第13話 手を引かれて海岸へ
我慢を重ねて、いよいよ土曜日だった。
私はお昼に尋ねてきた海斗と一緒に、海岸へと向かうことになった。
おじいちゃん先生は午前中の診察の残りがあるので、その対応のために医院に残っている。
「えっと、どこに行くの?」
「海岸」
手を引かれた私が海斗に尋ねると、海斗は一言だけ答えてくれた。
ひと口に海岸といっても、海沿いのこの街にはとんでもなく長い海岸線が続いている。その海岸のどこなのかというのが、まったくもって分からない。
海斗の言うことだから、あんまり悪くない場所なんだろうと思いつつ、私は手を引かれながら一緒に歩いている。
(うう、手を握られているだけで、心臓がバクバクしてるわ)
転生した後からというもの、私は海斗をかなり意識していた。だから、向こうは妹の手を引いている程度の感覚なんだろうけど、私からすれば好きな人から手を引かれているので、ドキドキしてしまっているのだ。
あまり海斗の顔を見られないまま、私は海岸沿いのとあるポイントまでやってきた。
「ここは?」
「ここは用水路だな。地下を流れているから外から目立ちにくい。周囲も民家だし人の目はあまり気にならない。なによりもここだな」
海斗はそう言って、用水路の出口の天井を見ている。
「あっ、何かフックのようなものがある」
そう、何か出っ張ったものがあるのよ。ということはかばんに入れておけば、ここに吊るせるってことかな?
「これが何のためにあるのかは分からないんだが、何かを設置するためについてるんだろうな」
「へえ、不思議なの……」
あまりにも不思議な光景に、私は用水路をきょろきょろと覗き込んでいる。
「ってわけだ。調査するならここを使えばいいと思う。靴だけが海岸に残っていると、絶対悪い想像をする奴が出てくるからな」
「うん、それは気をつけるよ。ありがとう、お兄ちゃん」
私は注意することを約束しながら、海斗にお礼を言っている。
すると、海斗は提げていたかばんを私に渡してくる。
「これ、使えよ。ぼろくなってきたから、ちょうど新調しようと思ってたからよ」
「えっ、えっ?」
かばんを押し付けられて、私は目を丸くしてしまっている。
その私の目の前にいる海斗は、なんだか照れくさそうにしていた。
私がわけが分からない様子でいると、海斗は私に話しかけてくる。
「それじゃ、二時間後にまた迎えにくるぜ。先生が車で近くまで来てくれるみたいだし、そしたら買い物に行こうぜ」
「あ、そっか。今日土曜日だっけか」
「おい、忘れんなよ」
私がぼけた反応をしていると、海斗から思いっきりツッコミをされてしまう。びっくりして忘れちゃっただけよ。
「それじゃ、二時間きっちり海を調べてくるんだな」
「うん、ありがとう」
海斗はその場から立ち去っていく。
まあ一緒にいられないわよね。服を脱がないと足をマーメイドの状態に戻せないから。再会したあの日のことがあるから、なおのこと海斗は一緒にいられなかったでしょうね。
私は海斗にもらったかばんに靴と服を入れると、用水路の天井から吊るしておく。
しっかりと準備が整うと、そこから海の中へと潜っていった。
マーメイド特有の魔法で、海の中でも私は特に濡れることなく泳ぐことができる。
九月に入ったとはいえどもまだまだ外は暑い日々が続く。そのおかげか、海の中は少しだけひんやりとしたように感じる。
用水路のある場所は周りも深くえぐれているので、沖合に出るのにもちょうどいい場所だった。本当に海斗には感謝しないとね。
その深い場所に沿って沖合へと出ていく。
十分沖に出たかなと思ったところで、私は一度海面に顔を出す。
「ぷはっ!」
水中でも息はできるので、別にこんなことになるわけはないんだけど、ついこんな反応をしてしまう。やっぱり人間時代のイメージが強いってことなんだろうな。
「えっと、この辺はっと……」
周りを見て、私は現在地を確認する。かなり遠いというのに、私の目にははっきりと海岸の状況がよく見える。あまり意識してなかったけれど、マーメイドって結構目がいいのね。
遠くに特に車が行き交う場所を確認できたので、私はその近くを重点的に調査をすることにする。
予想はしていたけれど、思ったよりもごつごつとした岩場が広がっていて、油断をすると服を引っかけてしまいそうになる。せっかくおじいちゃん先生たちと一緒に買ったワンピースなのに、破いてしまったら申し訳ないわ。
私は時間の許す限り、海の中を見て回る。だけど、どこを見ても何の変哲もない海底で、これといった情報を見つけることはできなかった。
(そろそろ、海斗との約束の時間ね。二時間じゃあまり見て回れなかったけれど、海岸付近は特に何もなさそうだったわね)
時間が差し迫ってきていたので、私は諦めて用水路のところまで戻っていく。
気配を消す魔法を使うと、私はその中で陸上用の姿に戻って服を着ていく。はあ、本当に魔法って便利だわ。
魔法を解除して、私は海岸から上がる階段のところへと向かう。
結局、異世界とつながる接点は見つからなかったけれど、海斗とかなりお近づきになれただけでも今日のところはよしとしよう。うん。




