第3話 現地人とのファーストコンタクト
「えと……あの……」
私はいろいろと混乱していて、うまく反応できないでいる。
一目見た時は本人だと思ったけれど、まだ確証を持てたわけじゃない。でも、どう見ても本人みたいなので、緊張でまともに言葉が出てこない。
「うん、どうしたんだ?」
「あの、ごめんなさい。体に力が入らなくて、ベッドに戻れないの。お兄ちゃんが持ち上げてくれないかな?」
どうにか私は言葉を返す。
うまくベッドに戻れないのは事実だもの。なにせマーメイドの体では、うまく移動できない。マーメイドと生まれて初めての地上なんだから。
目の前にいる海斗と思われる男性は、私の下半身を見て納得したみたい。
「しょうがないな。ほら」
男性は私の体をひょいと持ち上げると、ベッドの上に座らせてくれた。
「お、重くなかった?」
「いや、軽かったよ。何を食べてたらそんな風になるんだろうな」
失礼なことを言いながら男性は笑っていた。
このデリカシーのない感じもますます私の知っている海斗っぽい。
「えっと……。ここはどこで、私はどうしてここにいるのかな、お兄ちゃん」
いろいろと疑問が湧いてくる私だけど、ひとまず自分の置かれた状況を確認したい。なので、海斗と思われる男性にその辺りを聞いてみることにした。
すると、私はどうやら海岸に打ち上げられていたらしい。そこへ早朝散歩に出歩いていた男性が見つけて、私を連れて帰ってきたそうだ。
「とりあえず目を覚ましたことだし、異常がないか診察してもらってくれ。そのために小児科まで連れてきたんだしな」
「えっ?」
戸惑う私の前に、聴診器をつけた白衣のおじいさんが現れた。
あっ、この人も知ってる人だ。小さい頃は病気がちだったので、よく診察してもらっていたおじさんなのよ。十年も経てばすっかり頭は真っ白になっちゃったけどね。
私の知っている人が目の前に二人もいる。これはもう、ここは私が生まれ育った前世の故郷で間違いなさそう。
まさか、ピクニック中に襲われた水流のせいで、元の世界に戻るだなんて……。そんなことってありえるのかしらね。
そういえば、私が異世界に転生した時も高波にさらわれてだったから、ありえなくもない話かもしれない……?
私は小児科のおじいちゃん先生の診察を受けながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
「ふむ、終わったぞ」
「あ、ありがとうございます」
診察が終わったと聞いて、私はおじいちゃん先生にお礼を言う。そしたら、おじいちゃん先生は首を捻っているようだった。
「普通、このくらいの子であれば男性に見られるのは嫌がるものだが、お嬢ちゃんは落ち着いていたな」
あっ、そうか。今の私って十二歳だもんね。それでなくても前世の年齢なら十七歳だし。
いけないいけない。懐かしさが先に立っちゃって、乙女の恥じらいをすっかり忘れていたわ。
私が混乱していると、扉が叩かれて外から声が聞こえてくる。
「終わりましたか、先生」
「うむ、今終わったところだ。実に健康体、なんともないよ。外傷もなかったしな」
「そうですか」
男性は部屋に入ってくると、私を見てほっとしていたようだ。
診察が終わったこともあって、男性は私の前に来ると、しゃがみ込んで私の顔をじっと見つめている。
「さて、君は誰でどこから来たんだい?」
「私はマイ。マーメイド王国のお姫様よ」
質問に正直に答えたら変な顔をされた。理由は分かるんだけど、これだけ露骨な反応をされると困ってしまう。
「冗談はよしておくれ」
「冗談じゃないわよ。私の足、いや、尾びれとか見たんでしょ?」
私は足に相当する部分をびたんびたんと動かす。
人間の足なら左右を別々に動かせるけど、尾びれでは一体化しているので別々に動かせないからね。
「これ下半身は本物じゃよ。どうやら本当に人魚のようだ」
「……マジか?」
海斗似の男性はびっくりした顔を見せている。だから言ったじゃないの、冗談じゃないって。
「とりあえず、わしのところで預かるとするよ。ここなら車いすがあるから、下半身がこれでも動くには問題ないしな」
「警察には届けなくていいのか?」
「この下半身である以上、下手に知らせん方がいいだろう。近所には親戚の孫とでも言ってごまかしゃいい」
「……分かった」
おじいちゃん先生の言葉に、男性は説得させられてしまったようだ。
「しっぽ、目立つ?」
「うむ、とても目立つ」
「分かった。人の脚に変えるね」
魚のしっぽはとにかく目立つ。おじいちゃん先生に迷惑はかけたくないから、私は侍女たちに教えてもらった人化の魔法を試してみることにした。
「人の脚に……変わって!」
両手をかざして集中して魔法を使う。こっちの世界で使えるか分からないけど、迷惑はかけられない。しばらくはこっちで過ごさなきゃいけないんだもん。人間のふりをしてするためにも、私はとにかく気合いを入れる。
ぽんっ!
魔法が発動すると、私の下半身は人間の脚に変わった。
「やった、成功したわ!」
「なんともまあ、不思議なこともあるものだな」
「いや、それは分かったが、ちょっとは恥じらいというものを持ってくれ」
「えっ?」
男性の声に、私は自分の体を見る。
「~~~~~っ!!」
ううっ、恥ずかしすぎる……。
こんな失態をやらかしちゃったら、もうお嫁に行けないじゃないのよ!
私は慌ててベッドの上のシーツを取って体を隠してしまう。
ああ、もう。いろいろ最悪だわ……。




