第4話 前世の世界での暮らし
おじいちゃん先生のところに居候することになったのだけれど、その前に私はいろいろと二人に質問させてもらった。
男性の名前はやっぱり『渡海斗』だったし、ここの町の名前も前世の私の住んでいた町だった。
なにより一番驚いたのは、日付。
なんと、私が高波にさらわれた日から半月も経っていなかった。
ただ不可解なのは、一人の少女が行方不明になっているというのに、騒ぎらしい騒ぎも感じないこと。
おじいちゃん先生の医院から出ていないから見てないだけかもしれないけれど、一人の女子高生が行方不明になっていれば、それなりに話題が出てもおかしくないはず。
転生の前の世界のはずなんだけど、私は奇妙な違和感を感じていた。
それはそれとして、私はおじいちゃん先生と今でくつろいでいる。
ちなみに服は、家の中にあったおじいちゃんの子どもの小さい頃の服を着させてもらっている。そのせいで古くさい感じはするけれど、我慢だわ。
「あの、おじいちゃん」
「うん、何かな?」
私はお世話になるおじいちゃん先生と話をしている。
私がやってきたことによって、おじいちゃん先生は医院を休診にしてまで私の世話をしてくれている。
「私、元の世界に帰れるんですかね」
「さあのう……」
私の突然の質問に言葉を濁している。
うん、分かってる。それは私が一番分かってる。
だって、魔法もないような世界に、そんな都合のいい話があるわけないんだから。
「まあ、君みたいな子どもが一人で知らない場所に来たんじゃ。不安になるのも分かる。迎えが来るまで、わしのところで過ごせばいいぞ」
「本当に、すみません」
私は頭を下げて謝ってしまう。
「何も気にすることはないて。孫娘ができたようで、わしは嬉しいからのう。仕事があるからあまり構ってはやれんが、不自由はさせんから安心せい」
「うん……」
私はおじいちゃん先生の言葉を聞いて、こくりと頷いていた。
「あの……」
「なにかな?」
「さっき会った男の人……。また会えるんですか?」
「うん?」
私の言葉に、おじいちゃん先生は表情を歪ませている。
あれ、何か変なことを言ったかな?
「ほっほっほっ、海斗くんのことが気になるかね?」
あれ? おじいちゃん先生、笑ってるわ。なんだったのかしら、さっきの表情は。
私はとりあえず質問にこくりと頷いておく。
「ほう、そうかそうか」
あごひげも生えていないのに、おじいちゃん先生はあごを触っている。
「海斗くんなら明日も来るぞ。ちょうど土曜で学校も半分休みじゃしな」
おじいちゃん先生の話す内容を聞いて、私はぱあっと表情を明るくする。また海斗と会えるのなら、それほど嬉しいことはない。
「そうそう、マイといったかね」
「はい。何ですか、おじいちゃん」
私の名前を呼ぶものだから、私はきょとんとした顔をしながら返事をする。
「うむ。土曜日ということは、わしも午後はお休みじゃ。カルテの整理が終わり次第、海斗くんと一緒にお出かけをしよう。君の身の回り品をそろえねばならんからな」
「あ、そうですね。何から何まで申し訳ありません」
「ほっほっほっ、気にするでないぞ。さっきも言うたが、孫娘ができたみたいで嬉しいからのう」
私が謝ると、おじいちゃん先生は陽気に笑っていた。
お医者さんとはいっても、町の開業医でそんなに儲かっているのかなという疑問はある。でも、おじいちゃん先生が気にするなというから、私はその言葉に甘えさせてもらうことにした。
私は今は使ってないという部屋に案内される。
「ここは娘の住んでいた部屋じゃよ。その服はここから持っていたんじゃ。少々埃っぽいかもしれんが、掃除はしておるからさほど気になるまい。自分の部屋だと思って、好きに使っておくれ」
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、おじいちゃん先生は使い方の確認をしてきた。
転生者である私は使い方が全部わかるんだけど、一応最低限の使い方だけは聞いておいた。だって、おじいちゃん先生ってば、使い方を教えたくてうずうずしてたんだもの。
ひと通り説明を終えたおじいちゃん先生は、私が分かったというと、満足した様子で部屋を出ていっていた。
部屋に一人になった私は、時間は早いもののもう眠ることにした。元の世界に戻ってきたことで、いろいろとショックを受けちゃったから、あんまり考えたくないというのが本音。
私は布団を敷いて、さっさと横になる。
「お父様、お母様、お城のみんな……。今頃、私を心配して探し回っているんだろうなぁ……」
転生先であるマーメイド王国のみんなのことを考えてしまう。
「前世のお父さんとお母さんは、どうしているんだろう。あと、弟も。ああ、こっちの世界に戻ってきちゃったことで、気になることが二倍になっちゃったわ……」
頭の中が情報の洪水でパンクしてしまいそう。
「うん、こういう時はもう寝ちゃうに限るわ。明日は海斗とお出かけだから、しっかり寝ておかなきゃ」
おじいちゃん先生もいるとはいえ、幼馴染みで絶賛片思い中の海斗とのお出かけは、つい楽しみのなっちゃって目がさえてしまいそう。
ああ、夢のようだけど、夢オチなんてことはないでしょうね。
「ああ、どんな顔をして会えばいいんだろう」
久しぶりの再会と、さっき下半身を見られてしまった恥ずかしさから、私は布団の中で悶えてしまう。
いけない、このままじゃ本当に眠れなくなっちゃう。
徹夜は美容の敵。
私はとにかく眠ることだけを考えて、頭からすっぽり布団をかぶって目を閉じたのだった。




