第25話 警戒心の強い子
私たちは、一緒になって話をしながら買い物をしている。
なんとなく海斗の隣に行こうとする私だったけれど、間には真鈴ちゃんが割り込んできていた。
「どうしたんだ、真鈴」
「お兄ちゃんの隣は私。これは譲れない」
海斗が驚いているけれど、真鈴ちゃんは海斗の腕をつかんで私との間に挟まろうとしていた。
これって、私が嫌われているっていうことでいいのかな。海斗のことを取られると思っているってことで。
うん、ちょっとこれは予想外な行動だわ。
……それにしても、やっぱり真鈴ちゃんのことははっきりと思い出せないわね。
だけど、海斗と付き合う以上は、真鈴ちゃんとも仲良くしたいしなぁ。ここは、前世と合わせて三十年近く生きたお姉さんの余裕を見せつけないとね。
海斗と隣り合おうと思っても、真鈴ちゃんに邪魔され続けてるので、私は仕方なく真鈴ちゃんを挟み込んだ形で落ち着いている。
私たちの様子を見ているおじいちゃん先生と海斗のお母さんは、微笑ましそうに笑っていた。いや、こっちは地味に笑いごとじゃないんだけどね。
「ねえ、真鈴ちゃん」
「なに、マイちゃん」
私が声をかけると、露骨に不機嫌なトーンの声が返ってくる。
うん、これは間違いなく嫌われているわ。本当に、どうしてここまで嫌っているのかしら。私は困ったように笑うしかなかった。
結局、このなんとも言えない雰囲気の中で、私たちは買い物をするしかなかった。
話をしていると私の服を買い足そうということになったので、私と真鈴ちゃん、それと海斗のお母さんの女性陣と、おじいちゃん先生と海斗の男性陣で別行動にすることになった。
最後は食料品を買うので、一階のエスカレーターの前で集合という話で落ち着いた。
「あの、お兄ちゃんのお母さん」
「なにかしら」
「いいんですか、私の服の代金を支払ってもらっても」
私は気になっていることを素直に聞いている。そしたら、海斗のお母さんはにっこりと笑っている。
「大丈夫よ、そのくらいなら。節約は主婦の力の見せどころだもの、子どもはあまり気にしないことね」
「わ、分かりました」
笑顔で言われてしまっては、これ以上は何も言えなかった。母親って強いわ。
この話の最中も、真鈴ちゃんからは鋭い視線が向けられ続けていた。うん、もうね。なんていうか痛いくらい。
私、この視線に耐えられるかしらね。
ちょっとした不安を抱えながら、私は海斗のお母さんと真鈴ちゃんの二人と一緒に服を買いに行った。
さすがによそ様にあまりお世話になるわけにはいかず、上下のワンセットをひとつ購入するだけで終わりにしておいた。夏服を重ね着すれば、なんとかなるだろうと考えたしね。
でも、海斗のお母さんはなんだか残念そうにしていたわね。娘のいる前でそんな顔しないでほしいな。
「ねえ、お母さん」
「なに、真鈴」
「なんで、マイちゃんにそんな顔を向けているの?」
「う~ん、分からわないわね。なんていうか、気にかけてあげなきゃって気がしただけよ。真鈴も服を買ってほしかったのかしら?」
「いや、そうじゃないけど……」
母親に問い返されて、真鈴ちゃんはなぜか口ごもっていた。なんだろう……。よく分からないな、この反応は。
服を買い終わって一階まで降りてくると、すでにおじいちゃん先生と海斗は待っていた。
「お兄ちゃーんっ!」
海斗を見つけるとすぐに、真鈴ちゃんは駆け寄って海斗に抱きついていた。
「真鈴。まったく、お前は甘えん坊だな」
「えへへっ」
これだけ見れば、実に仲睦まじい兄妹に見えると思う。ただ、私の方を見てドヤ顔をしていたのだけは見逃してないからね?
真鈴ちゃんってば、自分と海斗が仲いいことを、私に見せつけているみたい。なんだろうかなぁ、完全にライバル意識むき出しって感じだわ。
だけど、私は大人だから笑って受け流してあげる。子どもにムキになっているようじゃ、大人の女性として恥ずかしいからね。
「真鈴ちゃんってば、本当にお兄ちゃんのことが好きなのね」
「ふふん。私はお兄ちゃんのお嫁さんになるんだからね」
私が笑って言うと、真鈴ちゃんは真剣に答えていた。
「あのなぁ、真鈴」
「なに、お兄ちゃん」
「兄妹は結婚できないぞ?」
「えっ……」
海斗から事実を伝えられて、真鈴ちゃんの表情が真顔になっていた。この分だと知らなかったみたいな感じね。
「嘘だぁ……」
「法律でそうなってるしな。でも、妹のお前が大事なのは事実だから心配するんじゃないぞ」
「えへへへ……」
海斗に頭を撫でられた真鈴ちゃんは、それは満足そうに笑っていた。こうしていれば、本当に可愛い子なんだけどね……。
時折見せる、私に対する敵意に満ちた表情、あれさえなければいいんだけど。私はすごく複雑な気持ちになっていた。
その後の私たちは、無事に食料品の買い物を終えて、それぞれの家族に分かれて自宅へと戻っていく。
海斗の家族は相変わらず仲がよさそうで安心したけれど、真鈴ちゃんのことが気になって仕方なかった。
う~ん、どうすれば仲良くできるんだろうな。
元の世界に戻る方法が見つかるまでこっちで生活しなきゃいけないわけで、その間を平穏にやり過ごすためにも、真鈴ちゃんとどうにか仲良くできないかと私はしばらく頭を悩ませることになってしまったのだった。




