第101話 新しい春
いよいよ、四月になって私は中学生になった。
真新しい中学校の制服に身を包み、私は自分の姿を確認している。
「セーラー服なんて、久しぶり過ぎるわ」
「マイ、似合っておるな」
「おじいちゃん、ノックした?」
「したぞ。その様子では、聞こえておらんかったようじゃな」
セーラー服姿をまじまじと見つめていると、知らない間におじいちゃん先生が入ってきていた。ノックはしたらしいんだけど、まったく気が付かなかったわ。
「今日は入学式に参列するから、午前中の診察はお休みじゃ」
「もう、無理しなくてもいいのに」
「わしの夢を否定せんでくれ」
私が呆れ気味に休診のお知らせに返していると、おじいちゃん先生からは本気の嘆きが返ってきた。
おじいちゃん先生、娘さんが結婚以降帰ってきてないからか、孫の成長を見守りたがってたものね。
そこにやってきたのが異世界帰りの私なわけで、おじいちゃん先生ってば私のことを孫娘のように大切にしてくれているのよね。少し過保護にも思えるけれど、おじいちゃん先生の身の上を考えれば、そうなるのも致し方ないかなって思う。
とりあえず私は、おじいちゃん先生と軽く話をして、学校に向かうことにした。
真新しい制服に、そこそこの暖かい陽気。なんとも心が弾むものだわね。
なんといっても、この制服を着たのは十五年ぶり。こちらの世界だとたった二年しか経ってないのにね。転生したおかげでなんとも久しぶりだわ。
「あっ」
私が歩いていると、目の前には真鈴ちゃんの姿があった。
「やあ、マイ。制服似合ってるじゃないの」
真鈴ちゃんは私の制服姿を褒めてきてくれている。どことなく恥ずかしそうにしているのは、気のせいかしらね。
だけど、真鈴ちゃんから褒められて、私は悪い気がしない。以前に比べれば、仲良くしようとしている気持ちは感じ取れるし、お互い実年齢と見た目が一致しない仲間だものね。
ただ、海斗をめぐってはライバル同士だから、そこまでなれ合えるかどうかっていう問題はあるかな。まぁ、あんまり気にしないけれど。
「なに、ぼーっと見ているのよ」
「あっ、ごめん。なんか、真鈴ちゃんに優しくされるっていうのに慣れなくてね」
「……うるさいわね。確かに、今までは悪かったと思うけど、はっきり言わないでくれるかしら」
真鈴ちゃんは私に手を差し出したまま、怒ったような顔をして目を背けていた。
以前ならむすっとしたところだろうけど、真鈴ちゃんのことをちょっと知ったがために、なんだか可愛い反応に見えてきてしまう。
「もう、笑わないでよ。ほら、学校に行くわよ」
「うん、行こう」
相変わらず不機嫌そうな真鈴ちゃんだけど、私は差し出された手を取って、一緒に中学校へと向かっていく。
中学校にやって来ると、下足場の前には学生たちの集まりができていた。新年度恒例のクラス分けの掲示を見る人だかりだわ。
真理ちゃんも自分のクラスを見るために、ここで私とは別行動になる。ただ、一年生の教室がどの辺りにあるかだけはちゃんと教えていってくれた。うん、私が通っていた頃と違っていない。
とはいえ、真鈴ちゃんなりに心配してくれているので、そこは嬉しかったかな。
さてさて、私はどのクラスだろうな。
改めて、私はクラス分けの掲示を確認しに行く。
「あっ、波白さん」
不意に名前を呼ばれたわ。
誰かと思って顔を向けると、そこには平川さんの姿があった。同級生だから、そりゃ当然いるわよね。
「平川さん。おはよう」
「うん、おはよう。同じクラスだね」
「あっ、そうなんだ」
これからチェックしようとしていたのに、平川さんにさらっとばらされてしまった。私は反応に困ってしまう。
「あ、ごめん。今から見ようとしてた?」
「うん、ちょうど今、来たところだったからね」
「あらら、ごめんなさい」
確認をしてきたので私が正直に答えると、平川さんは本当に申し訳なさそうに小さく頭を下げていた。
私は責めるつもりはないんだけど、謝られてしまうと、どう返していいのかな……。
「僕も同じクラスですよ」
これまた突然声が聞こえてきたので、私はくるりと振り向く。そこにいたのは、同じこっちの世界に戻ってきてから知り合った海堂くんだった。詰襟の学生服が、意外と似合っているわね。
それにしても、何の因縁かしらね。この三人で同じクラスとは。私は思わず笑ってしまう。
「えっと、波白さん?」
「あっ、ごめんなさい。なんだか、ちょっと楽しみになっちゃってね」
私は笑ったまま、適当にごまかしておく。だけど、二人とも私の反応に困惑しているみたいだわ。
「なんでもないってば。それじゃ教室に行きましょう。初日から遅れるなんて嫌だからね」
「そ、そうね。いきましょうか」
「あっ、待ってくれよ」
私が移動しようと促すと、二人とも慌てたような反応をしていた。なんだか、こういう反応が懐かしいわ。
以前のことを思い出して、ちょっとだけ涙が出そうになるわね。
どういう判断になるか分からないけれど、とりあえずは、この時をしっかり楽しむことにしましょうか。
転生前の世界に戻ってきてから半年。私にとって二度目の中学生生活が、こうやってにぎやかに始まりを迎えたのだった。




