第37話 乙女心は複雑だ
「ただいまー、おじいちゃん」
私は、無事に家まで戻ってきた。
海斗は部員たちと一緒に戻ってきたので、私は海斗の家族と一緒に家まで送られてきた。
行きと同様に、私は真鈴ちゃんから執拗に睨まれていたけれど、帰りは海斗の活躍という共通の話題があったので、まだ空気は穏やかだった。
それでも、長く耐えられるかといったら、自信はなかったわ。
「おお、マイ。戻ってきたか。おかえり」
おじいちゃんは何かをしていたみたいで、私が玄関に入ってきて、だいぶ経ってから顔を見せていた。
「あっ、おじいちゃん。忙しかったの?」
「うむ。個人医院とはいっても、いろいろあるからのう」
「そっか、お疲れ様だね、おじいちゃん」
「ありがとな」
挨拶を終えると、私たちはそれぞれの部屋に戻っていく。
部屋に戻った私は、クッションを抱えてそのまま床にごろりと転がってしまう。
「くぅ~、海斗ってばあんなにかっこよかったっけ?!」
何かといったら、今日の試合中の海斗の姿を思い出していた。
ほら、好きな人の姿っていったら、いつでも思い出しちゃうってあるでしょ。私はまさにその状態にあるのよ。
ジャンプボール目がけて跳び上がる姿。ドリブルをしながらスリーポイントを狙う姿。その一つ一つの姿が、私の目にはしっかりと焼き付いていた。
うん、やっぱり私ってば海斗のことがすごく好きなんだなって思う。
「そういえば、海斗ってキャプテンじゃなかったんだなぁ。転生前は、話はしてもあんまり部活の話はしてなかったものね。海斗って、なんでそんなに部活のことを黙ってたんだろう」
クッションを手放して、私は大の字に転がったまま天井を見上げている。
黙っているせいか、部屋にある壁掛け時計の秒針の音がよく聞こえてくる。
カチッ、カチッ、カチッ……っとリズムよく刻まれる音に、床に転がった私はちょっと眠たくなってきたみたいだった。
「ふわぁ~……。興奮のし過ぎで眠くなっちゃったかな。しょうがない、このままお昼寝でもさせてもらおうっと」
大きなあくびをした私は、眠気に耐えきれずにそのまますっと意識を失った。
眠った私は、不思議な夢を見てしまう。
その光景は、まだ私たちが小学生に上がる前、幼稚園の頃だと思われるものだった。
場所は、他にも子どもたちの姿が見えるから……、うん、きっと幼稚園の砂場でしょうね。
私は海斗と向かい合いながら、砂場でお山を作って遊んでいるみたいだった。
でも、よく言葉が聞き取れない。表情を見ている限りは、私たちは楽しく遊んでいるみたいなんだけど。
声は聞こえないけれど、様子を見続ける。小さな私たちは、砂の山を両側から掘り始めると、ちょうど真ん中で手がぶつかり合ったみたいだ。
思いっきり笑顔を見せる海斗と、恥ずかしそうな顔をする私。この頃も相変わらずな反応なのね。
あっ、何かを喋っている。すごく笑顔なことを考えると、いいことを話しているのだろう。穴の中では手がどうなっているのかが見えないし、なによりこの光景、私の記憶にないのよね。このとき何が起きていたのかはまったく覚えがなかった。
もっとしっかりと確認したいんだけど、段々と夢の中の景色がぼやけ始めた。
待って。お願いだから、この時の声を聞かせて。
私の願いもむなしく、その光景はさあっと白い光にかき消されてしまった。
「はっ!」
私は目を覚ます。
「おお、マイ。やっと起きたか」
「お、おじいちゃん……?」
ぼやっとする意識の中で、私はおじいちゃん先生を確認する。
部屋の電気がつけられているので、辺りはすっかり暗くなってしまっているということだろうか。
「夕食の支度ができたというのに、姿を見せんから様子を見に来たんじゃが……。よく眠っておったようじゃの」
「……そっか。私、帰ってきてからつい眠くて寝ちゃってたんだ……」
おじいちゃん先生の言葉を聞いて、私はどうにか状況を理解する。
試合で見た海斗の姿に興奮して、その疲れで眠ってしまったことを思い出したのだ。
「……何か夢を見た気がするけど、なんだったかな?」
「ふむ。どんな夢かは気になるところじゃが、先にお風呂に入っておいで。汗をかいているようだしの」
「うわっ! 本当にびっしょりしてる」
なんかべたべたするなと思ったら、私の服が汗でぐっしょりとしていた。
「おじいちゃん、ごめんね。ご飯はもうちょっと遅くなりそう」
「構わんよ。とにかく、お風呂に入ってきなさい。ちゃんと沸かしてあるからな」
「ありがと、おじいちゃん!」
私はすぐにお風呂へと向かっていく。
こんなに汗をかいているなんて、私ってばどんな夢を見てたんだか……。
「はあ……。久しぶりに海斗の部活で頑張る姿を見ちゃったから、寝ながら興奮してたのかな。変なことを口走ってなければいいんだけど」
お風呂に入りながらも、私はずっと悶々とし続けていた。
夕食の間、私はおじいちゃん先生に確認しようと思ったけれど、恥ずかしくて確認できなかった。
おじいちゃん先生の方も何も言ってこなかったので、私は変なことは口走っていないと、一人で納得することにした。
はあ、明日からは調査を再開させて、気を紛らわせることにしようっと。
今日のことはとにかくすべてを忘れようと、布団を頭からかぶって、その夜は無理やり眠りにつく私だった。




