第102話 顔を合わせる水使いたち
新学期が始まったのはいいものの、元の世界に帰る手段も海斗との仲もまったく進展しない。
最初の週末、私は真鈴ちゃんとお出かけをすることになった。
「なんで、私があんたと一緒に出掛けなきゃいけないのよ」
「いいじゃないのよ。真鈴ちゃんが私が転生先に戻れるように協力してくれれば、海斗を独占できるのよ?」
「むぅ、それならしょうがないわね」
不満そうに頬を膨らませている真鈴ちゃんだったけど、海斗のことを出すと途端に協力的になってくれた。やっぱり、真鈴ちゃんは海斗のことが本当に好きなんだなって思う。
元々は前世の……というか、生きていた時代の恋人の魂を感じているからなんだけど、見ている限り、真鈴ちゃんは今の海斗のことも好きっぽい感じなのよね。だからこそ、私とはライバルになるんだけどね。
でも、こうやって見ていると、真鈴ちゃんはとても一千年以上前の人物には見えないわ。今の時代に、本当によく適応していると思う。
「真鈴ちゃんも、頑張って来たのね」
「な、何よ……」
「だって、学校で習うところの弥生時代とかの人でしょ? 時代が違い過ぎて文化も言葉も別物なのに、十年でよく適応できたなって感心しているのよ」
「ま、まあね……。一応、あの小島からこっちのことはずっと見ていたもの」
私が褒めると、真鈴ちゃんはものすごく照れくさそうにしている。その姿を見て、私はとにかく微笑ましくてにこにことしてしまう。
「まったく、気持ち悪いわね」
真鈴ちゃんはふいっと顔を背けてしまっていた。
そんな私たち二人がやってきたのは、波均命の神社だった。ここに真鈴ちゃんの手下にされた猫が住んでいるからね。ちょっと様子を見に来たのよ。
「なんで、ここに」
「いや、やっぱりここは情報を集めないといけないからね。私が転生した世界に戻るために、波均命様に手伝ってもらっているから」
「ああ、そういう……。でも、私は嫌なんだけどね」
神社の鳥居を前にして、真鈴ちゃんはやっぱり強く警戒している。
時代が近いって言っていたから気まずいのは分かるけれど、とにかく会ってもらった上で情報をすり合わせてもらわないとね。真鈴ちゃんが私のことを邪魔だと思うなら、しっかり手伝ってもらわなきゃ。
いやがる真鈴ちゃんの手をがっちりと握りしめると、私は無理やり神社の敷地の中へと連れ込んでいく。
「ちょっと、痛いってば」
痛いとは言うけれど、私は手を離さなかった。
そのまま、どうにか本殿までやってくる。私が真鈴ちゃんの方へと振り返ると、なんだかとても意外な顔をしていた。
「なんで、ここに無事に踏み入れられるのよ……」
『そりゃな。俺が入れるようにしたからだ』
「誰よ!」
驚く真鈴ちゃんに声がかけられる。突然の声に、真鈴ちゃんが声を荒げている。
「波均命様」
『おう、小娘か。今日は何の用だ』
よく見ると、本殿の階段に波均命が姿を見せている。隣には真鈴ちゃんが下僕と呼んでいる猫の姿もあった。
「いや、情報のすり合わせをしようかと思いましてね。真鈴ちゃんにも来てもらってんですよ」
『うげっ。なんで主がいるのにゃ』
「うげっとは言ってくれるわね、この下僕」
トラ猫の反応に、真鈴ちゃんは鋭い視線を向けている。真鈴ちゃんの怒りに満ちた視線に怯んで、トラ猫は波均命の背後に慌てて隠れていた。だったら言わなきゃいいのに、まったくもう。
真鈴ちゃんとトラ猫のやり取りに、私は思わず苦い顔をしてしまう。
『その娘、真鈴というのか。ふむ、何か見たことがあるような気がするな……』
「な、何よ……。私の顔になんかついているわけ?」
『なるほど、その気配。俺の結界の緩みを感知してこっち側に渡ってきた悪霊か。ずいぶんと可愛らしいやつだな』
「ほ、褒めたって、私は絆されないからね」
波均命がまじまじと見つめながら、真鈴ちゃんのことを話している。やっぱり、波均命が話していた侵入者は真鈴ちゃんのことだったみたい。
ということは、私が異世界転生する原因となった高波は、本人のいっていた通り、真鈴ちゃんが引き起こしたもので間違いないってわけか。
「真鈴ちゃんってあんな大規模に水が操れるのねマーメイドプリンセスである私だって無理なのに、すごいじゃないの」
「そ、そうかしら……。なんか、あんたに言われると複雑な気分だわ……」
素直に褒めると、真鈴ちゃんはツンデレの本領発揮といった感じだわ。
私は被害者ではあるんだけど、真鈴ちゃんを見ているとなんだか恨むっていう気持ちが出てこない。
奇跡的な状況ではあるけれど、私はこうやって生きているしね。過ぎたことだから気にしすぎてもしょうがないというところかしら。
それに、今は真鈴ちゃんの協力が不可欠だから、こじらせては解決が望めなくなるわ。だから、敵対をするよりは、許してあげる方がいいと思う。
『とりあえず、本題に入ろうではないか。さっ、本殿に入ってくれ。あまり人に見られたくはないだろう』
「そうさせてもらうわ」
「お邪魔しますね」
情報のすり合わせのために、私たちは波均命の神社の本殿へと足を踏み入れる。
はたして進展が見られるのかしら。淡い期待を抱きながら、私たちは本殿の中で腰を下ろした。




