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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第29話 それは多分、古い傷

 夜の八時、おじいちゃん先生がようやくこの日の診察を終えてリビングに戻ってきた。


「ふぅ、今日もにぎわっておったなぁ。まったく、ちゃんと子どもの面倒を見ておるのか気になるぞ……」


 おじいちゃん先生は、ちょっと愚痴を漏らしていた。

 それもそうか。営業終了を過ぎても診察が終わらないんだもんね。おかげで肩が凝っているのか、痛そうにしながらくるくると肩を回している。


「おじいちゃん、お疲れ様。回復魔法かけよっか?」


「おお、マイ。すっかり待たせてしまったのう。というか、そんな力を持っておるのか?」


「一応マーメイド族のプリンセスだし、そういう魔法は得意なの」


「そっか。それでは、ちょっと頼んでみるとしようかのう」


 おじいちゃん先生はどことなく信じていないみたいで、不思議な笑顔を見せていた。

 この世界には魔法なんてものはないし、そうなるのもしょうがないかな。私だって、転生して初めて魔法に触れたわけだしね。

 それはともかくとして、おじいちゃん先生の肩に触れて、私はそっと力を込める。


「アクアヒール」


 離れ小島の祠でも使った、マーメイド族特有(?)の回復魔法を使う。淡い青色の光が、おじいちゃん先生の肩を包み込む。


「おお、これはなんとも気持ちいいのう……。まるで温泉に浸かっているかのような気分じゃわい」


 おじいちゃん先生の表情が、なんとなくほわっとした感じになっている。それだけ効いているってことだと思う。

 ひとまずの治療を終えると、ようやく夕食かな。おじいちゃん先生には先にお風呂に入ってもらいたいけれど、私のお腹がもう限界だった。


「わしに構わず、先に食べていてもいいんじゃよ?」


「それはそうなんだけど、今日はおじいちゃんに聞きたいことがあるから……」


「わしにか?」


 おじちゃん先生が驚きながら尋ね返してくるので、私はこくりと頷く。


「ほら、沖合に小さな島があるじゃない。あそこについてちょっと聞きたいの」


「あの小島に行ってきたのか?」


 話題を振ると、おじいちゃん先生は酷く驚いた顔で確認してくる。私は正直に首を縦に振る。

 おじいちゃん先生は、なんだか深刻そうな表情をして考え込んでいる。


「……マイ。悪いことは言わんから、これ以上あの小島には行かぬ方がよいぞ?」


「なんで?」


 私は即座に尋ね返す。

 おじいちゃん先生は、私の反応にびっくりしていたようだ。

 腕を組んで悩み始めると、しばらくして大きなため息をついていた。


「うむ……。まだ幼いマイに話すかどうかは、非常に迷うところなのじゃがな……」


 おじいちゃん先生はどうにも歯切れが悪い感じだ。やっぱり、あの祠は何かしらのいわくがあるみたい。


「そうやって聞いてくるところを見るに、祠も見てきたということじゃろうな」


 私はおじいちゃん先生の言葉に対して、もう一度首を縦に振る。


「古びた祠があったわ。あまりにも汚かったから、少し掃除してきたけれど」


「なん……じゃと……?」


 私の証言に、おじいちゃん先生の表情は衝撃が走ったかなような驚きに包まれていた。

 あれ、これは何かやってしまったのかしらね。


「……やってしまったものはしょうがないのう。あそこは、その昔、まだこの辺りに生贄という風習があった頃に、人身御供が行われていた場所なのじゃよ。街の歴史を調べれば、資料は出てくるぞ」


「そ、そんな場所だったの?」


 私はかなりのショックを受けた。


「きれいにしてきたというのなら、祟られることはまああるまい。あそこは昔は陸続きじゃったか、海面が上昇したか、地面が沈みこんだかで、あの通りの離れ小島になってしまっておる。そのために、手入れがされなくなって荒れ放題になっているというわけじゃの」


「おじいちゃんは、よく知っているのね」


「ああ、知り合いと一緒にあそこには行ったことがあるからな。知り合いが行きたいとうるさくてやむなく行ったんじゃが、わしらも軽く掃除をして帰ってきたおかげか、なんともなかったのう」


 なんと、おじいちゃん先生もあの祠には行ったことがあるのだという。

 でも、おじいちゃん先生と一緒にあの小島の祠に行った人物というのが気になるわ。なんとか聞き出せないかしら。


「おじいちゃん、その知り合いって誰なんですか?」


 私は聞き出そうとしてストレートに聞いてしまう。

 けど、これがよろしくなかった。

 おじいちゃん先生の表情が曇り、これ以上は何も語らなくなってしまった。よっぽどよくない思い出があるっていうことなのかな。


「すまんが、その話はもう終わりにしよう。せっかくマイが作ってくれた食事が冷めてしまうからの」


「あ、うん……。ごめんなさい、おじいちゃん」


 もう無理だと判断した私は、やむなくおじいちゃん先生から聞き出すのはここまでにしておいた。


「マイ」


「なに、おじいちゃん」


「あの小島には、もう近づくでないぞ」


「……はい」


 おじいちゃん先生がかなり強くいうので、仕方なくこの場は首を縦に振るしかなかった。

 でも、私がマーメイド族の国に戻るには、きっとあそこにヒントがありそうな気がする。

 おじいちゃん先生には悪いけれど、こっそりと行ってみようと思うわ。


 だけど、この日の夕食は、なんともおいしくなかった。

 知らなかったとはいえ、おじいちゃん先生との間でこの話題を出すのは、今後はやめておいた方がいいと悟った私なのだった。

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