第28話 沖合の小島
数日後、田均命と波均命は、兄弟そろって神社から去っていってしまった。神無月ということで、出雲の国に出向かなければいけないからだ。
その間、私は海の中の調査を再開させる。
学校が終わって家に戻ると、おじいちゃん先生ではなく、働く看護師さんに声をかけて出かけていく。
海までやってくると、海斗に教えてもらった用水路の下までやってきて、私はマーメイドの姿に戻る。服はワンピースにしているから、服を脱いでも影響はない。我ながら考えたものね。
「用水路だとそこそこの深さがあるから、人目に触れず海に出ていけるのはいいわね。海斗に感謝しなきゃ」
用水路の陰になっている部分から潜って、私は海へと出ていく。
深さがあんまりないけれど、下半身を魚の状態にしてうろつくよりはマシ。民家が並んでいるから、目撃されにくいし、本当にいい場所だわ。
今回は沖合にある小島の方まで足を運んでみることにする。
噂では、小さな社があるとか聞いたことがある。でも、ボートでもないと近付くことができなかったので、私は見たことがない。
マーメイドとなった今なら泳いで到達できるから、いよいよ真相に近付くことができるわね。
なるべく人の目に触れないように、海底に近いところを泳いで、私は小島の方向へと泳いでいく。
人間時代は目を開けられなかった水中も、マーメイドの今なら平気。魔法で目の前の水を避けられるからね。おかげで方向がよく分かる。
まだ日の落ちるのが遅い時期だから、よく見えるわ。
(えっと、確かこっちの方だったわね)
ただ、盲点がひとつ。
海中だと方向がよく分からない。本当に正しい方向に進んでいるのかが分からないのよ。ああ、私ってばどこか抜けてるんだから。
仕方がなく、一度海面に上昇することにする。
「ぷはっ!」
海面に上がると、つい口をついてこの言葉が出てきてしまう。マーメイドなので海の中でも呼吸はできるんだけど、これって癖かしらね。
私は顔だけを海から出した状態で、周りを見回してみる。町の方からはだいぶ離れてきているけれど、目的である小島にはだいぶ近づいてきていた。
「ここまで離れれば、顔を出した状態で泳いでも問題ないかな?」
私はふとそう思って、海面から頭だけを出した状態で泳ぎ始める。
周囲を見回しても漁船がいる様子はないし、問題はないと考えていた。
「ギャーッ、ギャーッ!」
「わわっ、カラス!」
ところが、よりにもよってカラスが近寄ってきた。私の髪の毛はピンク色で、マーメイド族の特徴のせいでキラキラとしている。その輝きに魅せられて、カラスが反応してしまったみたい。
私は慌てて海中に潜る。少々浅い場所なら襲われそうになるので、もちろん少し深めだ。
深く潜ってどうにかやり過ごし、私は目的地である離れ小島にやって来た。
「うわぁ……、薄気味悪いわね……」
海岸から陸地に上がり、足を人間の状態にして陸地に上がっていく。
ほとんど人が来ないとあってか、波均命の神社よりも荒れている感じだ。
よく見てみると、道のようなものがある。私はそこを歩いて、小島の奥へと向かっていく。
しばらく歩くと、小さな祠のようなものがあった。長年人が来ていないことを示すかのように、かなり朽ちてきているようだ。
「可哀想ね。周りが深い海の中になるから、誰も来なくてこうなっちゃったのね」
私はひとまず、祠にかぶっている葉っぱなどだけでもどうにかしようと考えた。
ところが、ちょっと手が触れただけで、祠が崩れ落ちそうになっている。
「ダメだわ。朽ちてきているから触るだけでも壊れちゃう」
知ってしまったからには、ちょっとどうにかしたくなってしまうのは人の性だろうか。
「アクアヒール」
建物相手に効果があるか分からないけれど、私はマーメイド族のプリンセスとして持っている魔法を使って、回復を試みる。
だけど、やはり相手が生物ではないので、思った以上の効果は得られなかった。でも、少しマシになったような気がするわ。
マシになったと思ったので、私は祠にあたらないように気をつけながら、水魔法を放って周囲のごみを吹き飛ばしていく。コントロールあまりよくないけれど、一応、祠に当たらないようにしてできたと思うわ。
「ふぅ、こんなものかしらね。それにしても、こんな祠があるなんて知らなかったわ。こういうのは、誰に聞けばいいのかしらね。おじいちゃんなら分かるかしら」
少しきれいになった祠を見ながら、私はものすごく気になってしまっていた。なんだかこの祠の雰囲気、知っているような気がするんだもの。
「いっけない。もう時間がやばいわね。そろそろ帰らなくっちゃ」
辺りが暗くなってきたことで、私はスマートフォンを取り出す。時間はもう六時前と、ずいぶんと遅くなってしまっていた。
これ以上遅くなってしまっては、診察が続いているとはいえ、おじいちゃん先生を心配させかねない。私はすぐに家に帰ることにした。
「ごめんなさい。今日のところはこのくらいでね。また来るね」
私は祠に声をかけると、来た道を戻っていく。
マーメイドの状態に戻ると、何度か振り返りながら、私は陸地に向けて泳いでいったのだった。




