第15話 秋祭り当日
翌日、地元の秋祭りの日を迎える。
服装はパンツルックを選択。お祭りで神輿を引くだけだけど、運動と捉えるならその方がいいかと思ったからだ。
「法被とハチマキは向こうが用意するって言ってたから、これで十分かな」
「おーい、準備はできたかな?」
私が鏡を見ながら確認をしていると、おじいちゃん先生が呼ぶ声が聞こえてくる。
「うん、できたわよ。すぐに行くね」
私は返事をすると、最低限の荷物だけを持って家を出発した。
今日は実にいいお天気で、私はおじいちゃん先生と一緒に神社へ向けて出発する。場所がちょっと遠いのか、おじいちゃん先生は車に乗って移動していた。
「あれ、車で行くんだ」
「そりゃそうじゃ。医療器具も持っていかねばならんからな。お祭りの間は、わしは境内で待機じゃよ」
「おじいちゃんは一緒にお神輿引っ張らないのかぁ……」
「一緒に行きたいのは山々じゃが、わしは一応医者なのでな」
私はちょっと残念そうな顔をしたけれど、おじいちゃん先生は後部座席に置いているかばんに目を向けて、困ったような顔をしていた。どうやら、あのかばんに持ち出し用の医療器具が入っているらしい。医者っていうのは、思ったよりも大変そうだ。
「病気とか、私の魔法があればちょちょいって治せるのにな」
「それはいかん。他人に追い回されるようなことになってもいいのかの?」
「うっ、それは嫌……」
私がぼそっと呟くと、おじいちゃん先生に思いっきり止められてしまった。
確かに、下手に回復魔法なんて使おうものなら、あちこちから引っ張りだこになりそうだものね。そうなったらいろいろと面倒だから、いざって時以外は絶対に使わないでおこう。
そうこうとしている間に、おじいちゃん先生の車が目的地に到着したみたい。
「これはこれは波白先生。本日はよろしくお願いします」
「うむ。まだまだ暑いですからな。きちんと飲み物は用意してありますかな」
「はい。いろいろと厳しい時世ですが、やはり伝統はきちんと守っていきませんとね」
「だな。わしが後ろで控えているから、安心してお祭りを行って下さい」
「ありがとうございます」
おそらく神社の関係者の人なのだろう。おじいちゃん先生とあれこれと話をしていた。
話を終えたおじいちゃん先生は、私に声をかけてくる。
「マイや。向こうの鳥居の近くの駐車場が集合場所だよ。行ってきなさい」
「はい、おじいちゃん」
医者として現場に待機するおじいちゃん先生と別れて、私は集合場所へと向かっていった。
その集合場所には、知っている顔が何人か見える。
強制参加ではないとは言っていたけれど、幼稚園と小学生の八年生分ともなれば結構な人数が集まっていた。
「波白さん、おはよう。こっちよ」
「あ、おはよう。平川さん」
呼ばれたので顔を向けてみると、そこにはクラスの委員長である平川さんがいた。よく見ると海堂くんもいる。私の通うクラスの、だいたい二割くらいが参加している感じだけど、これって神輿を引くだけじゃないっぽいわね。
「ねえ、平川さん。これって神輿を引くだけの集まりじゃなかったの?」
「えっ、違うわよ?」
平川さんからはあっさりとそんな答えが返ってきた。なんだ、そうじゃなかったんだ。私の記憶だとかれこれ最後の参加から二十年近く経過しているから、あまり覚えてないのよね。
「そっか。波白さんはお神輿だけのつもりで出てきたんだね」
「午後から大人の人たちの神輿担ぎもあるから、神社には出店が出ているのよ。私たちはそのお手伝いに来たの」
「そっかぁ、それは知らなかったわ」
平川さんと海堂くんの言葉に、私は驚いた様子で答えている。
「う~ん、僕たちはお祭りの出店のお手伝いだから、しばらく別行動みたいだね」
うん、海堂くんはすごく残念そうにしているわ。それくらい、私と一緒にいたかったのかな。私はつい微笑ましくなって笑顔を見せてしまう。でも、私はそっちを知らなかったからしょうがない。別行動は受け入れてもらうしかないわね。
二人としばらく話をしていると、大人の人がそれぞれのお手伝いの子どもたちに声をかけて回っている。どうやら時間みたいだ。
「それじゃ、私はあっちだから」
「ええ。お神輿が終わった後は、こっちのお手伝いに合流するか帰るかの選択ができるから、またその時にでも会いましょう」
「ええ、それじゃ行ってくるね」
私は手を振って、平川さんと海堂くんと別れて、お神輿組のところへと向かっていった。
駐車場の一角に、子ども用の小さなお神輿が出されている。本来のお神輿と比べれば、見劣りは当然するものの、それでも立派な装飾がされている。
他の子どもたちが集まりつつある中、私の耳に何かが聞こえてくる。
『ほっほっほっ。今年もこの時期が来きおったか。引き回すのはいいが、信心が足りんのは困る』
私は思わず耳を疑った。
声が聞こえてきたのは、子ども用の神輿からだった。
「……いや、まさかね?」
私は空耳だと思って、みんなが集まっているところへと向かう。法被とハチマキを受け取って装着すると、いよいよという気分になる。
青空と太陽が見守る中、毎年恒例の秋祭りがいよいよ始まる。




