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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第26話 波均命

 日曜日はおじいちゃん先生に断りを入れて、私は海の神様の神社へと向かっていく。

 木曜と金曜できれいにしたから、ちょっとくつろげると思うのよね。


「あっ、やっぱり少し魔力を感じるわね」


 神社に足を踏み入れると、少し心地よい魔力を感じる。掃除をしたかいがあるっていうものかしらね。

 私は、拝殿の前の石段に腰を掛ける。

 温暖化とか言われて、十月に入ってもまだ少し汗ばむ陽気が続いている。マーメイドのお姫様として転生した私には、少々厳しい天気かもしれない。


「にゃーん」


「あっ、猫だわ」


 ひょっこりと猫が出てきたので、私は両手を広げてしまう。

 だけど、私は油断していた。

 乗っかってきた猫が私の腕の中でおとなしくしていたんだけど、いきなりかみついてきたのよ。


「あたたた……。そっかぁ、人魚もあんたの捕食対象かぁ」


「みゃーん」


 かまれながらも、私は優しく猫を撫でている。そのおかげか、すっかり私の膝の上で落ち着いてしまっていた。

 そういえば、猫を飼おうとして、前世の両親に怒られたことがあったっけかなぁ。今は飼ってるのかぁ、ちょっと気になる。

 そんなことを思いつつ、私は晴れ渡った秋空の下で、神社でのんびり過ごしている。さすが海の神様の神社とあって、私の魔力とは相性がいいみたいなのよね。


『お前か、ここをきれいにしてくれたのは』


「うん?」


 急に声が聞こえてきた。なんかどっかで聞いたことがあるような声ね。

 私は猫を抱えたまま、きょろきょろと辺りを見回してみる。


「わっ」


 私の斜め後ろに、すごいひげの男性が立っていた。歴史の教科書で見た奈良時代ぐらいの人の姿が見える。そういえば向こうの神様もそんな感じだったかな。

 ……ということは、この人はあの神様の弟っていうことかしら。


『俺の問いに答えよ。ここをきれいにしたのはお前か?』


 つい驚いて顔を見ていると、改めて質問をしてきた。これは答えなきゃいけないやつだわ。


「はい、私です。ちょっとお力を借りたいということもありまして、誠心誠意、きれいにさせていただきました」


 私は野良猫を抱きかかえたまま立ち上がって答える。神様相手なら、座ったままは失礼でしょうからね。

 私が答えると、神様と思しき男性はじろじろと私を見てくる。普通に考えれば不審者だけど、おそらくこの人は誰にも見えていない。なので、不審者はどちらかといえば私の方だった。


『ふむ、そうか。感謝するぞ。おかげで俺もこうやって現れることができたのだからな』


「やっぱり、信仰が薄れて消えかかっていたのですか?」


『ああ、そうだ。知っているところを見ると、兄者と話したな?』


「はい。ここから山の方に行ったところにある神社でお話をさせていただきました」


『そうか。兄者め、なにかと俺のことを気にかけすぎだろう。自分のところもいつ信仰が薄まるか分からんというのにな……』


 目の前の男性は、腕を組みながらあごに手を当てて考え込んでいた。


「えっと、波均命様ですよね?」


『いかにも。海の神として祀られている波均命とは俺のことだ。やはり、兄者からの差し金か』


 太い眉と立派なひげのせいでかなりの圧力を感じる。私は思わず怖くなってしまう。

 でも、転生した世界に戻らなきゃいけないんだから、私はここで怯むわけにはいかなかった。

 ぐっとお腹に力を入れて、私は耐えている。


『おっと、すまんな。感謝せねばならぬというのに、怖がらせてしまっては本末転倒だ。そこに腰を掛けるといい』


「あっ、はい」


 波均命様に言われて、私は石段に腰を下ろす。私が座ったのを確認すると、波均命様は私の前で胡坐(あぐら)をかいていた。


『して、小娘。お前からは何か不思議な力を感じるな。望みは何なのだ?』


「えっとですね……」


 私の目をしっかりと見て質問をしてきたので、いろいろと自分の身に起きていたことを波均命様に話した。

 元はこちらの世界の人間で、波にさらわれて転生して、再びこちらの世界に戻ってきたことを。


『……なんとも難儀な話よな?』


「……私もそう思いますよ」


 聞き返されて、私はこくりと首を縦に振るしかなかった。


『なるほど、その生まれ変わった先の世界に戻りたいというわけか。で、俺にその方法を知らないかと尋ねたいというわけか。そのために神社をきれいにしてくれたのだな?』


「はい、その通りです。どうでしょうか、何か分かりますか?」


 改めて問い掛けられた私が肯定すると、波均命様は腕を組んで唸り始めた。少しすると、組んでいた腕をほどいた。


『うん、まったく分からんな』


 その時の発言に、私はずっこけそうになってしまう。


『悪いが、現段階では情報が少なすぎて俺には分からん。しかし、時期が悪い。そろそろ神の集まりに参加せねばならぬからな』


「そっか、神無月ですもんね」


『うむ。戻ってくるまでの間、小娘が調べられるだけ調べておいてくれ。今の暦なら、十一月の下旬には戻ってくるからな』


「……分かりました。頑張ってみます」


 結局、こちらの神様の手を借りられるのはまだ先みたいだった。

 でも、話ができただけよかったかな。

 その後、私は波均命様にマーメイドの魔法を見せることになった。


『おっと、誰か来おったな。では、俺はこれで失礼するとしよう。またひと月後にな』


「はい。お話を聞いてい下さり、ありがとうございました」


 私は頭を下げて感謝する。


「あっ、いつの間にか猫がいないわ」


 ふと現実に戻ると、隣にいたはずの猫が姿を消していた。

 ちょっと残念に思うと、私は神社から帰ることにする。


「おお、マイ。迎えに来たぞ」


「誰かって、おじいちゃんだったんだ」


「うん? まあいい。話は後で聞かせてもらうとしようかの。とにかく帰るぞ」


「うん、おじいちゃん」


 私はおじいちゃん先生に手を引かれながら、神社を後にしたのだった。

 いろいろと心残りをその場に残したまま。

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