第32話 芋ほり
波均命が神無月でいなくなってから半月が経った。
私の調査はまったく進展がなく、ただ時間だけが過ぎていった。
「はあ……、海の中をいくら探してみても手掛かりがまったくないわ。本当に私ってば、どうやってこっちの世界に戻ってきたのよ……」
家に戻ってきた私は、部屋の中でじたばたとしている。
「マイ、ちょっといいかの?」
「なあに、おじいちゃん」
私が部屋で悶々としていると、今日の診察を終えたおじいちゃん先生が声をかけてきた。
「今度の日曜にな、この辺りの学生たちが集まって芋ほりをするんじゃが、どうじゃ、参加してみんか?」
何かと思って姿勢を正して聞いてみると、なんと、近くの農園で芋ほりをするらしい。
懐かしいわね。私も小学生、中学生の頃は参加していた。なにせ、ただでジャガイモとサツマイモが手に入るんだもの。
まあ、その日からしばらくの間は、肉じゃがとサツマイモの入った味噌汁が続いてたんだけどね。
「うん、参加してみる。日曜日ね、楽しみだわ」
私は無邪気な小学生を装って喜んでみる。
おじいちゃん先生も安心したらしく、どこへと歩いて姿を消してしまった。
とりあえず、おじいちゃん先生が仕事を終えたのなら、夕食の準備をしなくちゃね。
私は立ち上がって、すぐに台所に向かっていった。
そして、迎えた日曜日。
私は長袖のトレーナーとハーフパンツにタイツ、それと長靴といういでたちで玄関に立っていた。
「マイや、準備はできておるか?」
「見ての通りよ、おじいちゃん」
おじいちゃん先生の呼び掛けに、私は渾身のドヤ顔を披露する。
足は本当は素足にしたかったけれど、かまれたり刺されたりという心配があるので、ちょっと厚手のタイツにしたわ。
「ふむ。それじゃ、今日はいい天気じゃし、歩いていこうかの」
「うん、おじいちゃん」
私はおじいちゃん先生に手を引かれて、医院を出発する。
やって来たのは、田均命が祀られている神社から目と鼻の先の畑だった。って、それって奉納用の野菜を作っている畑じゃないのかしら。
ちょっと心配になった私は、おじいちゃん先生を見てみる。
「心配せんでも奉納用の野菜は既に前日に収穫してある。ここは元より、そういうための畑なんじゃよ」
おじいちゃん先生の説明を聞いて、私は安心した。
畑の中には、いろいろとたくさんの学生たちが集まっている。
よく見ると平川さんの姿もあるけれど、海斗や真鈴ちゃんもいるみたいだ。なんか知っている顔が多いわね。
私はおじいちゃん先生と別れて、平川さんのところに走っていく。
「波白さん、こんにちは」
「こんにちは、平川さん。収穫に来たのね」
「ええ。将来的には地元で農家をするつもりだから。今の段階からここを手伝って勉強しているの」
平川さんはとても照れくさそうに話をしている。
お父さんが縁日で屋台を出していて、家は食堂らしいから、食に興味があるってことなんだろうね。らしいっちゃらしいかな。
「よっ、マイ」
「マイちゃん、よろしく」
平川さんと挨拶が終わると、海斗たちが近付いてきた。声をかけられると、私は思わずドキッとしてしまう。
「こ、こんにちは、お兄ちゃん、真鈴ちゃん」
気を取り直して、私は普通に挨拶を交わす。
海斗は普段とあんまり変わらない淡々とした表情なんだけど、真鈴ちゃんは、なんかこう……ちょっと睨んでないかしら。気のせい……よね?
あっ、にこにこしている。やっぱり見間違いだったかしら。
「この芋ほりにも参加するとはな。まったく、よそから来たのに殊勝な心掛けだよ」
「だって、よそから来たとはいっても、今は私もこの地域の一人だもん。積極的に参加しても問題ないでしょうに」
「まっ、それはそうだな」
海斗が笑いながら言うのものだから、私はちょっとむっとした表情で言い返してあげた。
だけど、反省するどころか、海斗はさらに笑っているだけだった。もう、なんなのよ。
そうしている間に、芋ほりが始まる。
私が担当したのはジャガイモの方。海斗と真鈴ちゃんはサツマイモの方に行っちゃったから、ちょっと寂しいかな。
でも、こっちは平川さんがいるので、それなりに話をしながら頑張って掘り進めた。
だいたい一時間ちょっともあれば、かなりの量が掘れる。
その一部を使って、芋煮と芋汁が振る舞われる。掘ったばかりの新鮮の芋を使っての料理は、なんだかいつもと違っておいしく感じた。
「ほら、マイ」
「わっ、お兄ちゃん?」
私がおいしく頬張っていると、海斗が急に口の辺りに手を当ててくる。
何かと思ったら、口の周りに具をつけてしまっていたらしい。わわっ、ちょっと恥ずかしいな。
「食べるのはいいけど、もうちょっと落ち着いて食えよな、まったく」
「も、もう……」
海斗は私の顔を見て笑っている。
急に変なことをされた私は恥ずかしくなってしまって、海斗に何も言い返せなくなっていた。
こうして、掘りたての芋を使った料理を堪能した私たちは、袋一杯のジャガイモとサツマイモを持って帰宅していく。
「どうしたんじゃ、マイ。顔を赤くして」
「な、何でもないよ、おじいちゃん」
だけど、海斗に頬についた具をすくい取られた光景が頭によぎってしまう。
本当に、海斗は私の知っている海斗のままだよ……。
昔のことを思い出して、その日の私はなかなか落ち着けないでいたのだった。




