第107話 海斗の応援へ
あっという間に四月が過ぎ去ってしまい、世の中はゴールデンウィークに突入する。
「よし、服装に気合いは入れたわ。少なくても一回戦は突破できるようにしっかり応援しなきゃ」
服を着替えた私は、むんと両手を握って鏡の前でやる気をたぎらせていた。
上は長袖のブラウスで、下はスカートだけど、長いレギンスを合わせたものにしているわ。髪にもワンポイントのアクセントのリボンを着けている。どうよ、この気合いの入れ具合は。
鏡の前で改めてチェックしていると、おじいちゃん先生が部屋にやってきた。もちろん、ノックをしてからよ。
「わしがついていけんですまんな。連休中とはいえ、何かあれば出ていかねばならんのでな」
「おじいちゃんはお医者様だもの、しょうがないよ。おじいちゃんの分も、私が精一杯応援してくるわ」
「うむ、頼むぞ」
私が胸の前で拳を握って宣言すると、おじいちゃん先生はこくりと頷いていた。
しばらくすると、家の前に車がやってくる。
今回の県大会の応援は、海斗のお母さんが連れていってくれることになっているから、多分今到着したってことだろう。
私は玄関へと向かっていき、靴を履く。
あっ、体育館での試合だから、ちゃんと体育館用の上履きも持っていかなきゃ。思い出した私は、いったん靴を脱いで家の中へと戻っていく。
「マイ、忘れ物か?」
「うん、上履き。体育館は土足ダメだったはずだからね」
「まあ、そうじゃのう。偉いぞ、マイ」
「えへへへ」
褒められて照れながら、私は上履きを持って玄関に戻ってくる。
改めて靴を履くと、私はおじいちゃん先生の方をじっと見る。
「それじゃ、行ってきます」
「うむ。気をつけて行ってくるのじゃぞ」
挨拶を交わした私は、いよいよ外へと出ていく。
「遅い」
「ごめん。ちょっと支度に手間取っちゃった」
外に出ると、腕組みをした真鈴ちゃんが仁王立ちしていた。
暑いといってもいいくらいの気候なせいか、半そでブラウスにキャミソールを重ね、ハーフパンツというアクティブな格好をしている。これでも千数百年も前の人間だっていうんだから、驚きよね。私よりファッションセンスがいいわ。
「な、何よ……」
「いや、真鈴ちゃんが可愛いなと思ってね」
「ば、バカ! な、何を言っているのよ。まったく、さっさと行くわよ」
むっとした顔で私に声をかけてくるものだから、正直なことを返しちゃったわ。そしたら、真鈴ちゃんは顔を真っ赤にしながら怒っていた。
わーお。これが俗にいうツンデレなのかしら。やばい、真鈴ちゃんが過去一可愛く見えてきたわ。
「もう、早くしてよ。お兄ちゃんの試合に遅れるわよ」
「あ、うん。行きましょう」
真鈴ちゃんに怒られて、私は慌てて車へと乗り込む。
おじいちゃん先生に見送られながら、私たちは試合会場となる県民体育館へと向かっていった。
県の中心部までは結構時間がかかる。渋滞に巻き込まれでもしたら、間に合わない可能性が出てくる。
なんといっても世間はゴールデンウィークだから、その可能性が十分考えられるというものだわ。だからこそ、朝一で出てきたんだけどね。
ちなみに、海斗たちバスケットボール部の人たちは、そういったことによる遅れがないようにと、会場近くで泊まっているらしい。費用は県の方が持ってくれるということで、とても安心というものだわ。
そんな状況なので、県大会は朝の九時から始まる。
私たちが出発した時間は朝の七時なので、下手をすると間に合わない可能性すらある。
「海斗の試合は、昼前の予定ね。十時半のはずだから、とりあえず間に合うと思うわ」
「そ、そうですね」
そわそわしている私たちに対して、海斗のお母さんが声をかけている。心配するのはいいけれど、落ち着きなさいといったところかしらね。
「でも、お母さん」
「慌ててもいいことはないわ。とにかく、海斗が勝てるように祈っていましょう」
「はい……」
真鈴ちゃんが心配のあまり言い返そうとしていたものの、海斗のお母さんはさらりと言い聞かせていた。
さすがの悪霊も、母親には勝てないみたいね。こんなにしょんぼりしている真鈴ちゃんは初めて見た気がする。
とはいえ、確かにここで取り乱していてもしょうがないものね。
だったら、会場に着くまでの間、ゆっくり休ませてもらおうかしらね。
早起きした反動もあったせいで、私は車の後部座席ですやすやと眠ってしまっていた。
かすかに、「信じられない」という真鈴ちゃんの声が聞こえた気がするけれど、遠のく意識の中では、はっきりと聞き取れなかった。
どのくらい眠っただろうか。
私の体が激しく揺さぶられている。
「起きなさいってば、マイ!」
「うん……真鈴ちゃん?」
どうやら、私は真鈴ちゃんに起こされてしまったらしい。
「到着したから、さっさと中に入るわよ。ぼさっとしないでちょうだい」
「あ、うん」
真鈴ちゃんに怒られて、私は目をこすりながら体を起こす。
車から降りると、そこにはかなり大きな建物が建っていた。
これが、バスケットボールの大会が行われている県民体育館だった。あまりの大きさに、私はびっくりしてしまう。
そりゃ、マーメイドのお城に比べれば小さいけれど、地元じゃこの大きさの建物なんて、役場くらいだからね。
「ほら、さっさと行くわよ」
「うん」
私は真鈴ちゃんに手を引かれながら、車を降りて会場へと向かっていった。




