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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第100話 季節の変わり目

「はぁ~、疲れたわ……」


 家に戻ってきた私は、おじいちゃん先生への挨拶もほどほどに、自分の部屋の中でうつぶせに倒れていた。

 まだ春先だっていうのに思ったより暑いから、エアコンだけはちゃんと動かしてあるわよ。マーメイドな私は暑さにも寒さにも弱いんだから。ああ、エアコンという現代の文明の利器はすごいわ。


 あの後、離れ小島で祠をもう少しきれいにしておいた後、私は真鈴ちゃんの能力で海の上を歩いて戻ってきた。マーメイドになったとはいえど、海の上を歩くなんてしたことなかったので、実に新鮮な体験だったわ。私の魔法じゃ、そんなこと不可能だからね。

 それにしても、呪術なんて実際にあったのね。私を高波でさらったり、私に関する記憶を消したりしているんで、信じるには十分だったけどね。

 ただ、そんな真鈴ちゃんでも、私がこっちの世界に戻ってきた理由は分からなかったらしい。私が戻ってきたことは、真鈴ちゃんにとっては予想外だったってことよね。

 だとしたら、一体誰が何のために、こんなことをしたんだろう。

 いやまあ、私が海斗に未練があるのは事実だったんだけど、わがままでピクニックに出かけたところで水竜巻に襲われて戻されるなんて、さすがに想像はできなかったわ。


「私は、別に向こうの世界のままでもよかったんだけどなぁ……」


 ごろんとあお向けになると、天井を見上げながら私はつぶやいた。

 そう、私は何もマーメイドの生活に不満があるわけじゃなかった。だって、プリンセスっていう王族になったんだもの。いろいろと作法とか大変なことはあるけれど、衣食住にはまったく困ることのない生活だったからね。

 まあ、海斗に対する未練があったのは事実だしなぁ。こっちに戻ってこれたことだって、悪いことだとは思っていない。でも、前世の私についてはおじいちゃん先生以外はまったく覚えていない状況なのよね。そのおじいちゃん先生だって、最初から覚えていたわけじゃないけどね。


 そうそう、あのトラ猫なら、帰りがけに波均命の神社によって預けてきたわ。どういう反応をされるかと思ったけれど、波均命も意外とあっさり受け入れてくれていたわ。

 かなり昔に生きていた人間と妖怪となった猫だから、どこか似たような感じなのかもしれないわね。

 ちなみに真鈴ちゃんは、波均命とは顔を合わせづらかったのか、神社に寄っている間は、鳥居の外でずっと待っていたわね。似たような時代に生きていたって言っていたから、気まずい雰囲気になるのを避けたかったんでしょうね。うん、気持ちはなんとなく分かるわ。

 それにしても真鈴ちゃんのことは思い出せば思い出すほど不思議だった。

 初めて会った時から、本当に海斗の妹のようになじんでいた。私もすっかりだまされていたものね。


「いやまぁ……、まさか存在しない記憶を現実に体験するとは思ってもみなかったわね。よくよく思い出してみれば、海斗も一人っ子だったもの。私と一緒でね」


 私は体を大の字にしながら、おかしくて笑ってしまっていた。


「正体が悪霊と分かったのなら、私だって海斗は簡単に渡すつもりはないわ。今の姿の故郷に戻りたいけれど、真鈴ちゃんと宣戦布告をしあったんだもの。諦めないからね、私は」


 天井に右手を突き出すと、その拳をぎゅっと握りしめる。


「よしっ」


 私は体を起こすと、服を着替え始める。夕方の海斗のランニングに付き合うためだ。

 普通のお出かけ用の服装だったところを、運動用の服へと着替えると、私は早速家を出ていく。

 前は持っていなかったんだけど、中学生になるからっていうことで、長期滞在を見越して買ってもらったのよね。おじいちゃん先生の家計が気になるところだけど、おじいちゃん先生は笑ってお金を出してくれたわ。本当に大丈夫なのか心配になるけど、本人がいいならまあいっか。

 私はいつもの集合場所にやって来ると、海斗と真鈴ちゃんが既に待っていた。


「お待たせ」


「なに、あんまり待ってないさ」


「八分も待ってたなじゃないのよ。もう、マイってばのんびり屋さんなんだから」


 私が挨拶をすると、海斗は笑顔で答えている。だけど、真鈴ちゃんからツッコミをされて、海斗は苦笑いをしていた。

 普通の会話をしていると思うと、なんだか私はおかしくて笑ってきてしまう。


「ちょっと、笑わないでちょうだい。遅れてきたのよ、分かってるの?」


「ごめんごめん。それじゃ、すぐにでも行きましょう」


 ぶすっとした表情を見せて怒る真鈴ちゃんに、つい平謝りしてしまう。


「やっぱり、私はあんたが嫌いだわ。絶対お兄ちゃんは渡さないんだから!」


「おいおい、真鈴は何を言っているんだ。とにかく行くぞ」


「うん。行こう、お兄ちゃん」


 おかしくて笑いながら、私は海斗の言葉に頷いていた。

 私たちは、夕方の町の中を三人で並んで走っていったのだった。


 来週には、私は二度目の中学生になっちゃうのかぁ。嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気分になってくる。

 単純にマーメイド王国に戻りたいと思っていた私だけど、真鈴ちゃんとの和解があってからというもの、徐々に気持ちは揺れ始めていた。

 本当にこのまま戻るだけでいいのか、それとも海斗と恋仲になるべきなのか。

 心の中で迷いはだんだんと大きくなっていく。

 暑さと寒さの不安定な気候のように、私の気持ちはだんだんとその揺れ幅を大きくしつつあった。

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