兄ちゃん」
仲良くできる自信はないけれど、海斗に言われたら笑顔で返事をするしかなかった。
こんなぎくしゃくした感じではあったものの、私たちはクリスマスの買い物を済ませて、家に戻ったのだった。




