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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第21話 嫌だけどしょうがない

 放課後、私は問題の神社に足を運んでいた。約束してしまったからには顔を出さないといけない。

 神社までやってきた私は、辺りをきょろきょろと見回した上で、拝殿の裏までやってくる。昨日、話をした場所がここだったから、今日もここにしてみたのだ。


『ほっほっほっ、よく来たな』


「話をするって約束はしたからね。神様相手じゃ、約束破ったらどんなことがあるか分からないもの」


『わしは信仰は欲しいが、そこまで厳しくはないぞ。だが、約束を守るというのは殊勝な心掛けじゃ』


「は、はあ……」


 話をしながら、大きなため息をついてしまう。


『悩み事があるならいくらでも聞くぞ。叶えることはできなくとも、指針くらいは示せるじゃろうて』


「なんでそこまでしようとするんですかね」


 私はつい聞き返してしまう。


『今の言葉で、なんと言うたかの。岐阜、安堵、定型句じゃったかの』


「ギブアンドテイクですね。なんか似たような音の日本語を並べただけじゃないですか」


『わしは相当に古い人間じゃぞ。今の日本語についていけるかというものじゃ』


「それはごもっともで……」


 田均命という神様の言い分に、私は納得するしかなかった。

 というか、古い人間のわりに岐阜は知ってるんだ……。思わず心の中でツッコミを入れてしまう。


『まあ、おぬしの悩みを聞かせるとよいぞ。昨日はわしの悩みと頼みを言うのだじゃからな』


「ま、まあ、そうさせてもらいますよ」


 完全に主導権を握られちゃっているけれど、相手が神様だからしょうがないかと、私は諦めることにした。


『……ふむふむ、お前さんは元々わしらの世界の人物じゃったのか』


 私はとりあえず自分の事情を話した。目の前に浮かぶ神様は、ずいぶんと理解してくれているみたいだった。


『自分が過ごしていた形跡はあるのに、記憶がないとな……。まるでわしらのようではないか』


 神様はそう話している。

 確かにそうだ。こうして祀られているのだから、存在していたという事実はある。だが、神様の名前を言えといわれても、名前はパッと出てこない。微妙には違うけれど、似たような状況であるのは確かかもしれない。


『誰も覚えていないわけだし、転生した世界に戻りたいというわけか』


 私はこくりと頷く。

 神様は私の置かれた状況には納得してくれたみたいだけど、何か引っかかっているような顔をしている。


『ならばやはり、わしの弟の力を借りるのがいいじゃろうな』


「ば……なんとかの命でしたっけ」


『波均命じゃな。海に関してならあやつの方がよく知っておるからの』


「ふむふむ……」


『相談するなら急いだ方がいいじゃろうて。もう十日もすれば、わしらはここを離れることになるからの』


「あ……、神無月か」


 そうだった。今月は十月だったんだ。

 神無月は文字通り神様がいなくなる月だものね。となると、あっちの海の神様を祀る神社からも神様はいなくなってしまう。確かに急いだ方がいいだろう。

 でも、私の頭には何かがよぎった。


「今の状態で行って、お会いできるんですかね?」


 そう、信仰が薄まれば神様の存在があいまいになってしまう。荒れ果てている今の状況で訪れても、私の前に現れてくれる可能性は低いおそれがあるわ。


『じゃから、巫女になれと言うておるのじゃ。水の力をまとうお前さんが巫女になれば、弟は一気に力を取り戻すじゃろうて』


「う~ん……」


 神様にこんなことを言われても、私にすっぱりと受け入れる余裕があるかといわれたら、はっきりとないっていえる。

 転生先の世界に戻るためとはいっても、こちらの世界の神様の巫女になっては、それが可能になるかといわれたら疑うしかないわ。だって、逆にこちらの世界に縛られる可能性があるもの。

 私はすぐに首を縦に振れなかった。

 神様は私のその反応は予想できていたようで、特に気にしていないように笑っていた。


『すまんな、試すようなことを言ってしまったようだ』


 そうかと思えば、神様は謝罪をしてきた。


『急がずとも、神社を掃除してくれるだけでもいい。一人でも掃除をしてくれる者がおれば、それだけでも信仰は保たれるからな』


「……分かりました。そうさせてもらいます」


『そうだ。一人といわず、誰か一緒に連れていってもらうといいじゃろう。先日のお祭りでお前さんがじっと見ておった男、彼でも誘えばいいのではないか?』


 神様が真面目にそう言ってきた瞬間、私は思わず顔を真っ赤にしてしまっていた。ずっと海斗のことを凝視していたことを、知られていたとは思わなかったからだ。


『ふふん、図星かの』


「……意地悪な神様ですね」


『わしは縁結びではないが、そういうことには目ざといものよ。特にお前さんは目立っておったからな、いやでも気づいてしまうわい』


 神様からははっきりといわれてしまった。ああ、恥ずかしいったらありゃしないわ。


『弟の扱いについて、わしからいくらか助言をさせてもらうとしよう。わしよりも気難しい男じゃったからな』


「よ、よろしくお願いします」


 どうやら私は、神様の弟の神社を世話しなければいけなくなってしまったみたいだ。

 正直言って、気が進まない。

 でも、私はマーメイド王国に戻るためのヒントを得るため、その要求をのむしかなかったのだった。

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