第12話 遠い海の中
私は早速、翌日から……と思ったものの、水曜日は午後が休診なので木曜日の放課後から調査を始めることにした。
ちょっと遅くなることはおじいちゃん先生に伝えておいたので、夜の7時くらいまでは大丈夫だと思う。
私は一度家に帰ると、すぐに出かけることにする。家の前の駐車場には意外と車があるけど、子どもってそんなに病気しやすかったっけな。
ちょっと気にはなるけれど、私はそのまま海へと向かっていった。
車が行き交う生活道路を渡って、私は海岸線へとやってきた。もう夕方の4時だっていうのに、まだまだ辺りは明るい。
私は準備運動をしてから、自分に魔法をかける。水中でも活動が大丈夫なマーメイドの姿に戻る。しかし、私はそれを見て困ってしまった。
「あ~……。これはよろしくないかな」
そこにあったのは、私の下半身の服だった。上半身は着たままでもいいんだけど、下半身の服はそのまま海岸に置き去りになってしまう。
(これじゃまるで入水自殺じゃないの……。これはもっと考えた方がよさそうね)
目の前にある靴やら靴下を見て、私は一度考え直すことにした。
(アクアイリュージョン)
私は自分の周りに水の膜を展開して、自分の姿を見えなくする魔法を展開する。
これはマーメイド族の身を守る魔法で、だいたいのマーメイド族が使える魔法だ。プリンセスである私は当然ながら使うことができる。
でも、この魔法は欠点がある。
パーンッ!
「あっ……」
そう、持続時間が短いこと。
私の魔力だとせいぜい10分ってところかな。これじゃ潜って調査している間、荷物を隠しておくことなんてできない。
(むむむ……。荷物の問題をどうにかしなきゃ、調査は無理だわ。どうしようかしらね……)
仕方ないので人間の姿に戻って服を着る。
(魔法、解除)
ボソッとつぶやいて、自分を囲う魔法を解くと、私は家に戻ろうとする。
「おいっ」
その時だった。
頭の上から声をかけられてしまう。
「あっ、お兄ちゃん」
誰かと思って見上げてみると、そこにいたのは海斗だった。
なんでこんなところにいるんだろうと思ったけど、私はとりあえずにっこりと笑顔を向けておいた。
「まったく、こんなところで何をしてるんだ。見つけたのが俺だったからよかったものの、知らないやつだったらどうするつもりなんだ?」
「あは、あはははは……」
どうやら、私が突然姿を現すところを見つけてしまったらしい。そうだった、ここ生活道路の脇だから、その気になれば人が結構見てるのよね。護岸の下だからって油断していたわ。
「ほら、こんなところで一人でいると危ないぞ。連れて帰ってやるからこっちに上がってこい」
「うん、お兄ちゃん。ごめんね」
私は海斗に言われるまま、護岸の上に上がることにした。階段のある場所までとにかく移動して、そこで合流する。合流したところで、私は頭に軽くげんこつを当てられてしまう。
「まったく、危ないことをするんじゃない。家まで送ってやるから」
「うん、ありがとう、お兄ちゃん」
私は言われるままに手を差し出す。
その手を海斗が握りしめると、私は思わずドキッとしてしまう。
同級生だった頃にはただの幼馴染みだったんだけど、異世界転生してから自覚した海斗への想い。そのせいで、手を握られただけで、私はドキドキと心臓が高鳴ってしまう。
(うう、おさまって、私の心臓……!)
私は手をつないでいない左手を胸の前で握ると、つい下を向いてしまう。
「前を見てないと危ないぞ」
怒られてしまった。
でも、私は今、どういう顔をして海斗を見たらいいのか分からない。なので、海斗の方を見ないようにして、顔を上げることにした。
「なあ、お前」
「なに、お兄ちゃん」
顔を見れないまま、海斗の声に反応する。
「あんなところに何のためにいたんだ?」
どうやら海岸にいたことを問い詰められそうになっているようだ。
だけど、ここは正直に答えておいた方がいい気がするので、私は正直に理由を話すことにした。
「海の中を調べれば、元の場所に変える方法が見つかるんじゃないかと思って……」
「そうか」
私の答えに、海斗は一言だけ反応していた。
「お兄ちゃんは、どうしてあそこにいたの?」
私は質問をし返す。
「ただのジョギングだよ。何をするにも体力が必要だからな。ただそれだけだ」
「そっか……」
海斗のそっけない答えに、私はただ小さく反応するだけだった。
結局、その後はろくに話もしないまま、私はおじいちゃん先生の家まで送り届けられてしまった。もうちょっと会話をしてみたかったんだけど、何を話していいのか分からなくてそのままだった。
「ほら、着いたぞ」
「あ、ありがとう、お兄ちゃん」
おじいちゃん先生の医院に到着して、私は海斗と別れることになってしまった。
「まったく、海の中を調べるんだったら、今度俺がいい場所を教えてやるよ。あんな目立つところでしようとするな」
「えっ?」
その別れ際だった。海斗は私にそんな声をかけてきてくれた。
「俺は部活をやっている関係で朝夕に走り込みをしてるからな。穴場のような場所を知ってるから、そこを使えって言ってるんだ」
「いいの?」
海斗の言葉に、私は目を輝かせてじっと顔を見る。私にまじまじ見られて恥ずかしいのか、海斗は思わず顔を背けてしまっている。
「そんなにじろじろ見るな。とりあえず日曜日、次の日曜日に連れていってやるから」
「うん、約束だよ、お兄ちゃん!」
私は両手を握りしめてにっこりと微笑む。
しっかりと約束した私たちだけど、海斗は調子が狂うなというような感じで首を振りながら家へと帰っていったのだった。




